表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕はテイマー  作者: 鳥越 暁
伯爵昇爵と領内経営
96/147

クロムの所領(2)

デンネンカルロ子爵領の産業は銀山に依存しており、鉱夫、運搬、銀貨への加工の仕事に領民のほとんどが従事している。

子爵の元へ財が集まるようになっていて、庶民の暮らしは貧しい。いわゆる、労働力を搾取されている状態だ。

クロムが分与された領も貧しく、領民は700名程だ。広さは3k㎡で、半分程が点在する雑木林、自給のための田畑が1/4、残りの1/4にバラけて人々が暮らしている。銀山の周囲なので丘陵地帯である。

 10日ほど馬車に揺られて、クロム領に着いた。


 道中、馬車の窓から眺める景色は、ずっと見ていても飽きなかった。

 荒野がどこまでも広がっているかと思えば、コルメイスやシムオールとはまた趣の違う街並みを抜けたり、街道沿いに市が立っていて色とりどりの布や香草が並んでいたり。

 大きな河川を渡るときなんかは、水面がきらきら光っていて、それを渡るスネークタイガーたちの足音が橋に響いていた。


 普通の馬車なら、優に1か月はかかっていただろう。スネークタイガーたちの脚力は本当にすごい。

 馬車は2台あって、1台はお土産をみんなが詰め込んでいた。僕はほとんど任せきりだったけど、問題ないと思う。


 僕たちを出迎えてくれたのは、領主代行を務めている3人の元クロムの従者たちと、シルビィユだ。


「おお、お嬢様! お久しぶりでございます。ううぅぅ」


 挨拶をするより先に、代行たちはクロムの手を取り、いきなり泣き出した。


「こ、こら! ご挨拶がまだですよ」


 僕たちへの挨拶はそっちのけで、自分クロムの手を握って涙を流す代行たちを窘めるクロム。けれど、その顔はやっぱり嬉しそうだった。


 代行たちと挨拶を済ませて、僕らはクロムの屋敷へ入った。

 所領として定められてから建てた屋敷は、広くて新しくて、とても綺麗だ。新築の木の香りが心地いい。


 状況を聞いてみると、やはりデンネンカルロ子爵による嫌がらせは、水面下で続いているらしい。表立った交流はまったくないという。


「みんな、苦労しているんだね? 食べ物とか十分に行き渡っているの?」


「それはシルビィユ様にお世話になっております」


 名前を出されたシルビィユが、代行たちに代わって説明してくれた。

 姉さんが状況を予想して、先に食料を援助していたそうだ。対価は銀塊。

 そういえば、そんな話を姉さんから聞いた気もする。


 屋敷を出て、シルビィユの案内で銀山へ向かう。

 数歩進むだけで、周囲の壁や地面、天井に鉱脈が走っているのが目に入る。

 思ったより中は明るい。夕暮れより少し暗いくらいで、人の顔もちゃんと見える。


 不思議に思っていると、坑道の脇に生えている草が乳白色に光っていた。


「わあ、草が光ってるよ! なんか綺麗!」


 さっきまで「難しい話は私には分かんないから」と言って居眠りしていたチョコレッタが、急に生き生きしてテンションが高い。


「ギンザンソウですよ。特に珍しくないですよ」


 クロムが説明してくれるけれど、ご当地ではそうかもしれないけど、一般的には珍しいんじゃないかな。

 アンフィが目を輝かせているもの。

 一応は僕の奥さんとしての立場を意識して、冷静を装っているけど、僕には分かる。


「クロム。2、3本、標本にしたいので後で採集しても宜しくて?」


 やっぱり、持って帰るつもりらしい。

 「後で」と言いつつ、クロムが了承すると、すぐに採り始めていた。


 先へ進むと、少し暗くなった。ギンザンソウがまばらになったせいだ。


「この辺りはケイブシープが食べたのですよ」


 銀山の洞窟には「ケイブシープ」という羊の魔物がいるらしい。

 大きさは50cmくらいで、ふさふさした毛に覆われているけど、その毛を除くと本体は10cmくらいしかないんだって。


「ギンザンソウを食べてしまうのは困りものですが、役に立っているのです。

 彼らの排泄物は純度の高い銀なのです。それを集めて、通常よりも高純度の銀塊にしています」


 へえー。変わった魔物だ。


 チョコレッタが「飼いたい!」って言い出して、クロムやシルビィユに一生懸命に説明し始めた。


「大丈夫です! 毛を刈れば小さくなるから場所も取らないし、鳴き声も小さいし、ちゃんとお世話するし! きっと役に立つと思うんです!」


 両手をぶんぶん振りながら、息を切らして訴えている。


「はいはい、分かったから。そんなに力説しなくてもいいよ」


 害のない魔物みたいだし、クロムが許すなら問題ないだろう。


 採掘現場はかなり広く、ちょっとしたドームみたいになっていた。

 中には4、50人が作業している。

 こんな現場が5か所もあるらしい。日によって掘る場所を変えるのだという。


「無理な労働をさせないようにしてね」


 シルビィユにそう言っておいた。


 僕は少しほっとした。

 鉱山といえば、暗くてジメジメしていて、過酷な環境というイメージだったけれど、この銀山は清潔だし明るい。


「あとは銀の利用を考えなくちゃならないね」


 分与された銀山では、銀貨の製造は許されていない。

 その権利はデンネンカルロ子爵だけが持っていて、クロムには認められていないのだ。


「銀細工かなあ」


 何気なくつぶやいたら、姉さんやイスカンダリィ公爵たちが、急にコソコソ話を始めた。

 一体何なんだろう?


 こうして銀山の視察(見学?)を終えた。



……次の日……


 次は、所領の大部分を占める荒野を見てみることにした。

 ところどころに田畑があるけれど、田んぼといっても水が少なく、湿田という感じだ。


「水が少ないの?」


「はい。この辺りは水の便が悪いのです。それでも主食である米を欲していますので、水源から7kmほど水路を引いています。その水源も湧水量が多くありませんので、こういう状態でして」


 パドレオン領は、掘ればすぐに水が出る。井戸を作るのも簡単だ。

 所変われば、だなと思う。


 僕は腰袋から小石を取り出して、「マイム」を呼び出した。


「おお。妖精?」


 代行たちは目を丸くして驚いていた。

 一人なんか「アワアワ」って、何を言っているか分からない。


「ふわぁ。よく寝たあ。何か用?」


「おはよう、マイム。

 ちょっと見て欲しいんだけど、この辺りに池とか作れるかな?」


 マイムはひらひらと周りを探るように飛んで、戻ってきた。


「全然できるよ。魔素が少ないから、ちょこっと掘らなきゃだけど。ヤトノリュウ様の短剣でザクッとやればいいよ」


 それなら、とマイムに言われるまま、荒野に短剣を突き刺した。


『ぼこっ!』


 地面がえぐれて落ち込んだ。足元がいきなりなくなるんだから。


「いてて、危険なら言ってよ!」


「あははっ。でも、掘れたよ」


 えぐれた地面の底を覗き込むと、深さは2mほどで、広さは直径20mくらいになっていた。


 その穴から這い出した僕のところへ、マイムが戻ってきた。そして、ひとひらすると、底から水が湧き出し始めた。

 ものの20分ほどで水がいっぱいに貯まる。さすが「水の妖精」だ。


「だけど、あたしの力だと、そんなに持たないよ。

 ユリアス、宝玉持ってきた?」


 そういえば、こうなることを予想していたのか、出発前に「宝玉とか鱗とか持っていった方がいいかもー」とマイムが言っていたから用意してきた。

 マイムには、ちょっとした予知能力があるんだよね。

 ちなみに鱗とはヤトノリュウの鱗のことで、そのままだと大きすぎるから、鱗が元になっているヤトノリュウにもらった短剣を持ってきていたんだ。


 僕は腰袋から「水の宝玉」を取り出した。

 この前、レーテーさんに5つももらったうちのひとつだ。


「宝玉くらい、いくつでもあげるわよ」


 とレーテーさんは言うけど、周りの反応を見ていると、とても貴重なものだと改めて実感する。


 マイムは宝玉を抱えて、水面の真ん中あたりへポトンと落とした。


「これでいいよ。飴ちょーだい!」


 ご褒美をねだられたけれど、いくつでもあげるよ。

 ついでに、欲しそうにしているアンフィにも。


「これで水が絶えることはないよ。ここから水を引いてね。途中でため池を作ったりすればいいんじゃないかな」


「ありがとうございます! 貴重なお宝をこの地のために……。うううぅぅ」

(代行たち)


「な、泣かないでいいから」


 これで作物が育つといいな。



 その後も翌日いっぱいかけて、いろんな場所を見て回った。都度、僕なりに拙いけどアドバイスしておいた。


 三日ほどのんびり過ごして、僕らは帰領することにした。

「ケイブシープ」……羊の魔物(Dランク)。まん丸の毛玉のような見た目。外見50cmほどの毛玉、本体は中心部に10cmほどの羊の姿(毛がない状態の)。大人しく害はない。

ギンザンソウを食べるが、生息地にそれしか生えていないためで、他の植物を与えたら選り好みなく食べるという。


「ギンザンソウ」……イネ科雑草のような感じの魔植物。銀を吸収して育ち、乳白色に光る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ