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僕はテイマー  作者: 鳥越 暁
伯爵昇爵と領内経営
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クロムの所領(1)

イードがアイーダ草原から連れてきたクロムレイラは王都から南西に位置するカンデンコウ領主・カンデンコウ公爵の家臣であるデンネンカルロ子爵の娘だ。子爵の後妻や義姉に虐げられて、逃れるようにパドレオン領にやってきた。

エリナはデンネンカルロ子爵領の1/3を分与させ、パドレオン・ユリアス家がその後援となっている。子爵と血縁関係はあるものの完全に独立している。

 クロムレイラが持っている銀山には、サリナ系の「シルビィユ」が赴任している。

 シルビィユは、もともとミスリル鉱山で採掘の仕事をしていたから、その経験を活かして後援家として送っているのだ。


 そのシルビィユからの手紙を持って、エリナ姉さんがやってきた。


「ユリアス。クロムの所領(ところ)、少し手を入れた方がいいわね」


 正直、僕はクロム自身のことも、僕が後援することになっているクロムの所領のことも、あまりよく知らない。留守にしている間に全部決まってしまったからだ。

 もちろん、クロムがいい娘だというのは分かっている。アンフィに懐いているし、アンフィも嬉しそうだ。ギルドの受付もこなしているらしい。


「姉さんの思うようにしたらいいんじゃないかな。僕はよく分からないし」


 そう言うと、姉さんにギロリと睨まれた。


「そうはいかないの。あなたもきちんと理解しておかなくちゃダメよ

 あっ、このスープ、お代わりもらえる?」


 僕らは食事をしながら話をしていた。

 当然、テーブルには三人の妻とガディアナもいる。余談だけど、ガディアナは最近になって同居しているのだ。


「旦那様。クロムの困らないようにしてあげてください」

(アンフィ)


 やっぱり、アンフィもクロムのことが気になっているらしい。


 とりあえず、姉さんの話を聞くことにした。


 クロムの父親であるデンネンカルロ子爵は、4つの銀山を管理していて、王国の銀貨製造の3/4を担っているらしい。だから、子爵とは思えないくらいの財力があるんだそうだ。

 その上司にあたるカンデンコウ公爵は、子爵の言いなりみたいな凡庸な人らしい。ただ、権力欲は強いらしいけど。


「ふうん、それで?」


「その4つの銀山のうち1つを、クロムに分与させたのよ。渋々だけどね」


 何となく話の筋が読めてきた。「渋々」というのがポイントなんだろう。

 つまり、心の底ではクロムが領主になることを認めていないってことだ。

 そういう人は、大抵いやがらせを仕掛けてくる。


「なるほど。それで、どっちがやってるの?」


「父親。デンネンカルロ子爵よ」


「どんなことを?」


 嫌がらせの中身が分からなければ、どう対処すればいいのかも分からない。


「いろいろよ」


 姉さんの声が少し低くなった。


「銀山の人夫(にんぷ)に子爵の手の者を紛れ込ませて採掘の邪魔をしたり、夜陰に紛れて盗賊を装って村落を襲わせたり、クロムの領民が子爵領で買い物をする時に特別な税をかけたり…」


 姉さんはそこまで言うと、スプーンをテーブルに置いた。カチン、と乾いた音がした。


「ほんと、いい加減にしてほしいわ。クロムはまだ子供みたいなものなのに」


 僕は姉さんの横顔をそっと見た。目が細くなっていて、普段よりずっと鋭い。

 姉さんがここまで怒るなんて、やっぱり大事なことなんだと思った。


「姉さんのことだから、もう手は打ってるんでしょう?」


 姉さんはニヤっと笑った。


「当然よ。その都度、ね」


「じゃあ、僕は何をすればいいの?」


「うふふ。話が早いわね」


 姉さんの言うことは単純だった。

 僕が後援者として視察に行くこと。それだけで、かなりの牽制になるらしい。


 銀山の管理も、これまで「お手伝い」扱いだったのを、正式な委託としてパドレオン伯爵家が引き受けることにした。

 シルビィユは、パドレオン伯爵家から正式に派遣される「クロムレイラ銀山管理官」に任じられることになった。


 そうなると、シルビィユにも正式な氏名(うじな)をつけてあげなきゃいけない。


 そんなとき、ルドフランについて回っているイスカンダリィ公爵から、意外な提案があった。


「ユリアス殿はユウカウリに行くそうじゃな」


 ユウカウリとは、デンネンカルロ子爵領にある街の名前だ。


「いえ。ユウカウリではなく、その隣のクロムレイラ領ですよ」


「そうでしたな。ギルドにおる、あの娘じゃろ? あの娘も良い寄り親を見つけたもんじゃて」


 寄り親、という言い方は初めて聞いたけど、後援者の別の呼び方らしい。


「それで、そこに送る者の氏名を決めると聞いたぞ

 提案なんじゃが、儂の遠縁にあたる家が絶えておってな。そこの氏を引き継がぬか?」


 思いがけない提案だった。

 最近は氏名を考えるのも結構大変なんだよね。似たようなのばかりになるし、かといって奇抜すぎるのも困る。

 僕はその提案を受けることにした。


 シルビィユは《ノーザント》という氏をもらうことになった。

 ノーザント・シルビィユ。いい名前だと思う。


「大層な家名になったものね。ノーザント家と言えば、かつての名家よ。先々代の国王の時代に、南部開拓で名を上げたのよ」


 あっ。そういえば、冒険物の本の中にそんな名前があった気がする。


「テッテラ爺さん、イスカンダリィ公爵家との繋がりを示したいのねぇ」


 どうやら、そういうことらしい。

 まあ、僕にはあまり関係なさそうだから、別にいいか。



……半月後……


 僕はクロムの領に向かっていた。

 同行するのは、領主であるクロムとアンフィ、姉さん、ルドフラン、イーナ、チョコレッタ、それに護衛のムネアカアントラーたち10名。

 そして、無理やりついて来るのが、イスカンダリィ祖父・孫のコンビと、たまたま遊びに来ていたテノーラさんだ。


 今回、僕らの馬車を引いているのはスネークタイガーの2頭だ。マーベラに命じられたらしい。

 馬車には護衛以外の9名が乗り込んでいる。


「クロム。氏名を変えてしまって良かったの? 公表前だから、もし少しでも惜しいと思うならまだ間に合うよ」


「いいえ。アンフィ様の氏を頂けるなんて光栄です。是非よろしくお願いいたします」


 クロムはそう言って、ほんのり顔を赤くして笑った。目がきらきらしていて、なんだか胸がいっぱいって顔だ。


 僕の知らない間に、クロムはアンフィの養子になっていて、「パドレニア・クロムレイラ」と名乗ることになっていた。アンフィの旧姓だ。

 僕はエリナ姉さんに言われて「士爵」の位を与えただけだ。

 爵位も持たずに領を、それも独自性の認められた領を治めるのはあまり良くないらしい。

 姉さんとテノーラさんがコソコソ話をしていたから、上手くまとめたのだろう。


 これで、通称「クロム領」と呼ばれていた場所は、「パドレニア士爵領」という正式名称になるわけだ。


 雑談をしているうちに、僕らは目的地に到着した。

デンネンカルロ・クロムレイラはパドレニア・クロムレイラに。

テノーラことグオリオラ・テノーラ公爵はイブロスティ女王と贔屓にしているユリアスの味方を増やすために、クロムに爵位を与えるように画策した。

カンデンコウ公爵は裏でイブロスティ女王に反目している。女王の実力重視の姿勢や一部の貴族に権力が集中しないようにする施策に反対している一派である。


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