公開軍事演習
祝宴の翌日、訓練場で軍事演習が行われた。
それに向けて訓練場も拡張している。
当初、演習など予定されていなかったのだが、招待客の多くに望まれて行うことになった。
指揮を取るのはルドフラン。
今まで軍部のトップはマーベラだったのだけれど、彼女は僕の妻となり一歩引いた。それをルドフランが引き継いだ。
ちょくちょくマーベラに相談しに来ているから、マーベラは相談役みたいなことをしているのだろう。
さて、会場では一糸乱れぬ行進が行われ、2チームに別れて模擬戦だ。
これが中々白熱して盛り上がった。
スペースの関係で攻め手と守備に分かれたのだが、双方がよく頑張ったと思う。指揮を取ったディアドフィン(サリナの娘。対外的には遠戚としている)、スイレンの指示も良かったとマーベラが解説してくれた。
「ユリアス。来賓席を見てみないさい」
エリナ姉さんに言われて、チラチラと見てみた。
皆さん、盛り上がってくれているようだ。ん? あの一角は何やらしかめっ面でコソコソ話している。何か気に入らないのかな?
「気づいた?」
「うーん。何か温度差があるね。一部の人達が難しい顔をしてる」
「そうね。その者達の顔をよく覚えときなさい」
後でフォローでもするのだろうか?
模擬戦が終わり、舞台にルドフランとラトレルの二人が並んで出てきた。反対側からは、なんとハイオークが10頭! その内2頭はシルバーハイオークだ。
どこから連れて来たのだろう?
練度を示すためか、二人は剣、槍、弓と得物を変えて、あっという間に倒していた。
やはり、二人は強いな。僕も訓練頑張ろう。
最後に挨拶させられて演習が終わる。
「ユリアス君、噂通り凄いわね」
「陛下にお褒め頂き恐縮です」
「やあね、他人行儀で。名前で呼んでくれて構わないわ」
思いっきり他人です。姉さんじゃあるまいし、気軽に呼べません。
「呼んであげなさいよ」
目が笑っていない姉さんに笑顔で脇を突かれた。言うことを聞いた方が無難だ。
「そ、それではイブロスティ様と呼ばさせて……」
「様は要らないし、イブってお呼びなさい」
何か妙な迫力がある。
「それでは『イブさん』と呼ばさせていただきます」
「それでいいわ」と笑って納得してくれた(?)ようだ。
「それでわざわざお声掛けいただいたのは?」
姉さんが突っかかっている。
「お、落ち着いて。ほら、人目があるわよ。
ある娘さんがご挨拶したいらしいのよ。
マリアージュ、前へ」
イブさんの背後からにっこりと笑顔を浮かべて僕より少し若いくらいの娘が歩み出た。15、6くらいだろうか。その娘の後ろに付いている方は昨日の式典で挨拶したから知っている。イスカンダリィ公爵だ。
「パドレオン卿。これは儂の孫娘でな。若いが政の真似事をさせておる」
「マリアージュ嬢。よろしく」
「よろしくお願いいたします。昨日、本日と貴重な経験をさせていただき感謝いたします」
事前勉強で習った彼女はかなりのお転婆と聞いていたけれど、立派な貴族のお嬢様じゃないか。
イスカンダリィ公爵が掌を広げて魔法陣を展開すると『ぶわっ』と何かに包まれたような感覚がした。横を見ると姉さん以下、僕の三人の奥さん達がさり気なく身構えていた。
「ちょっと爺さん!どういうつもり?」
ええ!? 姉さん、何でいきなりくだけているの? 周りの目があるんでしょ?
「旦那様。遮音・遮像の壁に包まれていますから大丈夫です」(アンフィ)
「ほほほっ。相変わらずだな、エリナは。そう慌てるな。
先程の演習を見て、マリアが話をしたいと言うのでな。聞いてやってくれ」
「お願いします!」
あー、さっきは猫を被っていたわけね。
それと、やはり姉さんと公爵は知り合いなわけね。
それならば、こちらも少し肩の力を抜かせてもらおう。
「私達の領軍と合同訓練してください!」
「はい!? 」
「鍛えて欲しいのです」
そういうことか。合同訓練と称して、自領の兵を鍛えて欲しいと。
即答は避けた。相手の人となりを知らないし、メリットがあるのかも分からない。それに何事か提案や誘いがあったら「検討します」と、持ち帰るように言われているんだ。
いつの間にか背後にルドフランが控えていた。僕の護衛が本来の職務らしいので当然なのかもしれない。
僕をそっちのけでマリアージュ嬢はルドフランを捕まえて、「あの時の体捌きは…」とか、「槍の握り方は……」とか質問攻めにしている。
相手をしてあげてと言っておく。
姉さんはイブさんとイスカンダリィ公爵、テノーラさんと話し込んでいるし、個人的には楽だ。
僕は後でどうするのかを聞けば良いのだから。どうせ、現段階で僕の意見は求められないし、言っても聞いてもらえないだろう。
ルドフランの家臣となったコロンが、
「そろそろ、ブカス街区へ出発される時間です」
と告げた。