儀式の裏で(ラトレル編)
ユリアス様の昇爵と婚姻が正式に決まると、パドレオン男爵領では『儀式実行会議』が開かれた。
光栄なことに私もそのメンバーだ。
メンバーは会議長をエリナ様とし、ガディアナ様が副会議長。ルドフランに私、イーナ殿、イード殿、ツキシロ、ビュウロンの8名だ。
第1回目の会議でそれぞれの分担が決まった。
私は警備担当。
「ラトレル様。コルメイスで市民に紛れて怪しい人物を捕捉しております」
「何人だ?」
「今のところ5名です」
報告に来たのは、ヴィアラクテ・ボタイン。ツチグサレ消滅遠征で名を挙げたヴィアラクテ10将の一人。
私の指揮下にそのヴィアラクテ10将が配置された。森で揉まれてきたのだろう。中々、頼もしい連中だ。
ユリアス様に刃を向ける輩は許せないが、身辺警護の担当はルドフランだ。それに奥方となられる御三方は我らより数段強い。心配はしていない。
ユリアス様が作り上げた領内を破壊したり、領民を煽動したりする者を警戒している。それを含めての警備だ。
「すぐに捕らえて監禁せよ」
「はい。直ちに」
そういう者達の身元はそう簡単には分からない。
だが、領民ではないことは分かる。
何故ならば、「領民把握制度」があるからだ。これはユリアス様がコルメイスの市民が1,500人を超えた頃に仰ったことによる領独自の制度。
元々、草原だったところに作られた新しい街・コルメイス。当然ながら住民は各地からの移入者だ。
住民が他領でトラブルに巻き込まれた際に身元が分かるようにとの意図だったらしい。
この制度は素晴らしい。登録されていない者は旅人、他領からの商人などなのだが、そういったものは門で厳しくチェックを受けての入領だ。身元のはっきりしない者はいない。領民が3,000名を超えても、しっかりと制度が生きている。まあ、管理しているユリーネは大変そうだが。
入領の記録の無い者、領民の登録がない者は不正に入り込んだことになる。
こんな素晴らしい領はあるだろうか。ないだろう。
この領に不穏な空気を入れようとする輩は許せない。
『コンコンッ』
また、私の執務室の扉が叩かれる。
返事をすると「ラウス様がお話があると見えています」との事だ。
ラウス殿はイード殿の下で防衛部副隊長をされている。
「怪しい者を捕らえたのだが」
またしても、不審者だ。
僅か1週間の間に捕らえた者達は16名になった。
犯罪の少ないこの領で、こんなに牢に人がいることはない。普段はほとんど使われないのだから。
程なくしてエリナ様とエリナ様の従者であるステイラさんが牢までやってきた。それぞれ面会するから、しばらく席を外すように言われた。
エリナ様とステイラさんの彼らを見る冷たい目に少し背筋が寒くなった。
小一時間ほどでエリナ様達が帰ると、者共が口々に己の身元を喋りだした。揃って顔色が悪い。
エリナ様がどのような話をされたのかは知らない。聞いてはいけない気がする。本能的がうったえる。触れてはいけないと。
3回目の会議の時に彼らをどうするか聞いた。
「働かせなさい。雇い主とは繋ぎを取らないように申し付けているから、心配はないわ」
「それでしたら、私が預かりましょう」
ガディアナ様が引き受けるという。
「会場の設営から、当日の給仕などをさせます。
もちろん、粗相のないように、き・び・し・く、躾ます」
少し、ほんの少し、彼らを同情してしまった。
ボタインからガディアナ様はかなり厳しいと聞いているからな。「おかげで強くなれました」と言うボタインは少し遠い目をしていた。
預けられた者達だか、3日ほど経って見た時は、生気のない顔をしていた。
ところがだ。さらに3日経つと晴々とまではいかなくとも、生き生きとしているではないか。
何があったのだろう。
「おぬしら、最近は元気がよいではないか」
「これはラトレル様。私共はお願いしてガディアナ様の従者にしていただけるようになりました。正式には『儀式』の後にユリアス様の御許可を頂いてからになりますが。
そのためにも、此度の儀式、絶対に成功させなければなりませぬ。我ら微力ながら全力でお役に立ちたいと思います」
やはり、ガディアナ様は人を使うのがお上手のようだ。
そのガディアナ様から依頼がらきた。
なんでも、ブカスの森の開拓の現場責任者をしているチョコレッタ嬢から「変な人、保護しているんだけど、どうする?」と連絡があったと。詳しいことは分からないから、確認して対処して欲しいとの事だ。
ブカスの森の開拓総責任者はツキシロだが、私に依頼するのは何故だ?
森の開拓は『会議』でも最重要事項なのだ。
儀式の後に陛下や希望する貴族が見聞するらしい。
それまでに、開拓地が完成とまでいかなくても形にしておく必要がある。
行ってみてチョコレッタ嬢が連絡してきた意味が分かった。
保護した者は明らかに怪しい出で立ちなのだから。
薄汚れた衣服を纏い、髭は伸び放題、保護した時に大鉈を持っていたという。山賊を想起させる。
当人はぐったりとしていて、話をする気力もなさそうだ。
「どういう状況なので?」
「ラ、ラトレルさん。実は大蜘蛛に絡め取られて齧られる寸前に保護しますた。この開拓地に入った訳でもないし、あ、ないですし、怪しいですけれど、どうしたらいいかなって。すみません。判断に迷いまして」
状況は分かったけれど、なぜにカミカミなのだろう。
その者のあまりの汚さにそのまま話を聞くのも嫌だったので、風呂に入れさせ、小綺麗にさせた。衣類も新しい物を与えた。
さあ、話を聞こうか。




