報告~レーテー~
僕達は「ツチグサレ」を消滅させて、一旦、レーシィの森へ向かいレーテーに報告する。
事の次第はマイムが念思で教えてくれているそうだけれど、僕から直接聞きたいのだそうだ。
「ユリアス。ご苦労様。お連れの皆もありがとう」
にこやかにレーテーが迎えてくれる。
「小僧。おぬし、また強くなっているではないか。いいぞいいぞ!わははははっ」
ヤトノリュウも喜んでくれている。
周りのみんなは固まってるな?
「精霊ですわ」(ひそひそ)
「なんと、神々しい」(ひそひそ)
「私はレーテー様には何度かお会いしてましてよ」(ガディアナ・ひそひそ)
「竜神にまでお目にかかれるとは」(ひそひそ)
「話しかけてもよいでしょうか」(ひそひそ)
「あーっ、ひそひそ、うるさい!あとで話をする機会をもらうから、今は報告するから!」
みんな、静かになった。
「それで?どのように消したの?」
「あれ? マイムが知らせたんじゃないんですか?」
「この娘は「終わった、消滅した」だけなのよ!」
「そうだったんですね」
それじゃあ、詳しい話を聞きたいはずだ。
「じゃあ、結論から言うと、凍らせて一気に熱するですよ」
「ん?貴方も説明下手?」
「慌てないでください。順を追って説明しますから」
レーテーとヤトノリュウはこくりと頷いた。気が付いたらカエルラの兄弟(?)、赤、黄色、ピンク、紫と色違いのフェントカゲも揃って聞いている。か、可愛い!
「まず、いきなり炎弾を撃ち込んでもダメです。表面の腐敗土は少しは良くなりますけれど、着地の時の衝撃風で菌糸が飛んで広げることになります」
「ふむふむ」
「それに結構菌糸は根深いようで表面だけ熱してもダメですね。
それで水はダメ。一気に菌糸が増えちゃいます。ここまでいいですか?
では次に凍らせるだけでもダメです。広がるのは防げるんですけれど消滅はできないです。
なんて、言ったかな?冬眠だっけ?」
「休眠です」(アンフィ・小声)
「休眠するだけみたいです。そこで凍らせておいて、一気に周りから炎弾を撃ち込みました。これが功を奏しました。要するに煮たんです」
「なるほど。それならば熱湯をかけたらいいんじゃないのかしら?」
「僕らもそう思ってかけてみたんですよ」
「うんうん」
「熱湯ってすぐに冷めちゃうんです。なので水分が栄養になるだけでした」
「なるほど、なるほど」
「周りには菌糸が張り巡っています。なのである程度余裕をもって凍らせる必要があります。
そこでスキル【水包】で一気に土中ごと包みました」
「うんうん」
「でも水はツチグサレにとって栄養なので、もたもたしてられません。
実は一回失敗しました。また、少し広げちゃって……」
あの時は焦ったなあ。
「そこでカエルラとタイミングを合わせて、僕が「えいっ」っと地面ごと包む。すぐにカエルラが「キュキュッ」と凍らせました。これで菌糸が広がることはありません。それに胞子も飛ばせません」
「そうね。で?で?」
なんで、みんな前のめりなの? 一緒にいた者達は知っているよね?まあ、いいか。
「後は簡単です。周りから一気に熱して煮ました。一部の土が溶岩みたいになっちゃいましたけど」
「うわお!」
「おおーっ!」
レーテーとヤトノリュウは手をたたいて喜んだ。
「それでどのくらいの範囲だったんだ?」
「円形かと思っていたんですけれど、空からみたら細長い楕円形でした。風向きの影響でしょうね。楕円を縦にみて、奥行200m、幅は7、80mくらいでしょうか」
「おう。結構広がってたんだな。俺たちが感知した時は2、30mの範囲だったぞ」
「小さかったんですね。そうすると、ふた月くらいで3倍かあ。あっという間に広がっちゃいそうですね」
「そうなのよ。
あれ? 200×80mって結構な広さだけれど、それを水包で?」
僕は水包の形状を上手く変えられるほどスキルアップしていないので、球円形の水包だ。地表から見えない地中に菌糸が伸びているかもしれないので、少し大き目の直径300mの水包を作った。
「300mの水包!?」
「ええ、まだスキルが低くてごめんなさい。まだ、無事だった所も一緒に包んじゃったので」
謝っておいた。
「いやいや。そんなにデカいの作ったのか!?
おい、レーテー、お前出来るか?」
「出来るだろうけど……。その後で寝込むわね」
「だよなぁ……」
なんか、まずかったのだろうか?
「体調は? 大丈夫?」
少しクラっとしたけれど大丈夫だったと告げた。
「「すごいな(わね)」」
なぜか、ものすごく褒められた。周りの者達が誇らしそうにしているのは何故だ?
「ともあれ、お疲れ様。後は徐々に復活してくるでしょう」
「ああ、それも手をうってきましたよ」
「えっ?」
終わったと僕らが休んでいる時に、どこから来たのか泥団子のような物が近づいてきた。モコモコと人形のようになって手招きしたんだ。僕たちが腐敗を止めたところに。何かを訴えているようだった。
何を言いたいのか分からず首を傾げていると、カエルラの傍に行き、「こ、こここ、こっ」「キュキュ、キューキュキュ」と話し込んでいる。
そして、カエルラはガディアナへ何やら告げた。
「あの、ユリアス様。カエルラが言うには、ツチグサレは無くなったけれど、数十年はこのままになるから、復旧を手伝えと言われたそうですよ」
なるほど、魔素も全くない地だから、今は不毛の地ってことだもんな。
「それはいいけれど、どうするの?」
話を聞くと、魔素を含んだ土と不毛の土を混ぜるのが良いそうなんだけれど、やってみたらかなり大変で少しの範囲しか出来そうにない。
魔素か……、僕は不毛の土を手に取って魔力を流して見た。カラカラだった灰色の土が幾分しっとりして、黒っぽくなる。腐った土の艶のない黒ではない。
「か、かかかっ」
土くれ人形は喜んでいるけれど、この広さに魔力を撒いて回るのは無理だ。
「でしたら、魔力を放出してくれる木を植えるのはどうでしょう?」
「ん?アンフィ、そういう木知っているの?」
「ええ。数は多くないですけれど、あちこちで見ましたよ」
それはいいかもしれない。
その魔木は「ユンバ」といって、ツルツルの樹肌をしていた。
荒地に十箇所ほど穴を掘り、魔素を含んだ普通の土を入れる。そこにユンバの若木を植えた。ユンバは土から魔素を吸い、10倍程の魔素にして放出するという。
魔素濃度が高くなれば自然に土にも魔素が浸透すると言うわけだ。
「時間がかかりそうだけれど、これでいいかな?」
土くれ人形は手を挙げて小躍りしているから、良いのだろう。
お礼のつもりなのだろうか、僕に勾玉のような物を手渡してくれた。
「貰っていいの?」
僕は遠慮なく頂いた。
「こうして、僕らは帰ってきました」
「うん。ありがとう。本当に助かったわ」
「本当だな。すごいぞ、ユリアス。
その土くれから貰ったという勾玉はどんなのだ?見せてくれ」
「いいですよ。これです」
「「あっ」」
レーテーさんとヤトノリュウさんが顔を見合わせた。
「これ、土の精霊の贈り物だな」
「そうね。私で言うところの「水の宝玉」ね。
ユリアス君は土の加護を得たはずよ」
僕はステイタスを見てみた。
「本当だ。【土の加護】って付いてます!」
レーテーの話では土くれ人形は、おそらく土の精霊「土龍」とのこと。龍とついているけれど、ドラゴン族とは全く関係ないらしい。
勾玉は持っていると所有の土地の作物が豊かに実るということだった。僕は大事にしまった。
僕の報告は終わり、同行者達が個々にレーテーさんやヤトノリュウと親睦を深めて、帰途についた。