多忙な日々(ルドフラン編)
ユリアスの古参にして重臣のルドフランの話。
私はルドフラン。パドレオン・ユリアス男爵の家臣だ。この間、ソレステッドという氏名をいただいている。アントラー出自のヒューマンである。
ユリアス様が賜爵され、御屋敷を改築される時に、私も屋敷をいただいた。
ビレッジユリアスの中に建てられた屋敷は立派なものだ。部屋数は12程もあるし、それなりの庭もある。
まったく同じ間取りの屋敷が何軒か建ったのだが、隣はラトレルの屋敷だ。
普段の私は執務室があるユリアス様の御屋敷と訓練場にいる事が多く。自分の部屋など、ほぼ寝るだけ。
なので、屋敷など必要ないと申し上げたのだが、「重臣が屋敷も持たずにいると、他家から軽んじられる」とサリナ母上から言われてしまった。
私のことはどうでも良いがユリアス様が軽んじられるのは許せない。
こうして、屋敷を与えられたのだが、家臣と使用人も雇えという。体面もあるらしいので雇うことにした。
まず、家臣だが、母上のところからアントラー兵の一人がやってきた。
彼は知っている。
よく訓練場に顔を出しているのを覚えている。剣筋もなかなか良い。
「よろしく頼む。名はなんと言う?」
「まだ、ございません。ルドフラン兄上にお付けいただくようにと言われております」
私が名付けて良いのだろうか。これまでのアントラー族の者達は、全てユリアス様から名をいただいている。
本人から話を聞くと、ユリアス様の負担を減らさなければならないとサリナ母上から言われたという。
アントラーに限らず、ユリアス様に従う者には名が無い者が多いのが現状だ。全ての名を付けるとなると大変なのだろう。母上やアンフィ姉上に次いで名をいただけたのは名誉なことだ。
ちなみに対外的にサリナ母上をサリナ従姉と言っている。アンフィ姉上も従姉だ。人間となった我々の年齢が近く、母上の子供というのはおかしいのだ。
弟には悩んだ末に、最近読んだ騎士物語の主人公から、「コロン」と名付けた。
そのコロンだが、アントラー寮に住んでいたのだが、今は私の屋敷に住んでもらっている。どうせ、部屋は空いているのだ。
そして、屋敷の使用人だ。
応募したところ十名ほどやって来たが、その内の3人を雇う。
皆、ヒューマンだ。
それぞれ、執事、身の回りの世話係、料理人となる。
皆、良く働いてくれている。
ユリアス様が『ツチグサレ消滅』を終えたと念話で母上から連絡があった。
すぐにエリナ様に報告に行く。
大変なことになった。所領と住民を賜ってしまった。しかも、その所領の希望地を選定しろというのだ。困った。私は武しか取り柄がない。取り柄と言っても他の者と比べればであって、執行部中心の方々の足元にも及ばないが。
とりあえず、執事に聞いて男爵領内を見て回る。どこが良いのか全く分からない。
それでも、執事の意見を聞きながら候補地を選定した。それを報告に行くと
「実はね。シムオールの例の地区長の私兵三人がね。士官をと言ってきているのよ」
と言われた。
噂は聞いていた。地区長の汚い治世のやり方に反発して、幾人もが離れているらしい。私兵に限らず、役人達もそうらしい。
「それでね。二人、預かってみない?」
「それはどういう事でしょうか?」
「だから、ルドフランの家臣にして欲しいの。頼むわね?」
ユリアス様のではなく、私の?
詳しく話を聞くと、二人自らが私の家臣となることを望んでいるという。
ちなみにもう一人はイード殿の守兵団に入るということだ。最近になって、コルメイス守兵団は『コルメイス防衛部隊』と名称を変えた。正式に領軍の組織に組み込まれている。
私は引き受けた。私に家臣の一人もいないと体面的によくないらしい。
だが、家臣となると、彼らの生活は私が面倒を見なくてはならない。
私は執事に相談した。
「という訳なのだが、予算的に大丈夫か?」
家臣に満足な給金を与えられなければ問題だ。
執事には我が家の台所関係(金銭管理)もお願いしている。
「それは大丈夫でございます。旦那様の経済力でございましたら、10名ほどのご家臣をお抱えになるのは何の問題もございません」
「そうか。そんなに家臣を持つつもりはないけれど、余裕があって良かった」
「…………」
「うん? 何かあるのか? 思うことがあれば遠慮なく言ってくれないか?」
執事はしばらく逡巡した後で口を開いた。
「それでは僭越ながら申し上げます。
旦那様はパドレオン男爵の重臣でございます。10名程度の家臣をお持ちになるのは当然のことでございます。
何卒、ご家臣を揃えてくださいませ」
どうやら執事は私が家臣を持つことに消極的なのを見抜いたようだ。
「旦那様の使用人といたしましては、旦那様がもっと大きくなられるようにするのが務めでございます」
そういうものなのか。
ならば、私もこれまで以上に気張らねばなるまいな。雇った者達のためにも。
そうして、私は人材を求めた。
アントラー族から求めても、トータル的に男爵領の地力は上がらない。
なので、外部から求めよう。これも執事のアドバイスだ。
シムオールの他にズンバラからも人を求めた結果、8人を雇い、総勢11名である。
とここで、小さな問題が起きる。コロン以外は全てヒューマンなので、当然、氏名を持っている。コロンだけ名だけなのだ。家臣筆頭となるコロンに氏が無いのは体裁が悪い。
エリナ様に相談したところ、私の弟ということで、私の氏を名乗らせることになった。『ソレステッド・コロン』である。
小さい問題の辻褄を合わせつつ、私は家臣団を持った。
コロンを除く彼らには当面の間はコルメイス街の一角に住んでもらう。物件についはイード殿の世話になった。彼らの適性を見て、誰かを賜る所領の代官に任ずるつもりだ。
皆、 (コロン以外は)ヒューマンで、アントラーに比べると武力的には大したことはないのだが、これから鍛えていけば良い。ヒューマンでもユリアス様のように強い者はいるのだ。イード殿も普通のアントラー兵と互角だしな。
それから所領を正式に賜り(ユリアス様は不在だが連絡済みとのこと)、村民を連れて行った。
そして、村造りだ。ゼル村、シロコ村の者達が協力してくれて助かっている。
その間にも領兵の訓練、家臣の鍛錬、魔物の退治要請……。
あー忙しい!
ソレステッド家
当主:ソレステッド・ルドフラン
家臣団:筆頭 コロン
他10名
使用人:3名