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僕はテイマー  作者: 鳥越 暁
伯爵昇爵と領内経営
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多忙な日々(エリナ編1)

 私はパドレオン・エリナ。甥っ子のユリアスの補佐をしている。ユリアスは男爵位で、私はその主席執政官だ。


 超が二つも三つもつくほど忙しい!


「エリナ様」


「なに? 揉め事?」


「いえ、ルドフラン様が……」


 ルドフランは領の軍部のナンバー2だ。何かあったのかしら。また魔物が出たのかもしれない。


「エリナ様、ご報告です。ユリアス様がツチグサレ消滅を成し遂げました!」


「やったわね!」


 嬉しいニュースだった。


「それで? いつ帰ってくるの?」


 ユリアスが帰ってきたところで私の仕事量は変わらないけれど、一緒に行った者たちが戻ってくるのは大きい。私を補佐してくれるサリナ、アンフィ、それに行政官長のガディアナやツキシロ。早く戻ってきてほしい。


「レーシィの森への報告の後になるそうで、あと半月ほどかと思います」


「そんなにぃ!?」


「は、早められないか打診してみます」


「うん。お願いね」


「はい。では、これで……」


「待って。ルド君に私からも話があるの」


 ルド君が身構えた。


 大丈夫よ。そんなに難しい話じゃないから。


 他都市から住民を受け入れてほしいという要請が来ていた。不景気ゆえに口減らししたいのだろう。二十名ほどなら受け入れは簡単だけれど、住居や仕事の面倒も見なくてはならない。わずか二十名でも、送り出す側にとっては食料や住居を分け合える人数が減る分、大きな助けになる。小さな村落にとっては大きな援助だ。


「私に、ですか?」


「そうよ。他にいないのよ」


 パドレオン男爵領はコルメイス市と二つの村を擁しており、それ以外はすべて直轄領だ。家臣に領地を持たせている者はいない。領民も三千名を超えてきている。そろそろ家臣に領地経営をさせないと、仕事が増える一方だ。いわゆる分割統治を進めたい。


「いやいや、私には荷が重いです。誰か他の者に……」


「他にいないの! サリナもアンフィもユリアスの奥さんでしょう。マーベラも、そうなると連絡があったし、ガディアナはまだ家臣歴が浅いわ。今の筆頭家臣は貴方、ルド君なのよ!」

挿絵(By みてみん)

「しかし……」


「しかしもくそもない! 家臣に領地も持たせられないなんて、ユリアスが他領から馬鹿にされるわよ!」


「ユリアス様が馬鹿にされる!? それは許せませんな!

 分かりました。お受けいたしましょう! ですが、一つ……私の後にも、例えばラトレルあたりにもご考慮願いたく存じます」


「分かったわ。考えておくわ。貴方の領地は、なるべく希望に沿うようにするから、早めに希望地を選んでおいてね。

 ふぅ……ありがとう。もう、いいわよ」


「はい。失礼します」


 これで一つ片付いた。ここの者たちはユリアスを崇拝しているからね。ユリアスが馬鹿にされたり軽んじられることを、極端に嫌うのよね。私にとっても、それは嬉しいことだわ。


 さて……次はユリアスの婚礼ね。一気に三人とはね。やるわね、ユリアス。ルド君じゃないけど、外に舐められないような式にしてみせるわ!


 私は黙々と招待客の選定に取りかかる。およそ二百名くらいかと見積もっていたけれど、イブに話したら、もう少し増えそうな感じだったわね。あ、イブはこの国の女王よ。同級生なの。


「あのう、エリナ様……」


 申し訳なさそうにステイラが顔を出した。


「うん? 今度は何?」


「来客のお時間です」


 そうだった。テノーラが来るんだった。


「もう来たの? ……そう、すぐ行くわ」


 私は招待客の仮名簿をしまい、応接室へ向かう。



「グオリオラ公爵。お待たせしてしまい申し訳ございません」


「いや、早く来すぎてしまったようだ。手間をかける」


「さあ、どうぞ。こちらへ」


 来客室(貴賓用)へ案内し、扉を閉める。


「堅苦しい挨拶は無用だ」


「作用でございますか。して、ご用向きは?」


 この忙しい時に、いったい何しに来たのよ!? さっさと用件を言いなさい!


 公爵もまた、私の同級生だ。気心が知れているといえばそうだ。


 お付の者たちの手前、彼は優雅に振る舞い、お茶を飲んでいる。貴族の作法として、急いでいる時も忙しい時も、優雅に慌てない姿を見せることが求められる。面倒なことだ。


 お茶のカップを置くと、傍らの者が書類を取り出し、公爵に手渡す。公爵は軽く書面を確認し、それを私に差し出した。


 差し出されたのは二枚の書面だった。ざっと目を通す。


「なるほど、ご用件は理解いたしました。ですが、当家には荷が勝ちすぎるかと存じます」


「まあまあ、そんなに慌てずともよいではないか。悪い話ではあるまい」


「そうですねえ。……お人払いを」


「ん? しかし……」


 書面を見ると、公爵は女王からの使者という立場だ。となれば、証人として幾人かが見届けなければならない。従者がその役を兼ねることも多い。今回も、そのつもりなのだろう。


「お人払いを」


「う、うむ。……ま、まずは旧知を温めるとしようか。おい、下がれ」


「はい。失礼いたします」


 従者たちが下がり、バタンと扉が閉まった。


「テノーラ! どういうこと!?」


 二人きりになれば、遠慮も体裁もいらない。


「そ、その書面の通りだよ」


「はあ!? 答えになっていない!

 『ブカスの森の管理許諾書』って何よ!? だいたい、森は誰のものでもないでしょう!」


「そうなんだが。改めて、森を男爵家が自由にしても文句は言わないってことなんだよ」


「だ・か・ら! 誰の許可もいらないはずでしょう! 認めようが認めまいが!」


「お、落ち着け。お茶でも飲め」


 少し興奮しすぎたかもしれない。私はお茶を飲み、一息ついた。


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