デーアビントルの人型化と卵
僕達の行軍の行動様式が定まってきた。
ベース(根拠地)を定め、進行方向の魔物を駆除。凡そ3日を駆除に費やす。
それから、1日はそれぞれが身体強化を駆使して、奔る。そこから、歩みを徒歩に変えて2日間慎重に進み、次のベースを構築する、といった流れだ。
皆の役割もほぼ決まっている。
先行して、情報収集や道を切り開く者。三人の子供達を守りながらの者。僕を護衛する者といった具合だ。
僕は護衛なんかいらないと言ったのだけれど、皆に「だめです!」と言われた。もっぱら、サリナ、アンフィ、マーベラが僕の周りにいるんだ。『お嫁さん』の特権らしい。そういえば、婚約するまで、マーベラは先行隊が主だった。彼女達の中で、ある程度のルールがあるのかもしれないね。
僕達の周りに子供達が加わったりするけれど、それも常時じゃない。子供達は子供達で、それぞれにレベル上げをしているようで、子守りの担当と別行動が多い。
僕もそこそこの魔物が出た時には、退治させてもらっている。
僕もスキルアップしたいんだもの。
ティアがとことことサリナの元へやって来た。
「お母様。ちょっとお聞きしたいことが……」
戦い方で聞きたいことがあるという。
「ここでは駄目のようね。 ……ユリアス様。ちょっと話を聞いてきますね。アンフィ、マーベラ、しっかりとお守りするのですよ」
アンフィとマーベラに釘を刺しつつ、離れていった。
時を経ずして、今度はラナがマーベラの元へ。やはり同様の要件らしい。
マーベラもラナとどこかへ行き、変わりにガディアナが僕の警護に加わるのだ。どうやら序列のようなものがあるのだろう。
「ユリアス様。サリナもマーベラも、あんな感じですし、予定よりは少し早いですが、この辺りを次のベースにいたしましょう」
ガディアナは全体をよく見ている。口数が多い方ではないが、彼女の言うことは大抵は的確だ。
早速、先行隊を呼び戻して、ベースを構築した。デーアビントルがいると連絡をとるのに便利だ。直ぐに飛んでいってくれるからだ。もっとも、アントラーの者が双方に入れば、念思でことは足りるのだけど、今回の先行隊はイーナとスネークタイガー達だったからね。
今回の選抜隊は皆、驚くほど成長している。
なんと、ボタインはBランクになったほどだ。ここにいるメンバーは早かれ遅かれランクが上がるだろう。そんな気がする。
サリナとティアが戻ってきた。すると、ティアは今度は僕の所へやってくる。
「お父様。あの、蜂の方達は『蜂のまま』なのですか?」
デーアビントル族49頭の内、僕のテイムモンスターとなった「プティラーナ」と他3頭のみ人型固定となり、他はビントルの姿のままだ。人型固定の3頭は、プティラーナの執事のような男性一人と、戦闘向きだという二人の女性である。3人の内、誰かを間接テイムしようと思っている。
デーアビントルはアントラーやムネアカアントラーのように人型と本来の姿への変換ができない。種族各々の特性があるのだろう。
プティラーナ曰く、人型となった方が魔力の恩恵を受けやすく、スキルの獲得も期待できて良いそうだ。だが、彼女達は生命維持に蜂蜜が必要で、その生産は蜂の姿でないとできないという。
ティアには分かり易く説明してあげた。
「そうなのですか………。
あの、できると思うのです……。」
「うん?どういう事?」
「えっと、マーベラ義母さまに『変化』のことを教えてもらったのです。なので、『マンティラ』であるわたしも『変化』できますよ。
それとおんなじようにできるかな、と思うんです」
興味深い。詳しく話を聞いてみた。
子供の説明で要領を得なかったけれど、何とか理解できた。
変化できるできないは「イメージ力」の問題と体内の魔力を操作できるかということ。
インセクタル型魔物の多くは魔力(元は魔素)を体内で循環させることはないらしく、『留める』『放出する』『吸収する』だけなのだ。
詳しくは分からないが、人型となり、体内を循環するようになると、できることが増える(例えばスキルの獲得)。
人型から戻るには魔力の流れを止めて「イメージ」で元の体にすればいいのではないかと。
プティラーナ達を呼んで試してみる。
結果、時間は掛ったが、皆が元の姿に戻れるようになった。
うん。うちの娘はすごい!
その日はデーアビントル達に魔力を与えて人型に。
もちろん、元に戻れるようになる。
「ティア。おかげで、皆、人型になれたよ。ありがとね。
それと、ラナ。貫手に炎を纏うなんてすごいね。
マーラは体力もついてきたし、ジャンプがいいね」
子供達を褒めるときは、一人だけではなくて、一緒に褒める。
『分け隔てなく』が僕の子供達と接する時のポリシーだ。
それに子供といえども、僕の知らないことを知っていたりする。
「ザニア。何を持っているの?」
ザニアが楕円形の拳大の玉のようなものをアンフィに見せていた。
「魔植物採取の時に大木の幹で見つけまして、何なのかお伺いしているのです」
僕には何かの卵に見える。というか、卵にしか見えない。
「卵だと思うのですが、何のと言われると分かりません」
アンフィ曰く、魔物の卵は判明しているものは少ないんだそうだ。
これも分からないんだな、と思ったんだけれど。
「あの、それって『マンティラ』の卵ですよね? どうしたのですか?」
とティアが言う。
「「「えっ!?」」:
僕もアンフィもザニアも、思わぬところから解答を得た!
まさか、マンティラの卵だったとは。ティアも感覚的に分かったらしい。自分の生まれたあとの卵の殻と波長が一致するという。
「これはどうするのですか?」
「そうね。どうしようかしら」
アンフィとティアが僕に視線を送ってきた。
そうだ。マンティラならティアに預けてみるのはどうだろう。
「ティア。育ててみる?」
「はい! 育てたいです!」
少しだけ卵に僕の魔力を与えて、ティアに預けることにした。
孵化したら、ティアの妹か弟? それとも子供になるのか? まあ、無事に生まれたら考えよう。
またしても、家族が増えそうな気配がするのであった。
人物説明
●(ボタイン=)ヴィアラクテ・ボタイン
サリナ系統。アルセイデスの魔物狩りではガディアナチームの一員。今回従事したヴィアラクテの氏名を持った者の中で、唯一Bランクとなった。【金剛】と【突進】スキルを持っている。
●(ザニア=)ヴィアラクテ・ザニア
サリナ系統。ツキシロ率いる魔植物採取チームの一員。任務の際に【一刀斬り】スキルを得る。