防具の完成
サリナの演説(?)が終わり、各々がそれぞれ思い思いの行動をする。
イーナはマーベラの変化能力に刺激を受けて、【変化】スキルを研くべく色々なものに変化を繰り返している。
アンフィは「カーバンクルの鏡」と「アルミラージの角」、「カラカラの嘴」の砕いたものなどを入れ込んだ杖を作りだした。その杖を振るうと、【魔法・物理衝撃防御】と【魔法・物理攻撃反射】の効果が一定範囲に表れるという。【結界】に使いものだろう。
サリナはプティラーナ達デーアビントルと飛行チームの在り方を実践しながら模索しているようだ。
その他の者も、近場だが森の中でスキル上げに行った。
僕はマーベラの防具作りをしている二人を見学することにした。未知の世界だし、純粋に興味がある。
テグミネは職種が『魔道具使い』となっている。変わった職種だが、研究所で様々な魔道具に触れて使用しているうちに、そうなっていたという。職種を得た時にスキル【武具鑑定】を得て、この数日でレベルを上げたそうだ(現在レベル3)。
アルキバは『錬金術師見習い』だという。これも研究所務めで得たのだろう。
浄化系の【抽出】スキルを持っていて、予備の剣やアーマースーツから必要な素材を抜いたと言っている。
最初は魔法紙に魔法陣を描き、それを発動して武具の鑑定も、特定素材の抽出も行っていたそうだが、いつの間にかスキルを獲得したという。
眼前にはいくつもの素材が置かれていて、下地となるアーマースーツの生地もあった。
できることなら、素材を抽出するのも見たかったけれど、もう済んでしまったらしい。残念だ。
「この生地はムワット石とスパイダルの糸だけになっているんだよな」
「ああ、他のものは抽出したぞ。私の力不足で大分かかってしまった。それより付与解除はしたのか?」
「したよ。なので、今この生地には【物理衝撃吸収】効果しかない」
「では、それの強化と改めての【魔法攻撃吸収】か?」
「いや、マーベラ様はアーマースーツを着た上で怪我なされたのだ。研究所のショー師のご意見を元に、吸収ではなく『反射』を組み込むべきだろう」
何やら難しい話をしている。口を挟む余地はない。黙って見ているしかないのだ。
「テグミネ。魔植物をこちらに」
「分かった。それと魔紙もだな」
「ああ。助かる」
目の前でツキシロが集めた魔植物が、魔紙から浮かび上がった魔法陣に吸収され、ゆっくりと生地と一体となっていく。
「おお」
その光景が不思議で思わず感嘆の声が出てしまう。
色々と聞いてみたいのだが、邪魔をすることになるので控えた。
「ねえ、アンフィ。彼らのように研究所にいるアントラーはどのくらいいるの?」
杖の試験を終えたアンフィに聞いてみた。
「総勢20名ですわ。交代で武の訓練などに出ていますので、常時12、3名が研究所にいますね」
「へえ。ねえ、彼らは軍務から外して、研究職専門に従事してもらったらどうだろう?」
今は十分な兵力を有している。
アンフィの長女やサリナのファミリーの後継者(新女王)もいるので、兵士を増やそうと思えば補充は可能だ。
これからはサリナやアンフィの息子達も武力以外の仕事(役割)をしてもらったらどうだろうか。
身近な例として、アンフィの次男であるビュウロンは財務官として働いてくれている。
「そうですね。私も助手は何人か欲しいですし、ペン殿や副所長にも何人か専属を付けるのも良いかもしれません。それに独自の研究を行っている者もいますから」
なにそれ?独自の研究!? 聞いてみたい!
二日後、とうとう防具が、ほぼ、できあがったようだ。
二人とも夜遅くまで取り組んでいたようだ。
「マーベラ様。足を」
マーベラが右足を出す。
アルキバが足首に生地を当てて、魔紙の魔方陣を展開。すると、ぴたっと生地が足首に張り付いた。
「うわっ!」
「どうですか?」
「うん。フィットする。というか付けている感覚もないよ!」
「それは良かったです。では、どのような効果を付与してあるのか、ご説明いたします。
まずは御懸念だった防御面ですが、【物理攻撃吸収】、【魔攻攻撃吸収】を強化しています。また、【衝撃反射】を組み込んで、吸収しきれなかった衝撃を跳ね返します。
そして、【身体強化】、【解毒】効果を付与。更に【火球】と【風の刃】で攻撃性を持たせました。いかかでしょうか?」
「い、いかがでって……。ユリアスゥ。なんか凄いんだけど」
「う、うん。付与がいっぱいだね。ははっ」
とんでもない物を作ってくれていた!
「それでよろしければ、魔力を流してください。一度流せば、あとは自然に魔力が供給されます」
「分かった!」
マーベラは防具に魔力を流し、走ったり跳ねたりしている。
「うん。凄いや! 意識したよりも速く走れる」
「よかったぁ。では、本来の防御面も……。」
テグミネとアルキバは、いつの間にか戻ってきていた面々に、マーベラへ攻撃を仕掛けてくれるように頼んだ。
「お母さま。私が……」
名乗りを上げたのはラナだ。
ラナは【噴炎】を防具を付けた足に放つ。
炎が足を襲うが、瞬時に霧散する。
「おお、すごい!」
「本当ですね。お母さま」
「いつ、そんな技を覚えたの!?」
マーベラがすごいと言ったのは、ラナ(タカラナ)の【噴炎】を見たからだった。
「えっ? ああ、魔物狩りをしていて、覚えました。……それより、防具がすごいです!」
「う、うん。すごいな……」
マーベラの歯切れが悪い。
それはそうだろうな。今までのアーマースーツで同様の効果は付いていたのだ。マーベラも僕も特に驚くことではない。
「あの、マーベラ様。防具部分だけではなくて身体全体をカバーしているはずなので、そのあたりも試していただけますか?もう少し威力を高めた攻撃を受けてください」
うん? 防具以外のところにも効果が? それはちょっとすごいかも。
「ならば、私が」
『ボンッ』
いきなり、サリナが火球を放った。結構な威力の火球を。
「うわっ!」
『ボンッ』
マーベラと身体と同じくらいの火球が当たる。
と同時に跳ね返って、今度はサリナを襲う。
まあ、サリナは避けたんだけれど、驚いた。
「うわーっ!すごいすごい! これ、ほんとにすごいや!」
今度はちゃんと防具に驚いたようだ。
それから、足を蹴り上げて【火球】や【風の刃】を出したり、色々と試したけれど、どれも想定以上だった。
マーベラはとんでもない防具を手にしたものだ。
先程は防具に喜んでいたマーベラだが、しばらくすると微妙な表情を浮かべた。
「あのさ。これ本当にすごいんだけどさ。 魔力の使用量が大きいね」
なるほど。あれだけの効果を付与しているのだ。その効果を常に維持するとなれば、相応の魔力が必要だろう。長期戦となれば、魔力の減りは大事に繋がりかねない。
テグミネとアルキバが互いに顔を見合わせ、こくりと頷き合う。
そして、テグミネがマーベラの元へ。アルキバは何かを用意しはじめる。
「やはり、そうですか。マーベラ様には不必要かもと思っていたのですが、私達も欲張って色々と付与しましたから。
アルキバ。用意できたかい?」
「ああ。マーベラ様。足をこちらに」
何をするのだろう? まだ、何か付与するのか?
二人は白い玉と緑の玉を埋め込む。
「この白玉は魔石です。非常に純度の高い魔力を供給してくれます。
緑玉は魔素を吸収して魔力に変えます」
「どういうこと?」
「つまり、白玉に溜められた魔力で防具の付与を作動させるのです。白玉の減った魔力は緑玉から自動的に補充される仕組みです」
説明を受けているマーベラは分かったような分からないような顔をした。
「つまり、魔力の心配をしないでいいってことだよね!?」
「はい。ユリアス様のおっしゃる通りです」
「そうか。良かった!ありがとう。二人とも。あっと、材料を集めてくれたツキシロ達もありがとうね」
こうして、無事にマーベラの防具は完成した。
後で聞いたら、白玉は『イエローバウム』というオウムタイプの魔物の魔石なんだそうだ。この森ではたくさん飛んでいる。
緑玉は『トッピ』という魔大木の若木の葉を固めたものだ。このトッピもこの森に限らず珍しい木ではない。
イエローバウムはこの辺りではないと捉えることは難しそうなので、とりあえず20個くらいの魔石を確保しておいた。
さて、先に進もう。