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ユリアス達が留守の間(4) 倉庫番(2)

私は提案いたします。


「ビュウロン様。それでは私財と公財を分けてしまわれたらどうでしょう」

「うん? あの量をか?」


露骨に嫌な顔をされます。

まあ、私は少しばかりの提案をしただけです。一使用人ですから。


ビュウロン様は下唇を噛んで「んー」と唸っています。お考えになる時の癖のようです。

やがて……。


「ツマミエ殿。おぬし、分けろ!」

「はい!? わ、(わたくし)は一使用人でございます。男爵の私財ならばお役目かもしれませんが、公財などは恐れ多くて無理でございます。お役人のお仕事です」


無理です。私に押し付けようとされる魂胆が見え見えですよ。


「私財の管理が仕事なら、その私財を取り分けねばなるまい?」


ビュウロン様はニヤリと笑われた。


やられました。こんなことなら、案など示さねばよかったと思いましたが、後の祭りですね。


結局は広大な地下室を二分割して、私財と公財に分ける仕事をする羽目になりました。

分け終わるのに三日も掛かったのですよ。ひと塊だった物をふたつに分けるのです。余計にスペースが無くなりました。


分け終わると、また、ビュウロン様がやってきます。


「おお、綺麗に分けたな」

「詳細が分からないので半分に分けただけですよ」

「それでいいと思うぞ。問題があれば、その時に移せばいいさ」


「はあ。そうですね。それで、ビュウロン様。今後に持ち込まれる物ですが、ここに降ろす前に分別をお願いいたします」


在庫帳も私財用と公財用の二つ作りました。今の在庫はとりあえずは整理出来たのですが、問題はこれから収められる物です。最初から区別をしていただないと困ります。


「えっ!? 私か?」

「他におりませんよ。ビュウロン様が判断されてください。私には責任取れませんので。一使用人ですから」

「わ、分かった」


ふう。良かったです。これでこれからは降りて来たものを収めるだけです。

あ、そうそう、地下室は広げられました。1.5倍程に。元がせまかったのですよ。

まあ、普通のお部屋の4部屋分もありましたけれどね。

工事はアントラーの方々とドワーフの方がやってきて、あっという間でした。


「その件は仕方がないな。あの件はどうなった?」


なんのことでしょうか?


「ほら、この物々の現金化の話だ。案を考えておいてと言っただろう!?」

「いいえ。うかがっておりません!」


聞いてないです! 現金化しなくてはという話を聞いただけで、意見を求められてはいません!私は一使用人なのですよ!?


はあ、拒否しても無駄ですよね……。


「はあ。しょうがないですねえ。

ここの在庫を減らすのが第一ですか?それとも現金を得るのが優先ですか?」


「それは現金化優先だ」


話を聞くと、某所を開発したいうです。そのために、ある程度のまとまった現金が必要なんだとか。


「そうですか。では、売っても良い高価な物を三つ選んでください」


ビュウロン様はムワット石の10キロ程の塊とミスリル鋼20キロ、リザードマンの魔石2つを選びました。


「そうですね。全て貴族に売りましょう。貴族ならば、これらの品は宝物とするでしょうから、市場に出てくることはありません」


「ふむふむ。貴族に売るのか。さすがだな、ツマミエ殿」


それから、ビュウロン殿は出て行きました。


売り先が決まったのでしょう。二日後に再びお見えになり、ミスリル鋼とリザードマンの魔石、カーバンクルの鏡1枚を持って行かれたのです。ムワット石は取っておくようです。

もちろん、きちんと記録しました。仕事ですから。

いくらになったのかは聞きませんが、あれから現金化の話はされないので、十分な結果だったのでしょう。


……困りました。

ビュウロン様の執務室が私の執務室の隣に移動してきたのです。

どうやら、私はビュウロン様から逃れられないようです。

ほら。私の執務室の扉が開かれます。


「なあ、ツマミエ殿。

やっぱり、このゴブリンやオークの魔石、どうにかならないか? 場所を取って困る。

ユリアス様がお帰りの際は、とてつもない量の物が運び込まれるぞ」

「そうなのですか?」

「ああ、断言出来る。経験則だ」


そんなに自慢気に話されなくても良いですよ。ユリアス様が規格外というのは、皆さんのお話で十分理解しておりますから。


「そうですねぇ……。ランタンにして売ればいかがでしょう。コルメイスでは行き渡っておりますが、他都市では夜の灯りはほとんどないですから、価格によっては売れると思われます。まあ、今の量が量ですから、多少の在庫整理という感じだとは思いますけれど」

「おーっ。さすがだ。少しでも目減りすればいい。塵も積もればだ。はははっ」

「そうですね。ははっ」

「なんだ!? おぬしだって在庫が減らねば困るだろうに」

「ええ、そうですね。今は余裕がありますけれど、考えてご提案せねばならないですね」

「ん? 余裕があると? この前は在庫減らしてくれだの、スペースがないだの言っていたではないか!?」


不審に思われたビュウロン様は私の管理する私財方倉庫に入ります。


「や!? ややっ? どうしたのだ!?

随分とスペースがあるではないか! 大量にあった魔石類はどこにやった?」


そうです。私の管理させていただいている方は以前の半分以下にスペースを減らしているのです。


「どこにも移動しておりませんよ。そこにあります」


私は種明かしをします。

棚に置いてある箱を手に取ります。20×30×15センチのお菓子の箱ほどの大きさです。脇には『オークの魔石×50個』とラベルを付けています。その他に番号をつけて、入手経過や日時などの情報を管理帳で追えるようにしているのです。


箱を開けると、ぴっちりとしたサイズの袋が入っています。

その口を開けて手を突っ込み、魔石を取り出してお見せします。次から次へと魔石を出します。


「あーっ! コルメイスバッグか! ずるいぞ! なぜに教えてくれないのだ!」


私は私のやりやすいように工夫させていただいただけですから。ふふふっ。


「しかしだな。こんなにたくさんのコルメイスバッグはどうしたのだ?」


それはエリナ様にお伺いしたのですよ。安く手に入らないかと。

実はコルメイスバッグの素材であるワームは研究所で養殖されていたのです。

研究員の話では簡単に増えるそうです。

サイズが小さいのですが、ツギハギしてバッグを量産できるようになったということです。それを大量に購入しただけです。


「なぜ、黙っていたのだ!いぢわるな」


無茶ぶりばかりしてくださるビュウロン様に一矢報いることが出来たようです。


「しかし、購入費はどうしたのだ? 」

「それはパドレオン卿の私財ですから、後見人のエリナ様に申請して、許可をいただいておりますよ」


私は書類を見せました。


[倉庫整理の素材]。購入先も購入金額も記載してあります。そしてエリナ様のサインもきっちりといただいています。

こちらに落ち度はないのです!


「くっ! 私も購入する!」


私は割と仲良くビュウロン様と仕事をさせていただいております。


一使用人ですがね。



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