ユリアス達が留守の間(2) チョコレッタ(2)
わたし達はブカスの森へ入ったのだけれど、ファーファ以外はまあヘタれヘタれ!
カラカラが出てきては「ワーッワーッ」と騒ぐ騒ぐ。貴方達より若いわたしやファーファの背中に隠れるくらいにヘタれ。
まあ、最初の時のわたしやファーファもそうだったのかもしれないけれど、ここまでは酷くなかったはず。
「おじさん! また、カラカラが来たら火球で仕留めてね」
「ええっ!そんな!詠唱が間に合いません」
そっか。ファーファも無詠唱で魔法陣を展開できるようになったのは最近だもんね。中々、無詠唱派は少ないことを実感。
「じゃあさ。詠唱して魔法陣を出したままにしていて。それで出てきたら発動させてみて」
基本のステータスを聞いたら、そこそこの魔力量はある。枯渇したら、もったいないけれどポーションを飲んで魔力の補充をしてもらおう。
もちろん、後でポーション代は精算してもらうけれどね。
しばらくすると、前方の茂みからガサゴソと音がする。
「おじさん。来るわよ。構えていてね」
「はい!」
やはり現れた!
『ポンッ』
火球と言うには随分小さな火の塊が飛び出てカラカラに当たった。
「キュッ」
当てられたカラカラは可愛い悲鳴を上げて二三歩歩いてパタッと倒れて魔石に変わった。
「や、やりました!」
あーそうね。やったわね。でもね、当たってから二三歩は歩けるくらいに威力が小さいのよ。それはもう驚くくらいにね。
「そう、言われましても、どのようにすれば?」
ユリアス君ならば的確なアドバイスするんだろうなあ。ユリアス君ならどうするかなと考えて見た。わたしにどうやって教えてくれたっけかな。
あ、そうだ!
「ねえ、おじさん。もう一回魔法陣展開して」
「はあ」
頭に疑問符を浮かべているような感じで、魔法陣を展開するおじさん。
ユリアス君は何回かわたしと手を重ねてくれたわ。きっと意味があるはずだわ。わたしは魔力をおじさんの魔法陣に流してあげるだけ。
「おお、なんか凄い感じがします?」
「なんで、疑問形なのよ! これで、撃って見てよ」
『ドンッ』
まだ、弱いけれど、先程の10倍くらいの威力になったと思う。これでカラカラくらいなら余裕のはず。オークはちょっと厳しいかな。
その後、何回か繰り返してみると、おじさん一人でもそこそこの火球を放てるようになった。
「チョコレッタお姉様。こんなにのんびりしてていいんですか?」
「そうね。そろそろ、先に進みましょうか」
まあ、少しでもおじさんの火球の威力が上がったから良いとしよう。
進んでいる時に気づいた。
石を取る役目のテイマー兄弟。後ろにテイムモンスターを連れているのだけれど、一切コミニケーションがない。兄弟はわたし達とはそれなりに話をしたり、質問をしてきたりするけれど、テイムモンスターとは一切それがない。
「あのさ。いつもこんな感じなの?」
「はい?何がですか?」
「あなた達のテイムモンスターといつもこんな感じなのかなって」
「そうですよ。なにか?」
わたしの言うテイマーはユリアス君だけなんだけれど、明らかに違う。
ユリアス君にとってテイムモンスターは家族であり友達だ。それゆえに信頼関係が強い。
テイマーとテイムモンスターってそういうものじゃないのだろうか。
わたしはそう話した。
「えっ!? だって僕らのテイムモンスターですよ!? 僕の命令は聞くのは当たり前だし、少なくとも僕の魔力をほんの少しでもエネルギーとしているんですから」
「ううむ、そういうものなの?」
「そういうものですよ。テイマーとテイムモンスターの関係は」
なんか、納得いかない。
「彼らの名前は?」
「名前?名前なんかありませんよ。名前呼ぶ必要ないですもん。行け!とか逃げろとか言うくらいなので」
あかん。これは間違っている。
「名前はつけた方がいいですな」
おじさんが言う。そうでしょ!?そうだよね!
「人間の最初の呪術というのは『名付け』なんだそうですよ。名は体を表すと言うでしょう? 私の知るシムオールのお偉いさんがテイマーだったのですが、きちんと名前を付けておられましたよ」
「ふーん、そうなんですか。じゃあ、何か付けようかな。その名は体を表す?ってやつで言うと「エンペラー」とか「キング」とかつけたらいい感じですよね?」
「それは違いますな。それは『名前負け』と言うやつになりますぞ」
「えーっ。なんか、めんどくさいね」
なんか、わたしは頭にきた。彼らのテイムモンスターを思ってのことではなくて、なんか、テイマーの人達や他の人達のテイムモンスターが馬鹿にされたような気がする。
抑えられなくて、文句を言おうとしたら、今まで黙って聞いていたファーファが口を開いた。
「だから、貴方達はへっぽこなんですね」
「な!? どういう意味だ!?」
「そのまんまですよ」
「はん? テイマーのことを知りもしないで喧嘩売る気か!」
「こわーいっ!お姉さまーっ!
でも、知っていますよ。テイマーもテイムモンスターも」
「どこのどいつだ。大したやつじゃないだろう?そんなやつ!」
「パドレオン男爵ですが? 男爵のテイムモンスターももちろん知っていますよ」
「あっ!…………」
結構、言いたいことをファーファが言ってくれた。ちょっとスッキリした。
わたしはファーファがユリアス君のことを認めていることが知れて嬉しかった。今度、ケーキ買ってあげよう。
それから、テイマー兄弟は謝罪した後でユリアス君とテイムモンスターの話を聞きたがった。教えられる範囲で話してあげる。
「そっか、兄さん。僕達、間違ってたね。せっかく、僕達のテイムモンスターになってくれたんだから大事にしなくちゃね」
「おう、そうだな。気をつけよう」
二人が考えを改めてくれて何よりだわ。
二人はあれこれと考えてテイムモンスターに名を付けていた。テイムモンスター達が喜んでいるように見える。気のせいじゃないと思う。
それからは採取場近くでオークが7頭出たけれど、わたしが3頭、ファーファが2頭、なんと、テイマー兄弟のテイムモンスターが1頭づつ退治していた。
無事に採取完了。森を駆け抜けてアイーダ草原に造られた隔離場に届けたら、見張りと警護を兼ねたアントラーの兵士と交代して終わり!
無事に任務完了!
終わった時におじさんが「【ファイヤーボール】のスキルが上がりました」と喜んでいた。良かった良かった。
任務を終えたメンバー達のその後
●ガル・チョコレッタ
今までと変わらない生活。
●ぜロイス・ファーファ
報酬の半分(銀貨50枚)を生活費としてチョコレッタに渡す。チョコレッタの家を出ていく気がないらしい。
●カリアテア兄弟
宿屋暮らしから部屋を借りて生活できるようになる。
チョコレッタに頼んで、チョコレッタの依頼任務に同行させてもらうことが増えた。
●リビアント・ハンコック
報酬を得たことでシムオールから家族を呼び寄せた。
積極的にギルドの依頼をこなすようになる。