魔物狩り(7)ユリアスチーム(クルハ視線)(2)
サリナ様の姿でマーベラ様は確かめるように空を飛ぶ。
納得がいったのだろう。ベアの背後に飛ぶとこつんと頭を小突いた。
何事かとベアは木に掴まりながら振り向いた。その時、サリナ様が、いや、マーベラ様が横っ面を思いっきり蹴飛ばした。
ゆっくりと木から離れたベアは、これまたゆっくりと落下する。
『ずんっ!』と地に叩きつけられる物凄い音がした。
マーベラ様が倒してしまわれたと思った。高さ20メートル位のところから落ちたのだ。受け身を取る事もなく地に叩きつけられたのだから。
やはり、ランクの高い魔物だ。落ちたベアはゆっくりと立ち上がった。身の丈3メートルほど。でかい!
既にマーベラ様はユリアス様の横にいる。姿はサリナ様の姿のままで。
マーベラ様がベアに立ち向かおうと身構える。が、それをユリアス様が止める。
「マーベラ。ここは大丈夫だから。蜂を見てあげてよ」
「分かった!」
再びマーベラ様が飛び上がった。
「みんなも下がってて」
ユリアス様が仰るが大丈夫なのだろうか?
ユリアス様はお強い。それは分かる。
でも、周りのサリナ様やアンフィ母上、マーベラ様、さらにはルドフラン従兄様、ラトレル兄様の方が武力的には強い……と思う。
以前、耳にした話ではユリアス様はBランクではなかったか? ストライプベアはAランクだ。
立ち上がったベアにユリアス様は「アクアランス」と叫び、四肢を撃ち抜いた。
おお、凄い!私の不安は杞憂のようだ。
「ガアーッ!!」
四肢を撃ち抜かれてもベアは倒れずに、こちらに向かってくる気配を見せた。
「頑丈だな。水の旋盤!」
ユリアス様の手から放たれた直径1メートルほどの水の円盤は少しカーブを描きながらベアに迫り、首をはねたのである。
これほどまでにお強かったのか!少しでもユリアス様のお力を疑った私を恥じるしかあるまい。
「魔力のムダだなーっ」
マイムがパタパタと飛びながらユリアス様に言っている。
「そう? どうすれば良かったの?」
「ユリアスの旋盤、大きすぎ。半分の大きさで十分だよ」
「そっか。ありがと、マイム」
なるほど、そうなのか。相手によって己の力の込め具合を変える。勉強になる。私にはそれに相当する武力はないが、覚えておこう。
しばらくすると、マーベラ様が大きな蜂の巣を抱えて降りてこられた。物凄く大きい。高さは2メートルくらいだが、横幅が4.5メートルはあるだろうか。それも壊れている状態でだ。壊れていなかったらどのくらいの大きさだったのだろうか。
蜂の巣を降ろしたマーベラ様は本来の姿に戻られた。
その巣だが、中から1メートルほどの黄色と緑の縞模様の蜂が出てくる。バチバチとなにやら電撃(?)のようなものを放っていた。その風格から、おそらくは女王蜂と思われる。
その後でわらわらと湧くように小型の蜂が出てくる出てくる。小型と言っても50センチほどはある。その蜂が48頭だ。
蜂たちは状況が飲み込めていないのか興奮状態のようだ。
先程よりも女王蜂の放つ電撃が大きい。
つかつかとマーベラ様が近づいて、むんずと頭を掴んだ。電撃がマーベラ様を襲うが、マーベラ様はものともせずに平然として掴んだ手を離そうとはしない。
マーベラ様は女王蜂の顔に口元を寄せてなにやら話をしているようだ。
それから蜂達は大人しくなった。
よく見ると蜂達の身体は傷だらけである。女王蜂は腹部に大きな裂傷があるし、他の蜂も脚が何本か無かったりしているではないか。
「マイム。治してあげられる?」
ユリアス様がそう言うと、マイムも「いいよ」と答えている。
マイムが羽をひらひらさせると光の粒のようなものが蜂達に降り注いだ。ゆっくりと淡い光が幻想的だ。思わず見惚れてしまった。
マーベラ様とユリアス様が女王蜂と何やら話をされている。
ユリアス様は少し困った顔をされているが何事だろうか。気になるが、なんとなく私が関与すべきではないと感じる。推移を見守るしかない。
しばらくするとユリアス様が右手を女王蜂に翳された。
神々しい光が放たれ女王蜂を包み込む。
私は知っている。これはテイム契約の光だ。
蜂の魔物の女王はユリアス様のテイムモンスターになり、「プティラーナ」と名付けられた。
その後の事は何がどうなったのか良く分からない。
マーベラ様が再びサリナ様の姿へ変化して、トラの親子とテイム契約をされていた。
このような出来事は念思によって、母上やサリナ様にご報告した方が良いのだろうが……私には良く理解出来ない。とりあえず結果だけ報告することにした。
そうして、ユリアスチームはベースへ引き上げるのだった。
●ユリアスの新たなテイムモンスター
デーアビントル族女王蜂『プティラーナ』Bランク
●マーベラのテイムモンスターになった魔物
スネークタイガー族『リグレーヌ』Bランク