魔物狩り(6) ユリアスチーム(クルハ視線)(1)
私はクルハ。アルセイデスの森の「ツチグサレ」というキノコを消滅させるための部隊に従事している。
私程度ではなかなかハードな行軍だが、それはもとより覚悟している。
アンフィ母上、サリナ様、そしてユリアス様と御一緒させて頂けるのは名誉なことだ。
更に我らは氏名を賜った。
その途端、私は【超動体視力】というスキルを得る。それまでは【俊足】スキルだけだった。ユリアス様に名を頂くと基礎能力が上がるのは聞いていたが、これ程とは思わなかった。
母上にお伺いしたところ、私は氏と名を同時に賜ったことで、飛躍的に伸びたということだ。
今、私は『魔物狩り』でユリアス様のチームに入れていただいている。
スキルのおかげで風のごとく動くマーベラ様の動きも良く見える。
なるほど、あのように捌くのか、、、とても勉強になるものだ。
「ねえ、クルハ。君はマーベラの動きを追えるんだよね? それは凄いことだよ」
「ありがとうございます」
「うん。さっきマーベラが仕留め損ねたウォーウルフの体当たり受けちゃったみたいだけれど、その時は見えなかったの?」
先程、ウルフタイプの魔物『ウォーウルフ』十数頭に襲われて、ほとんどマーベラ様が仕留めたのだが、それを逃れた一頭に体当たりをくらってしまった。
「いいえ。急でしたが、見えておりました」
「そっか。見えていたけれど反応出来なかったってこと?」
「はい。恥ずかしながら……」
「ふうん……」
不甲斐ない私に呆れてしまわれた。
残念ながら、これが私の実力なのだ。いくら眼が良くなったとて意味のないことなのかもしれない。
「クルハ君。見えているなら反応すればいいと思うよ」
「は!?」
「だからね、反応出来なかったのが恐怖心とか焦りでないのならば、単に反応速度が追いついていないんだと思う」
「と言いますと?」
飲み込みの悪い私にユリアス様は丁寧に教えてくださった。私は呆れられた訳ではなかったことに安堵した。
なるほど、要は反射速度を上げれば、私の眼が活きてくるのか。なるほど、なるほど。
更にその反射速度を上げる方法をも教えてくださる。
ヒョイッとユリアス様が私に小石を投げた。自分に当たる寸前に避ける。
何回か繰り返すうちに、己の反射速度が分かってきた。
「ね。今のクルハ君の状態が分かったでしょ? そうしたら、そのギリギリのところを繰り返すと反応が速くなると思う。今、僕のスキルの効果で、そういう能力も上がりやすいんじゃないかな。たぶんだけど」
「あ、ありがとうございます!」
やはり、ユリアス様は凄い!
それからマーベラ様も協力して下さり、歩きながら、不意に小石を投げてくる。私はそれをギリギリまで引き付けて避ける。そんなことを繰り返しつつ進む。
それから幾体かの魔物と対峙するが、その度に弱らせた魔物と向き合わせてくれた。
魔物を仕留めるとスキルが上がる。その条件は色々あるそうだが、母上によると『経験値』が大きく作用するらしい。
私はアントラーLv.3であったのが7にまで上がり、【超動体視力】もレベルをひとつ上げた(2)。
結構な時間、森を進んでいた。
『ゴウッ!』
と魔物の咆哮が聞こえる。
おそらく熊だ。
ユリアス様はさして慌てることもなく、その咆哮の元へと進まれる。
そこにはスネークタイガーと呼ばれるトラ型の魔物の親子とレッドベアが戦っていた。
スネークタイガーはボロボロだ。対するレッドベアも片腕がない。激しい戦いのようだ。トラ(スネークタイガー)は子トラを庇っているようで、当の子トラは震えて縮こまっている。
私達はどうするのだろうかと思っていると、『ザッ』とマーベラ様が飛び出した。
それはあっという間だった。トラとベアの間に駆けて入ったかと思うと手刀でベアの胸を突いたのだ。
手刀を受けたベアは断末魔を上げることもなく体が縮み魔石と化した。
マーベラ様は何やらトラと話をしているが、トラは一瞬安堵の表情を浮かべた後で『ドサッ』と倒れた。子トラが泣きながら縋りついた。
「クルハ。マンマルポーションを!」
マーベラ様に言われて腰袋からポーションを取り出してトラの元へ行く。
「全部かけな」
私は一瓶をトラにかけた。トラの体のあちこちから湯気のような煙が上がり、みるみるうちに怪我を癒して行く。
ユリアス様はというと、レッドベアは一頭だけではなかったようで、少し離れたところで退治していた。水を纏った剣で一刀両断! 凄い!
マーベラ様はトラと話をしている。子トラも傍にいる。
ユリアス様は水の妖精のマイムと何やら話をしながら大木の上部を見上げていた。マイムがユリアス様の周りをフワフワと飛ぶ姿はなかなか幻想的で美しい。
何かあるのだろうかと私も見上げて見ると、先程のレッドベアとは比べ物にならないほどの大きさの熊の魔物がいた。
「あっ!あれはストライプベア!?」
私はユリアス様の元へ駆け寄った。
「そうだね。初めて見たけど、ストライプベアだね」
ストライプベアはベアタイプの魔物の中でも上位種だ。たしか、Aランクではなかったか?
「見てごらん。お目当ては蜂の巣のようだよ」
言われて目をこらすと、ストライプベアは大きな数メートルはあろうかという蜂の巣を壊そうとしている。いや、既に蜂の巣は半壊だ。その巣の蜂も魔物だ。あんなに大きな蜂は通常種ではない。
「ど、どうなさるので?」
「うーん……。蜂を助けよう」
気づいたらマーベラ様とトラ親子も傍にいた。
「でも、高いよ!?」
マーベラ様の言う通りに20メートルはある高さだ。
「マーベラはあの熊を落とせる? ダメなら僕が落とすけど」
「うん? 落とせるわよ。やっていいの?」
「いいけど、あの熊の外皮は相当硬そうだよ。仕留め損ねたら逃げられそうだから、落とすようにして。下で僕が仕留めるからさ。
ところで、どうやって落とすの? あそこまで上る?」
マーベラ様の身体能力ならばあそこまで上るのも苦ではないだろう。今のまま(人間)の姿でも容易なはずだ。
「そうねえ……。下から上がっていったら逃げちゃうかもね。ならば飛ぶ?飛んで蹴っとばすのはどう?」
そう言い終わるとマーベラ様は『フォンッ』と変化した。
「サ、サリナ様!?」
「アタシよ。ア・タ・シ!」
びっくりした!ユリアス様も驚いている。
「マーベラ!凄い!サリナにもなれるの!?」
「えへへ!練習してたんだ」
ユリアス様やその周囲の方々には驚かされてばかりだ。