魔物狩り(5) サリナチーム
「そっちだ!カイド!」
「おうっ!」
サリナチームは森の奥で戦い続けていた。
今も茂みから飛び出してきたワーグのむれをカイドとバテンカイトスが迎え撃っている。
チームを率いるサリナは空に浮かび、眺めていた。
カイドは【投擲】スキル持ちで短刀を投げては魔物を仕留めている。
バテンカイトスはこの森に入ってから得た【挑発】スキルで敵を引き付ける。
サリナ系とアンフィ系だが、二人の息はばっちりと合っているのは、数度の実戦を共に過ごしているのと訓練所で一緒に鍛錬することが多かったからだ。
「ふう。なんとか倒せたな。バテン、もう少し引き付けられないか? 短刀を投げる予備動作にもう少し時間が欲しい」
「無茶を言うな。あれでもギリギリだ。あそこでスキルを切らなければ、こちらが危うい」
二人が戦いの反省の互いへの要望を言い合っていると『すとっ』とサリナが降りてきた。
「どっちもどっちよ」
「「はい」」
サリナはガディアナとは別の手法でスパルタだ。
「ポーションを飲んだら次行くわよ」
「「はい」」
サリナは細かい説明はあまりしない。実戦で体得させる方針だ。
ふわりと再び浮かび上がったサリナは茂みに向かって手をかざす。魔法陣が浮かび上がり、『火の矢』が茂みに降り注いだ。『火の矢』=【ファイヤーアロー】はサリナが使用出来る2つ目の火属性魔法だ。この森へ出立する前に魔法少女・チョコレッタに教えてもらっていた。
サリナは無闇やたらに火矢を打ち込んでいる訳では無い。【女王の支配】スキルに含まれる【魔力感知】で魔物の存在を察知している。
火矢は魔物を炙り出すためだ。飛び出して来た魔物をカイドとバテンカイトスが倒す。
サリナは二人に休む間を与えないように魔物を炙り出しているのだ。結構なスパルタだが、二人は必死にこなしていると言えよう。何しろポーションを飲む時間しか与えないのだから。
先程、炙り出された魔物は『スリーホーンロープ』。アルミラージの最上位種で名の通り3本の角を持ち突き刺してくるBランクの下位の魔物。群れていることが多く、二人も数十という個体に対している。
「挑発っ!」
スリーホーンロープが一斉にバテンカイトスを向き突進する。
それをカイドが短刀を投げて駆逐するのだが、数が多いために数頭を仕留め損ねる。
「ちっ!外したか!」
バテンカイトスも剣士だし、【身体強化】スキル持ちなので、数頭くらいは問題ない。しかし、カイド自身が納得しない。
もっと精度を上げなくては。どうすればよい? 短刀に纏った魔力を操作出来れば?
カイドは考える。
ユリアスファミリーの特徴として『考える』能力が挙げられるだろう。それぞれが思考し続けるのだ。
考えたことは実践で試すのが一番良い。その意味でこの遠征は彼らアントラーの者達にとって非常に有意義なのである。
カイドは今一度、短刀に魔力を込めて投げる。わざと狙いを外して。そして自分から離れた魔力に「曲がれ」と念じる。
するとどうだろう。意識した通りにはいかなかったが、それでも短刀の軌道は曲がった。
「よし!もう一度!」
カイドは俄然やる気に満ちて、次々と投げる。
試行錯誤の末にカイドは格段に【投擲】スキルをレベルアップし、離れたところから魔力を扱う『魔力操作』能力も得ることができた。
一連の魔物狩りを終える頃には、百発百中とまではいかなくとも、かなりの高確率で敵を捉えられるようになっていた。
バテンカイトスは【挑発】スキルの危険性を感じている。
チームとしてスキルで自らに振り向かせる。他の者にとっては隙を見つけられやすく攻撃しやすい利点がある。
だが、自分がやられてしまっては意味がない。【身体強化】スキルを持ってはいるが、そのスキルだけでは心許ない気がしている。
そこで魔力を己の前面に厚く纏い、敵の攻撃を受け止めることにした。もちろん、明らかにランク差のある魔物には吹き飛ばされたりしてしまうだろう。その時は避けたりカウンター攻撃で対すれば良い。
彼の試みは小さい魔物には有効で、この「魔物狩り」である程度は形になり、スキル【身体硬化】をものにするのである。【身体硬化】は身体強化スキルから派生したもので、効果としては【金剛】スキルと似ている。
二人が方向性を定めて取り組む姿を上空で微笑みながらサリナは見ていた。
かくゆうサリナもただ敵を炙り出すだけではない。彼女も新たなスキルの獲得を目指している。
彼女は他の二人には苦重そうな大型の魔物、例えば『ヴォーグ』と言うウルフタイプの魔物やバンダースナッチなどを個別に駆逐している。
その際には上空から飛翔の際に発生する風を利用した【飛翔旋風】で切り刻むのだ。段々とその精度も威力も増している。
サリナの物事に対する姿勢は、ひとつの事を徹底的に繰り返すところにある。
結果的にサリナチームは他のチームと比べて広範囲を移動し、数多の魔物を討ち取る。多くの遺物と魔石を手にベースへ戻っていった。