魔物狩り(1) イーナチーム(1)
僕は魔物狩りに出るメンバーを5チームに分けた。力のある者を中心に据えて、アントラー兵達を率いる形にする。魔物を狩ることよりも、皆の実力の底上げが目的だ。
【ユリアスチーム】
ユリアス、マーベラ、クルハ(アンフィ系)
【サリナチーム】
サリナ、カイド(サリナ系)、バテンカイトス(アンフィ系)
【アンフィチーム】
アンフィ、パドティア、タカラナ
【ガディアナチーム】
ガディアナ(+カエルラ)、ジバール(サリナ系)、ボタイン(サリナ系)
【イーナチーム】
イーナ、シルマ(サリナ系)、ヌカサン(アンフィ系)
と振り分けた。ツキシロはスイレンとザニア(サリナ系)と魔植物の採集に行っている。
皆がそれぞれ成長してくれたら嬉しい。
------------------------------
《イーナチームの魔物狩り》
アントラー兵の者達はアルセイデスの森に入ってから、それぞれレベルを1から2くらいは上げている。
そんな中、イーナが連れている二人はレベルが上がっていない。特にスキルも持っていない二人は、後方支援に徹していたからだ。それも大事な役目ではある。
「君達には感謝しているよ。運搬業務やメンバー間の連絡とかね。
でも、この『魔物狩り』では君達も力をつけようよ。私が協力するからさ」
イーナはユリアスの意図を良く理解している。
「「はい。よろしくお願いいたします」」
二人も強くなりたいのだろう。良い返事だ。
シルマはパドレオン男爵直轄となっているシムオール都市内のノース鉱山へ行く任務が多い。その際は採掘された鉱物を守る役をしている。
ヌカサンはコルメイスの新街区造成時はヒューマンをアイーダ草原の魔物から守っている。
どちらも自ら攻撃に出るのではなく、『守る』という点で同じような役割をこなしてきた。
「くんかくんか」
イーナは辺りの臭いを嗅ぐ。
「ちょうどいいな。ついて来て」
二人を誘ってある茂みの奥へ入る。
『ぐるるるるっ』
ワーグが5頭いた。ワーグはBランクの犬の魔物である。体色は茶色。噛みつき攻撃をしてくる。毛が逆立ち、爪先立って臨戦態勢だ。
シルマとヌカサンも抜刀して身構える。
イーナは何も言わずに、ただ見ている。静観の構えだ。二人の戦いを見るのだろう。
ワーグは二人を取り囲むように展開したが、二人は微動だにしない。彼らもそれなりに経験を積んできている。剣を正中に構え落ち着いている。
『うがあっ!』
雄叫びを上げてワーグが襲いかかった。
「スンッ!」
シルマは慌てず、向かって来たワーグの胸に剣を突き刺した。
ヌカサンは一度剣で受け止めてから、押し返し体勢を崩しておいて、刺殺する。
「なるほどね」
イーナは二人を見て、頷いてから、残りの3頭を蹴り倒していた。
三つの魔石をお手玉のように弄びながら、気づいた点を述べる。
「二人は今の技術を伸ばせばいいよ」
「と言いますと?」
「突きの技術よ」
「はあ」
二人にはよく分かっていないようだ。
「シルマはね。相手の勢いを利用して突きを深く入れた。相手の力を利用するのは上手い戦い方なのよ」
確かにその通りだ。必要最低限の力で倒せる。
「ヌカサンは相手のバランスを崩して止めをさした。これは相手が力を出す前に決着をつけることができるわ」
僅かの間に、それを見極めるイーナの眼力も優れている。
「二人とも止めは『突き』だったでしょ。振り回すより力は要らないし、分散しない。だから、その『突き』を極めればいいと思うの」
「「なるほど!」」
「言っておくけれどね。貴方達が倒したのは一応、Bランクの魔物よ。割と苦労せずに倒せたのは、説明した利点を意識せずに行っていたからよ。そこは自信持ちなさいよ」
そう言って笑った。
「ただし、今の戦い方だけでは、今後はもっと強い魔物には通用しないでしょうね」
「どうすれば?」
「私は剣を使わないから、そのつもりで聞きなさいね。まあ、剣も拳も同じ考えでいいと思うから言うわね」
イーナはパドレオン男爵領軍のチェンジャー団隊を率いる指揮官だ。兵の特性を掴むのも上手いし、指導も的確だ。
提案は『突きの精度』を高めることだった。魔物の中には外皮が硬いものがいる。闇雲に突いても通用しない時もある。
そこで狙った所へ正確に突きを入れる精度を高めるのだ。硬い外皮でも、弱い所はある。そこに突き込めればいい。
さらに精度に加えて連続で突き込むことが出来るようになるのが理想だという。一度の突きでは無理でも、数度、同じ箇所を突けば貫通できる可能性があるのだ。
「ところで貴方達、レベルアップした?ランクが上の魔物を倒したのだから、上がる要素になっていると思うけど」
「ええ。おかげさまでアントラーレベルが1つ上がりました」
「私もです」
「そう。良かったわね」
イーナも嬉しそうだ。
しかし、イーナはもっと上げてやろうと思っていた。
「くんかくんか」
また、イーナが辺りの臭いを嗅ぐ。
「うーん。ちょっと荷が重いかなあ」
そういいながら二人を見つめる。
「強い魔物なのですね? どうか、やらせて下さい!」
シルマが訴える。ヌカサンもやる気に満ちた様子だ。
「そうねえ。私も初対面の魔物なのよ。気配では2頭いるようだから貴方達の援護が出来ないかもしれないわ」
「イーナ様。我らも覚悟しております」
「どうして?」
イーナは何故、彼らが強くなりたいのか疑問に思った。ルドフランやマーベラ達と長く接してきて分かったのだが、アントラーの者達に名誉欲というものはない。ルドフラン達はサリナやアンフィ、ユリアスの力になりたい一心なのである。
生を受けた時期はそうは変わらないが、ルドフラン達の著しく成長した者達は第一世代と呼ばれている。 ユリアスと行動を共にすることが多く、魔力の供給を受けたりユリアスに恩義を強く感じている世代だ。
一方のシルマ達はユリアスと行動する機会は少ないし、忠誠心も低いのではないかと思ったようだ。
「アントラーは女王を除き、自分の意思を持たず、本能のみで行動します。
ですが、私達は違います。母上やアンフィ姉様を通じて、ユリアス様に知性を与えられ、自ら考えることができ、成長することができるのです。これはとても幸せなことです。導いてくださるユリアス様が我らの成長を望まれるのですから、それに答えなければなりません」
なるほど。彼らが純粋にユリアスを尊敬している様がイーナに伝わった。
「分かったわ。やっぱり、貴方達はサリナとアンフィの息子達ね。ふふふふっ。
でもね。貴方達が死ぬことは許されないわよ。自分達に手に負えないと感じたら、逃げなさい。約束よ!」
「「はい!」」
「よし!そっと付いてきて」
3人は気配を消して進む。
アントラーの第一世代はルドフラン、ラトレル、ツキシロ、ビュウロン、カイド、ジバール。第二世代はヤルカードを筆頭に今回同行しているカイドとジバールを除く者達です。