新たな家庭と遠征メンバー選び
領内に戻った僕はレーテーと約束した話は後回しにして、まずは領内についての話をするために執行部を集めた。
直ぐに二組の婚姻に関わることについて、詳細を詰めていく。
ツキシロとスイレンは新たに『サフィアパル』という氏名を与えた。サリナの名と継承を意味するパルという言葉を合わせた氏だ。
ヤルカードとローアルには『アンヒャパル』で、ツキシロ達と同じ意味合いね。
僕の領内だから、僕が市民権を与えることができる。アントラーやムネアカアントラーなどにも全て居住権は与えているのだ。氏名は市民権を与える時に下賜するようにしている。
すぐにでも市民権を与えたいのだけれど、氏名を付けるのが大変なんだ。サリナとアンフィの血縁だからとパドレニアにしちゃうと、大量に同じ姓が増えちゃうからね。
そして、スイレンのことだけれど、彼女はガディアナ率いるムネアカアントラーの跡継ぎだった。新女王としての教育も受けてきている。ツキシロと共に独立ということになれば、ムネアカアントラーの次世代問題が出てくる。僕の間接テイムモンスターとなったしね。
それについてガディアナに聞くと、
「問題ありませんよ。我らムネアカアントラー族は誰でも子を産み、女王となることができますから」
という。
確かにムネアカアントラーは全て女性だ。そういうものなのかもしれない。
「実際には資質がありますから、簡単ではありませんが、次女の『ユリーネ』に女王の教育を施します」
「そう。ならば安心しても良いかしら」
エリナ姉さんもほっとしたようだ。
「でも、あれね。独立する者に氏名があって、主家にないのはおかしいわね。ユリアス、何か付けてあげなさいよ」
それについては僕も考えていた。ガディアナのムネアカアントラーは代々に渡り、泉を守ってきた一族だ。水に縁がある。
「『パドアクア』ってどう?」
みんなの反応を見る。
反対意見はなさそうだ。ガディアナは嬉しそうだ。と、いうことでガディアナの氏名も決まった。
「それでツキシロはユリアスのテイムモンスターとなったんだよね? 配偶者のスイレンはどういう感じの立ち位置? 間接テイムモンスターってことだけ?」
マーベラの指摘は僕もよく分からないことだ。
「家名を保つためには子を成すわよね。スイレンは女王としてのスキルもある訳だからねえ。ファミリーを構築するのかしら? 」
姉さんの呟きにサリナが思考を纏めるようにゆっくりとした口調で話す。
「それは問題ないのではないかしら。スイレンが独自に子を成せば、ムネアカアントラーのファミリーが増えることになりますわね」
「お母様。夫婦ですから、ツキシロの魔力と共に子を成すのが自然ではございませんか? その場合、新たな種族となるのか、どちらかの種族となるのかは分かりませんけれども」
おお、新たな視点だ。アンフィの言う通りに新たな種族となったら、どうなるのだろうか? 世代は継続できるの?
「そんなに簡単に新しい種族なんて出来ませんよ」
ガディアナが即座に否定する。
そうなのか、ちょっと残念な気がする。
「そのあたりは二人に任せましょう。私達は見守るだけですよ」
そうだな。二人の家庭に口を出すなんて野暮かもしれないね。
「さて、次は新たに家庭を持つ者の住居ね。それぞれに屋敷を建てた方が良いわ。ツキシロは幹部なのでビレッジユリアス内。ヤルカード達は新街区でどうかしら」
この間、コルメイス街の第二造成が終わった。広さは第一街区と同じだ。そこにヤルカードに住んでもらうことは賛成だ。
「きちんとした屋敷にしてあげてね。それとヤルカードの屋敷の周囲に何軒かの家を建ててよ。それほど大きくなくてよいから」
「それはいいけど、どうするの?」
第二街区の造成時にアイーダ草原の土は『魔泥炭』として燃料になることが分かった。これは産業になるんじゃないかと思うんだ。
「アイーダ草原の泥炭を取ろうと思っているんだけどね。その泥炭採取の人達に住んでもらうつもり。その取りまとめというか、担当官をヤルカードに担ってもらおうよ」
「ふむふむ。あの魔泥炭は火付きも良いものね。いいんじゃない!?アタシは賛成!」
「そうねえ。ユリアスはどのくらいの規模で採取するつもりなの?」
そういえば、魔泥炭については姉さんと話した事はなかったな。
現在、10キロの幅のアイーダ草原の内、ビレッジユリアスに面した1キロ四方程を造成した。それプラス草原側に数百メートル四方を泥炭採取地とすればいいんじゃないかと思う。泥を取っても1年放置すれば魔植物が元通りに生えるし、2年放置すれば魔泥炭が再びできる。要は泥炭採取地を3区に分ければ、毎年、順番に泥炭を得ることができる。
そう説明すると理解は得られた。
「それにね。うちの領は専属兵の比率が大きいよね。新たに増えるアントラー族とかの職になるんじゃないのかな」
専属兵ばかり増えても、彼らを養っていくのは大変なことだ。新たな者達には専属兵ではなくて、働く場を与えるのだ。適性を見て振り分けることもできるだろう。専属兵に対して兼業兵ってこと。
「それは良いアイデアね」
と姉さんが言ったところで、話は纏まり、ヤルカードには【魔泥炭採取監督官】を担ってもらうことになった。
その他、二つの村のことも含めつて領内の案件について決める。コルメイス市、ゼル村、シロコ村、それぞれ順調にきている。
今後についても、本拠であるビレッジ・ユリアス内の施設群の充実、各人員確保(下働きなどのヒューマン)、二つの村の新たな商品の提案、コルメイス市の魔泥炭採取の産業化、第三街区新設などの詳細を決めた。
さて、これからはレーテーとの約束を果たして行かなくちゃならない。
僕はエリナ姉さん、サリナ、アンフィ、マーベラ、ガディアナを残して会議を開く。
僕はレーテーとの話をする。補足してくれるのはアンヌーンだ。
アンヌーンが現れると、皆は興味深々であちらこちらから観察する。
「貴方がどこかへ行くと、いつも何かを連れて来るわね」
姉さんがため息混じりに言う。皆もこくこくと頷いている。確かに今回もカエルラとアンヌーンが付いてきた。
「さあ、話をするよ。僕がレーテーさんから頼まれたのは『ツチグサレ』というキノコの消滅なんだ」
詳しい説明をした。
「それって、結構、大変そうじゃない?」
「だよね。時間をあければ、また、オーク達……、いや、オーク以外の魔物もやって来てしまいそうだよ」
「となるとですよ。エリナ。これは旦那様だけの問題ではなくて、公爵にも話をすべきではないかしら」
「ううむ。サリナのいう通りなのかもしれないわね……。分かったわ。公爵には話をする機会を設けるわ」
公爵に話をするにしても、こちらの体制を整えておく必要がある。
「そのツチグサレってのはアルセイデスの森の中なんだね?」
「うん。マーベラは知っている森なの?」
「うん。何度か行ったけどね。魔物が強いよ。『ブカスの森』と『レーシィの森』の奥の森で、『サンショクベア』や『レッドベア』とかベア系の魔物がいるよ」
「熊か。熊の魔物は見たことないや。やはり強い?」
「強いね。レッドベアとやり合ったんだけど、あの頃のアタシはCクラスだったから、太刀打ち出来なかったよ。今なら倒せるけれどね」
「へえ。どんな感じなんだろうか」
そう言ったら、『ボンッ』とマーベラはレッドベアに変化した。
「でかっ!!」
3メートル級の魔物だ。腕の爪が鋭い!Bクラスの魔物だそうだ。
「わ、分かった!もう、戻って!」
マーベラは元に戻る。いきなりは止めて欲しい。落ち着いて聞くと、やはり強い魔物は多そうだ。
「それでね。こちらというかシムオールに面した方面にオークなんかが出てくるかもしれないんでしょ」
「うん。そんな気がする」
「ならば、私達もふたつに戦力を分ける必要があると思うの」
確かにそうだろう。ツチグサレを消滅に行くメンバーとシムオールや男爵領を守るメンバーとに役割を分ける必要がある。
僕と僕のテイムモンスターはツチグサレ消滅に行くのは決まりだ。但し、危険なのでティアは残していく。つまり、ユリアス(僕)、ガディアナ、ツキシロ、スイレンの4人は決定だ。
あとのメンバー設定は揉めた揉めた。みんな、行きたがって大変だった。
結果的に一任された僕は悩んで決定する。
ツチグサレ消滅隊は次の通り。
ユリアス、サリナ、アンフィ、マーベラ、ガディアナ、ツキシロ、スイレン、イーナ、それとアントラー兵を10兵。
結局、行きたい者達はみんな来てもらおうってことにした。
留守番隊は残りの者達ということになる。本当はサリナかアンフィのどちらかは残って欲しかったんだけれどもね。後々、揉めそうだから、両方連れて行くことにした。
領内の統治は主席執政官のエリナ姉さんが入れば大丈夫だし、武力はルドフランとラトレルがいれば指揮は任せられる。チェンジャー団の連中もいるしね。
メンバーが決まって、僕は公爵と会談を行う運びとなった。