成長する者達
家で夕食をとっていた時、姉さんが「あの娘、大丈夫かしら」と呟く。何のことかと聞いてみたらチョコレッタがオーク退治の任務に向かったと言う。それもDクラスの魔術師の少女と2人で。ちょっと無謀な気がする。
「もう1人の娘、ファーファって言ったっけ? 探索持ちなの?」
「いいえ。持ってないわよ」
「それって、やっぱり危険じゃない? メディシナルの森は僕も行ったことないしさ。大丈夫かなあ」
「チョコレッタもCクラスで、もうすぐBクラスになるわけだし。うちのギルドの魔術師部門を任せるつもりなのよ。大丈夫でしょ……。でも……ユリアス。明日、ちょっと見に行ってくれる?」
エリナ姉さんもちょっと不安になったみたいね。もっとも、僕は頼まれなくても行くつもりだった。
という訳で、チョコレッタとメディシナルの森で合流して任務の手助けをしてきた。
チョコレッタも成長してBクラスになったし、ファーファという娘も頑張っていた。僕も頑張らなくちゃ。
僕もBクラスになっているのだけれど、それは【共成長】スキルのお陰だ。僕以外の者がレベルが上がって、その影響で僕も上がっただけだ。おこぼれをいただいた感じだ。それが僕のスキルの強みと言ったらそうなんだけどね。今は領地のことで余裕がないけれど、暇ができたら修行に行こう。
-----ユリアス魔物・魔術研究所-----
メディシカルの森から帰ったチョコレッタは研究所のペン・ショーを訪ねていた。
「ショーさん? ユリアスくんから紹介されたんだけど」
「ああ、聞いてるよ」
チョコレッタはファイヤーレインとファイヤーアローの魔法陣を融合というか結合できないかと相談にきていた。魔法陣を1つに出来れば使い勝手が良さそうだからだ。
「ふうん。結構、無茶な発動したね。というかよく発動したもんだよ。発想しただけでも、君凄いね」
「いえ。ユリアスくんに言われるがままにやってみたんですよ」
「は? そうだったの? あいつも大したもんだなあ。昔は俺の後ろをついて来てただけだったのに」
「そうなんですか? うわっ、私、ユリアスくんの昔の話聞きたーい」
「あはっ。それはやめとくよ。今や『男爵』サマだからね」
「そ、そうですね。私も気軽に呼んでサリナ姉さんに怒られました」
「まあ、ユリアスの話は置いておいて、魔法陣の話に戻ろうか」
チョコレッタはショーの目の前で2つの魔法陣を重ねて現す。ショーはそれを興味深そうに見つめている。彼は鍛冶、錬金術で国内トップクラスだ。特に錬金術では魔法陣を組込むので、いくつもの魔法陣を生み出している。
「ふうん。ここは共通で、ここはこちらの威力を消してるな。この部分は無駄なようだし……」
ぶつぶつ言いながら、メモをしていく。
「あっ。もう、消していいよ。ちょっと待ってて」
ショーは紙に魔法陣を描いていった。
「うん。これでいいと思う。詳しい説明は分からないと思うから省くね。魔法陣をイデア(脳内領域)に入れたら使えるはずだよ」
「はやっ! ありがとうございます。すぐに覚えます!」
チョコレッタは紙面をじっと見てイデアに収めたようだ。
「覚えたら、この魔法陣は処分するよ。一応は君のオリジナルになるからね」
最初に術を発動したチョコレッタのオリジナル魔法となるという。
正式魔法名【ファイヤー ディアゴナル】が誕生した。ディアゴナルとは『斜め』という意味がある。火矢が斜めに降り注ぐさまを表してしいる。
この後、二人は親交を深めて、チョコレッタの使用する魔法陣は次々と改良されていくことになる。
-----ファーファの場合-----
同じ頃、ファーファはエリナの武具コレクション部屋を見学していた。
「ファーファちゃんのメイスはもっと色々な武器になりそうだよね」
とユリアスが言ったからだ。
そこで武具コレクターのエリナを訪ねた。イメージするにはその物を実際に見なくては具現化できないからだ。
「うわぉ。たくさんあるんですねー」
ファーファは目をキラキラさせている。エリナもコレクションを褒められて上機嫌だ。
「ファーファは近接よりも遠間がいいんでしょ。それなら、これなんかどう?」
それは鞭だ。剣より遥かに間が遠い。早速、手に取って振り回してみる。
「いいです!これ、いいですね! さすが、エリナさんです。年の功ってやつですかぁ」
「なんて言ったのかしら!?」
迂闊に薮を突いてはいけない。この後、ファーファは別室でしっかりと説教を受けるのだ。エリナに年齢を感じさせることを言ってはいけないのである。
ともあれ、ファーファはメイスを鞭とフレイルに変換できるようになる。今までの剣と槍と合わせて4種類だ。
多くの武器を扱う『変幻メイスのファーファ』と呼ばれるようになるのは少し先の話である。
-----訓練所-----
こちらは少し前のことになる。
ユリアスのテイムモンスターとなったマンティラのパドティアは真剣な面持ちでルドフランに話かける。
「ルドお兄様。お願いがあるのです」
「おお、ティア。どうした? 何か困ったことでも?」
ティアと接する者は総じて優しい顔になる。普段は強面のルドフランとて例外では無い。ルドフランの顔は頬が緩んでしまっていて締まりがない。
「あの、私に剣を教えていただけませんか?」
「ほう、いきなりどうしたのだ?」
「実は……」
パドティアはシロコ村でのメンライダの駆除の時にユリアスからアドバイスを受けていた。「気配を消せるのだから、動き回らずとも待って攻撃できるといいね。ティアはまだ体力がないからさ。そういう戦いもあると思うよ」と言われたんだそうだ。
「さすがユリアス様だな。的確なアドバイスだな。それでなぜ剣なのだ?」
「そのう。シロコ村でこうやってシュッシュッとやっていたのです」
パドティアが右手を鎌の形を模して振る素振りをする。その時は部分変化で右手はマンティラの鎌にしていたらしい。
「ほう。それで?」
「すると、先のメンライダが斬れたのです」
「斬ったのだろう?」
「えっと。斬ってないのですけれど、斬ったのです」
なんか要領を得ない。ルドフランは根気よく話を聞く。
どうやら、鎌の刃の当たるはずのない距離のメンライダが斬れたという。ユリアスに聞いたら「カマタチ」といわれたとか。
きっと「カマイタチ」のことだろう。旋風などが原因でスパッと物が切れる現象だ。
「ふむ。それはティアがシュッとやったから鋭い風がメンライダに当たったのだな」
その時の偶然の現象を自分の意のままに起こせないかと考えているようだ。人間年齢で6歳であるのに真剣に取り組もうとしていた。
「なあ、ティア。どうして今なのだ?もう少し大きくなってからで良いのではないか? 剣は危ないこともあるのだぞ」
ルドフランにとっては可愛い妹だ。できる限り危険なことから遠ざけたい。ビレッジ・ユリアスの者たちパドティアとタカラナには甘い。とても過保護に可愛がっている。
「いいえ。私はユリアスお父様のテイムモンスターとなりました。私が弱いとご迷惑をおかけするのでしょう? それは嫌なのです」
幼いながらも懸命に考えたのが伝わる。それを断ることなどできようもない。
「ティアは偉いな。では、教えよう。ティアの役に立ちそうなのは『居合』という技術になる」
パドティアは立ち回り方を覚えたいのではない。その場にいて風を起こす程の鋭さを持った剣の技術を欲している。それをルドフランは正しく理解して手ほどきを始めた。
数ヶ月後にパドティアは『カマイタチ』をものにした。
このようにパドレオン領に暮らす者達は老若男女が成長している。ユリアスの持つ【統制】のスキル下にあるからだ。特に実際にアドバイスを受けた者達は、【指導】スキルの影響も加わっていた。
そんなこととはユリアス本人は露知らず、他の者と比べて自分が成長できていないと嘆くのである。