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チョコレッタ、メディシナルの森へ

私はチョコレッタ。Cクラスの魔術師。カラブレット王国パドレオン男爵領のユリアスギルドのメンバーなの。


元はシムオール都市の魔術師ギルドメンバーだったんだけれども、今のギルドのギルマス・エリナさんに声を掛けてもらって移籍したの。私は男爵に恩義がある。魔術師として成長できたのは男爵のおかげなのよ。

当時は単なるテイマーだったから、ユリアスくんが爵位を賜っても、男爵呼びは少し照れる。慣れていかなくちゃ。


ユリアスくんが新しい街を作って、私はそこに家を建てて住んでいる。今は慣れたけど、魔物の多いアイーダ草原に街を作るなんて本当に驚いた。


私がギルドを移籍する時、何度か任務を一緒にこなした魔術師少女がついてくると言い出した。エリナさんに相談して了解をもらって2人で移籍した。少女の名前は『ファーファ』、私よりも少し若い14歳のDクラスだ。

一緒に住んでいるし、面倒を見なくてはならない。


今日はギルドに来ている。依頼が来ているらしい。


「これが依頼よ」


エリナさんが手渡した依頼書を見る。


どれどれ?

『メディシナルの森』のオーク討伐か。

メディシナルの森とはシムオール都市と北に位置するズンバラ都市との間にある森だ。幅は、20キロほどで、東西に70キロと大きな森。シムオールやパドレオン男爵領にとっては南にあるブカスの森の反対側の森ということになる。シムオールは南北を森に挟まれているのよ。

その森の中を突っ切る形で細い街道があってシムオールとズンバラを繋いでいる。その街道にオークが出て道行く人を襲っているとのこと。


「群れの討伐ね。20体くらいかあ。分かったわ」


オークならば、今の私ならば問題なく倒せるはず。最初に退治させてくれたのは、ユリアスくんだったな。


「誰と行く?」


「ファーファね。2人で大丈夫よ」


私を慕ってくれているファーファの経験を積ませるためにも良い。

エリナさんは若干不安そうな顔をしたけれど、私たち2人に依頼してくれた。


「お、お姉さま。二人で大丈夫でしょうか?」


ファーファは話をきいただけで緊張しているようで不安そうだ。そんな彼女を「大丈夫、大丈夫」と私は励ます。

実は私にとってもパーティーのリーダーは初めてだ。ギルドに誘ってくれたエリナさんやユリアスくんの期待に応えたい。




依頼を受けて、3日後に街道に入った。

ガサガサと茂みがざわついている。顔を出したのは、予想通りカラカラだ。


「えいっ!」


私は礫をぶつけて退治する。『火の玉少女』なんて呼ばれているけれど、土属性魔法の練習も続けているのだ。礫はもちろん無詠唱。ユリアスくんにアドバイスをもらってから、無詠唱派になった。


「カラカラは群れているから、まだまだ来るわよ。ファーファも準備してよ」

「はい。おねえさま」


ファーファは詠唱して魔法陣を出す。ファイヤーボール(火球)だ。この娘はまだ無詠唱では発動できないの。

私の石の礫とファーファの火球で14匹のカラカラを退治。魔石と遺物をリュックにしまう。


人気のない街道を進んでいたら、後ろからパタパタと足音がする。それも複数だ。


「あれ?」


振り返ってみると、誰もいない。足音からしても魔物だろう。警戒しながら先を進むが、また足音がする。やはり姿は見えない。

不気味だわ。今度は後ろ向きに歩いてみた。

足音の正体はトカゲだった。1メートルほどのトカゲ、後ろ足で立って歩いている。二足歩行だ。

私たちの視線に気づいたのか、今度は隠れない。


「な、な、なんですか?あれ?た、た、たくさんいますよ!?」


見ればわかる。なんだっけな。アンフィさんの魔物図鑑で見たんだけどな。

トカゲたちは、ジリジリと間を詰めてくる。


「あ、思い出した!『クリール』だわ!」

「ど、どんな魔物なんです?」

「えっとね。目を狙ってくる!?」

「な、なんで疑問形なんですか!」

「うるさいわね! あとは素早くて暑さとか寒さなんかの気温の変化に弱い、だったと思う」

「なら、私達の火球、効きますよね」


ファーファは恐怖に耐えられなかったのだろうな。詠唱して、火球を放った。

クリール達はずわっと場所を開けて火球を避ける。確かに素早いわ。


「あ、当たりませんよぅ。逃げましょ」


こういう魔物は逃げたら追ってくるのが定石なのよ。


「逃げたら、一斉に追ってくるわよ」

「もう!どうしたらいいんですか!」

「落ち着きなさい!」


私は一喝する。ユリアスくんはいつも冷静だったもの。


「ファーファ。武器は?」

「メイスと短剣です」


私の武器はショートレイピアだ。

クリールは凡そ50匹くらいね。


考えるのよ。考えれば、何か策があるはず。

考えがまとまらないうちに2匹が襲ってきた。ガバッと開けた口には、細かい歯がたくさん見える。


「ひゃーっ!」


ファーファも逃げ惑いながら火球を放っているけれど、当たらない。

私は襲ってきたクリールにレイピアを突き立てる。柄の魔石が仄かに光り魔力を吸い取ったのがわかった。よし!私のレイピアはアルミラージの角製よ!魔力を吸っちゃうんだからね。


だけれど、怯まないクリール達は一斉に襲ってこようとしている。


「ファイヤーカッター!」


今度はリング状の火を投げつけた。纏まっていたので何匹かを斬れた。警戒して、ざっとクリール達が距離をとってくれた。ファーファは震えながら私の横にきた。


思いついた!


「ファーファ。火球の準備してて!」


ファーファは慌てて魔法陣を出す。

私に出来ること、イメージを固めてあの辺りに……。


「ファイヤーウォール!」


クリールのひと塊を火の壁で包んだ。火に包まれたもの達は逃げ出せずに右往左往だ。


「逃げ道は無いわ。撃ち込んで!」


これで3分の1を討った。

要領は掴めたわ。続けて3分の1を退治できたけれど、残りは逃げられた。逃げ方を見ると、もう襲ってこない気がする。


「あちちっ!」


魔石は炙られていたため、あっちかった。


オークが出没するのはもう少し先との事だ。予定では日帰りのつもりであった。クリールに時間を取られて、それは厳しそうね。テントは持ってきたけれど、夜の森は怖い。

あまり先に行っての夜営はしないほうがいいんじゃないかしら。オークの縄張りに近いからね。


「今日はこの辺りで休むわよ」

「えーっ!怖いですよ!」


私だって怖いわ!


「ぎゃいじょうぶよ」

「今、噛みましたよね!? おねえさまも怖いんですよね? 引き返しましょうよー」

「そうすると明日も今日と同じようになるかもよ。クリールも今日より多くいたらどうする?」

「………」


私だって夜営なんかしたくない。それでも、ここで任務を放棄する訳にいかないじゃない。臆病すぎるファーファを見ていると、この先、魔術師としてやっていけるのか心配になるわ。


ビクビクしている彼女のお尻を叩いて、夜の準備を進めた。

あのアイーダ草原での青の月の夜を経験しているので、多少は心に余裕がある気がする。

テントはパタパタシートと同じように、魔力を込めると広がるタイプを持ってきた。

あとはあの夜のように火を炊いて、できるだけ明るくするだけだ。

功を奏したのか、魔物は襲ってこなかったけれど、眠ることなんか出来ずに朝を迎えたのだった。



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