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僕はテイマー  作者: 鳥越 暁
賜爵と授領、開拓
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レーシィの森(2) 泉からの贈り物

ガディアナ達ムネアカアントラーは考えていたよりも、ずっと少人数で15名だった。アントラーと違うのは、アントラーの子供は新女王の他はみな男性(雄)なのに対し、ムネアカアントラーの子供は全て女性(雌)なのである。

そして、彼女達は普段から人型化で暮らすことを好んでいて、滅多に本来の姿にはならないそうだ。この点はアントラーも似ているかもしれない。以前、サリナは「人の姿の方が都合が良いのです。魔力の使い勝手も体の感覚も優れます」と言っていた。アリタイプの魔物にとってはそうなのかもしれない。いや、マンティラである「ティア」もそんなことを言ってたのでインセクタル共通の認識の可能性もある。

両アントラー族の差異は外見にも現われていて、ムネアカアントラーは赤髪でアントラーは黒髪。アントラーよりムネアカアントラーの方が若干小柄だ。


僕らはガディアナとの泉を護る者を置くという約束通りに4人のムネアカアントラーを残すことにする。約束では2人のムネアカアントラーに加えてアントラー幾人かなのだが、今はアントラーがいない。

一旦、僕の家に戻ってからアントラーの何人かを送ることに決まった。その辺りのことはサリナ、アンフィとガディアナの話し合いに任せた方が良いだろう。


話が決まれば帰るとしよう。あまり長居はできない。黙って来てしまったので、エリナ姉さんが怒っているだろうな。少し帰るのが怖い。


「ガディアナ。僕もまた来たいと思うんだけれど、この泉ってどうやって見つければいいのかな?」


今回はフッケバインのマウデンに案内してもらったけれど、毎回そういう訳にもいかないだろう。


「そうですね。では泉の精霊・レーテーに挨拶しておきましょうか」


という訳で、泉から少し離れた魔大木に連れてこられた。丁度、目の高さ辺りに人の顔くらいの大きさの(うろ)がある。


「この中の水竜の(うろこ)に触れて魔力を奉納してください」


洞の中には薄水色で艶のある平たい菱形の薄い板のような物がある。それが水竜の鱗らしい。

促されるままに手に取ると、一気に魔力が引き出される。


「うわっ!うわっ!」


たちまち目眩がして座り込んでしまう。それくらい魔力を吸われた。しばらくすると元に戻ったのだが、ああ、びっくりした。


「やっぱり」


ガディアナがさもありなんという顔をして納得している。


「ど、どういうこと?」


「ユリアス様の魔力は特別ということですよ」


そう言って微笑む。

普通は立ちくらみするほどの魔力は取られないそうだ。精霊・レーテーが僕の魔力を気に入ったようだと言う。

想定外だったけれど、これで僕にも泉が認知できるようになった。


「ふう。落ち着いたから、もう大丈夫」


平静を装ったけれど、内心は動揺している。皆には悟られぬように敢えて明るく振舞って立ち上がった。


その時、どうしても泉に行かなくてはならない気持ちになる。誰かに呼ばれているようで、導かれるように泉の淵まで行く。

同行する皆は何事だろうという顔で付いてきた。


ああ、何かある。膝まで水に浸かりながら水面に両手を入れると、自然と丸い物が手に収まった。とても心地よい。

そっと水面から出してみると、なんとも綺麗な玉だった。ガラス玉のように煌めいていて、中に泉の水が入っているかのような淡くも神秘的な青い色の液体が、まるで生きているかのようにゆらゆらとくるくると動いている。


「「それは何ですの?」」


サリナとアンフィは驚きを隠さない。


「ああ、素晴らしい……。まさか、手にされるなんて……」


ガディアナにはこれがなんであるのか分かっているようだ。僕にも分かる。頭に自然と浮かんできたのだ。


「これは『水の宝玉』だよ。持っていけと誰かが言うんだ」


それは言葉ではない。頭の中なのか心になのか分からないけれど、はっきりと聞こえた。

僕は大切に革袋にしまう。


「さあ、帰ろうか」


「そうですね。サリナもアンフィもいい?」

「よろしいですわ。あんまり遅くなるとエリナがうるさそうですしね」


やはり、姉さんに対して思うところは同じなのだ。僕は苦笑いを返しておいた。皆は今の出来事がなんなのか不思議ではあるものの触れずにいてくれるのはありがたい。

問われても僕には説明出来ない。ただ水の宝玉を手に入れただけだ。


僕らは興奮を隠すように泉を後にして帰路に着く。


探索スキルはそこいら中に大小の魔力を感じてはいるが、どれが危険で、どれがそうでないのか分からない。それくらい魔物が多いということど。

とりあえず寄って来るものだけに注意することにする。


「キキッ」


樹々から飛び下りて周りにやってきたのは、往路でも出会った『カーバンクル』だ。頭頂部が鏡になっている見た目は可愛らしいリスの魔物。

見た目に騙されてはいけない。とても攻撃的で肉食である彼らは体に上ってきて、露出している肌を噛じる。


「いててっ!もう!うざったいな!」


剣で薙ぎ払うと簡単に倒せるのだが、ちょこまかとしていて(まと)わりつくのには閉口してしまう。

歩きながら退けていくと結構な数の魔石と遺物である鏡を手に入れた。


カーバンクルの退治に時を取られたお陰で、宝玉の興奮も落ち着いてきて正常な思考に皆が戻っていった。


続けて魔力探索で強い魔物を探知した。先程(カーバンクル)のように数が多くはないし、こちらに向かって来るようでもない。


「何かいるよ。避けて通ろうよ」


そういうとガディアナが


「うん? ああ、この先は火トカゲの巣ですね。倒せないこともないですけれど?」


と魔力の正体を予測する。


火トカゲって興味があるけれど、帰りを急ぎたい。


「今回は止めておこう」


「そうですか。では迂回しますか」


火トカゲとやらを避けて進むことにした。


アンフィはブカスの森の時のように、せっせとメモをしながらだ。この森の地図も作る気らしい。そういうところがアンフィらしくて僕は好きだ。


レーシィの森からブカスの森に入る時に、マウデンがやって来た。


「ゆりあす。かえるの?かえるの?」

「うん。帰るんだ。でも、また来るよ」

「またくるまたくる。またちょうだいちょうだい」


マウデンにお土産をせがまれる。


「分かったよ。今度来る時はきっともってくるね」

「ほんと? うれしいうれしい」


マウデンの見送りを受けて、ブカスの森を経てビレッジ・ユリアスへ帰ったのである。新たな家族を連れて。



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