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僕はテイマー  作者: 鳥越 暁
テイマー初級編
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シロコ村からの依頼

 ゼル村の村長の紹介で、ビレッジ・ユリアスとゼル村の間――ゼル村の隣村にあたるシロコ村からギルドへ魔物討伐の依頼が来た。

 魔物とはいっても、相手はバッタの魔物の駆除だ。『メンライダ』というインセクタル魔物が、とにかく大量発生しているという。シロコ村は魔小麦粉の一大生産地で、広大な魔小麦畑が被害を受けているらしい。メンライダは薬物も効かず、一匹ずつ潰すしかないそうだが、跳ねて逃げるため駆除がなかなか進まないという。

挿絵(By みてみん)

 困り果てたシロコ村長は管轄の地区長に相談したものの、形ばかりの人数を送ってきただけで、数十匹を駆除したところで諦めてしまったらしい。相変わらず地区長は仕事のできない人だ。そんな経緯で、ゼル村の村長がギルドを紹介したというわけだ。


 姉さんの手配で、僕とアンフィ、そしてアンフィの息子たち10名が向かうことになった。


「ユリアス様、エリナ。この依頼、パドティアも連れていってくださいませ。よろしくて?」


 確かにパドティアはマンティラだから、メンライダとは相性が良さそうだ。でも、まだ子どもではないか。そう言うと――


「いいえ。ティアは身なりは子供ですけれど、相応の教育をしております。良い働きをすることは私が保証いたしますわ」


 ならばと、パドティアの同行も決まった。



シロコ村


 シロコ村へ入ると、視界いっぱいに黄金色の魔小麦畑が広がった。青く澄んだ空の下、風が吹くたびに麦の穂が一面に波打つさまは、まるで湖面のようだ。ところどころ、畑を区切るように並ぶ防風林には、赤い実をつけた木々がちらほら見える。土の匂いが強く、どこか甘い麦の香りが漂っていた。

 しかしその美しさを台無しにするものがあった。畑の南の端の方から四分の一ほどが、メンライダに集られてオレンジ色に染まっていたのだ。黄金色のはずの麦畑が、魔物の体色で斑に変わっている。

 近づいて観察すると、メンライダが穂先をバリバリと齧って食べている。その音も思いのほか大きく、耳障りだ。


「す、すごい数ですね、養父さま」


「何匹いるのだろうね」


「数千匹でしょうね」


 村長への挨拶もそこそこに、僕たちはすぐ駆除を開始した。

 メンライダは体長わずか十数センチ。小さくてすばしっこい相手を剣で仕留めるのは骨が折れる。


「シュッ」


 アンフィが剣を一振りすると、数匹のメンライダが真っ二つになって地面に落ちた。アンフィの息子たちも休むことなく剣を振るっている。

 僕も負けてはいられない。けれど、一振りで複数の個体を斬れるのが不思議でならない。僕はどう頑張っても一振りで一匹だけ。たまに空振りしてしまうし。僕に限っては、ものすごく効率が悪い。


「ユリアス様は、これを」


 アンフィが手渡してくれたのは、目の粗い魚用の網のようなものだった。丈夫そうだが、僕だけ網を振り回すのはなんだか格好が悪い。

 仕方なく網で掬い、数匹たまったら、網ごと踏み潰す。そんな調子で駆除を進めていく。


「ふう。やはり疲れるね。あれ? ティアは?」


「ティアは、あそこです」


 パドティアは畑の中に潜り込んでいて、背丈が小さいので頭しか見えない。小さな頭が畑のあちこちでぴょこぴょこと動き回り、懸命に駆除しているようだ。


 駆除を始めてから三時間ほど経ち、一息入れることにした。畑を見渡すと、心なしかメンライダの数が減っているように思える。


「どう? だいたいどのくらい駆除できたかな?」


「私は623匹ですわ」


「私は318です」


 なんと、パドティアもそんなに駆除していたのか。僕は数も数えていなかったが、多分100もいっていないと思う。


「こちらは212」


「198」


「280」


 次々と報告が上がる。皆すごいじゃないか。合計すると、3,020匹になる。やはりメンライダの総数は桁違いだ。


「残りを考えますと、数千どころではございませんね。一万数千匹でしょうか」


「そんなにかあ……。あと四、五倍は駆除しないといけないんだね」


 溜息が出そうだ。そういえば、パドティアはどんな風に駆除しているのだろう。見たところ剣は持っていない。


「パドティア。どうやって駆除してるの?」


 聞いてみた。


「鎌で仕留めています。養父さま」


 可愛いパドティアから「養父さま」と呼ばれると、頬が緩んでしまう。そう呼ばれるようになったのは、僕がサリナ、アンフィと婚約してからだ。――おっと、そんなことよりも。


「鎌?」


 鎌なんて持っていないよね?


「ええ。このようにして」


 パドティアが右手を前に出した、その瞬間――


 ぱん、と音がしたような気がするくらい鮮やかに、彼女の小さな腕が漆黒の鎌へと変化した。細い刃が陽光を反射して鈍い輝きを放ち、まるで生き物のように微かにうねっている。


「うおおっ!? な、なにそれ!? ぶ、部分変化!? 本当に腕が鎌になったの!?」


「はい。マーベラ叔母さまに変化の仕方を教えていただいたのです」


 心臓がドクン、と高鳴る。あんな小さな体から、あんな鋭い鎌が生えるなんて……。これがマンティラの本当の力なのか。思わず数歩後ずさってしまった自分が少し情けない。

 一振りで数匹を仕留められるという。優秀だ。

 早速、駆除するところを見せてもらったが、無駄な動きも力みもなく、腕がすっと動いたと思った瞬間、数匹のメンライダが鎌に挟まるように捕らえられていた。気配を消して動いているようにも見える。マンティラ特有の狩りの技なのだろうか。


 どう見ても僕が一番駆除できていないのが、はっきりしてしまった。


 結局、その日は7,000匹を駆除した。

 翌日も、メンライダが活動を始める日の出と同時に作業を開始し、午後にはほぼほぼ駆除が完了した。おそらく明日は筋肉痛だろう。――まあ、危険のない任務も、たまには悪くない。


「さて、みんな帰ろうか」


 そう声をかけたが、アンフィが首を振る。


「ユリアス様。魔石を回収しませんと」


「魔石? 魔石っていっても米粒より少し大きいくらいで大変だよ!?」


「簡単ですよ。このようにすれば」


 アンフィは木の棒を持ち、落ちている小粒な魔石をぴんっと弾く。すかさず、隣にいたアンフィの息子の一人がガラス瓶を差し出し、その中に魔石がチンッと放り込まれた。

 すごい。すごいけど、僕にはとても真似できない!


 アンフィたちは二人一組となり、器用に魔石を回収していった。そうして集まった魔石は、ガラス瓶七本分にもなった。


「で、この魔石、何かの役に立つの?」


「ええ。浄化の効果がございますのよ」


 普通の魔石は魔力を蓄えるだけだが、ごく稀に特殊な効能を持つ魔石がある。このメンライダの魔石は、そのうちの一つで、浄化の作用を持っているらしい。特に貴族や王族の間では、水や酒に毒が盛られるのを防ぐために重宝されるという。


 僕らは任務を終え、帰還した。



 帰還後、僕はパドティアのさらなる成長を促したくて、大人たちが交代でアイーダ草原に連れて行くことにした。ワイルドキャッスルのタカラナも一緒だ。

 パドティアとタカラナは、ビレッジ・ユリアスのアイドルだ。仲も良く、友達であり、姉妹であり、そして良きライバルでもあるという。二人の愛称は「ティア」と「ラナ」だ。

 彼女たちを草原に連れて行く理由は、日課としてアイーダ草原でビントルを一体ずつ討伐させるためだ。経験を積ませるにはちょうど良い。

 ビントルを呼び出すためには、ビークインを引き抜く必要があり、そのおかげでビークインの球根とビントルの魔石も手に入り、日々30銅貨ほどのお小遣い稼ぎになっているらしい。



【今話の初登場の魔物】


《メンライダ》

 インセクタル型のバッタの魔物(Eクラス)。

 12cmほどで草食性。ときに大量発生し、農地を食害する。噛まれると指がちぎれるほどの力がある。

 魔石には浄化作用がある。



【今回のユリアスの稼ぎ】

•任務達成料:1銀貨(他の者も同額)

•メンライダの魔石 ×5本分:1金貨

 ※残り2本分の魔石は現物でアンフィに渡された。


合計:1金貨1銀貨


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