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僕はテイマー  作者: 鳥越 暁
テイマー初級編
33/147

vsリザードマン(3) 僕とルドフランとマーベラ

 僕は少しでも奴らを村から遠ざけるため、5体のリザードマンたちを囲むようにしながら、東方向へと移動していった。


 すると、大将らしきリザードマンがすっと離れた。代わりに4体が前面へと出てくる。4体で片をつけようというのか。ずいぶん舐められたものだ。


「そりゃっ!」


 ルドフランが左端の1体に斬りかかる。だが、リザードマンは剣を受け止め、逆に押し返してきた。両腕で剣を振りかぶり、今度はルドフランへ振り下ろす。だが、ルドフランも『ガシッ』とそれを受け止める。


 ちょうどリザードマンが僕に背を向けた形になった。目の前には長く太い尾がある。尾の先から2mほどで背中の中央あたりに繋がっている。


「俊足!」


 僕は尾を踏みつけ、そのままリザードマンの身体を駆け上がった。目の前に後頭部が迫る。


「ていっ! 挨拶代わりだ!」


 拳を叩きつける。手応えあり! これでぐらついてくれれば、ルドフランが仕留めてくれるだろう。


 だが……。


 ぐらり、とリザードマンが揺れたかと思うと、音を立ててそのまま倒れてしまった。


「えっ? えっ!?」


「ユリアス様! 止めを!」


 慌てて僕は剣を引き抜き、リザードマンの首に突き立てた。


 まさか、挨拶代わりのつもりが倒してしまうなんて。


 大将を除く残りの3体が僕とルドフランに迫ろうとした、そのとき――大きな影が割り込んだ。


「ぐるるるるっ!」


 影は1体のリザードマンを踏みつけていた。


「バンダースナッチ!?」


 バンダースナッチがバキッとリザードマンを踏み潰す。その姿は、マーベラが変化したものだ。


「お前も《変化師》か!?」


 大将が問い詰めると、人の姿に戻ったマーベラはニヤリと笑う。


「そうだけど? 何か?」


 挑発的な笑みを浮かべる。


「やりますね。私も負けられません」


 ルドフランは再び、1体に狙いを定めた。


 彼は剣の柄に魔石をはめ込む。刃が淡く光り、そこに魔力が宿っていくのが見えた。


 そして、コマのようにくるくると回りながら斬りつける。


 斬撃は致命傷には至らない。だが、ルドフランの剣は、硬いリザードマンの皮膚に、確実に細かい傷を刻んでいった。


 魔石によって魔力を帯びた剣は、普通の剣では到底傷をつけられないリザードマンの身体を、しっかりと切り裂くことができるのだ。


 大将のそばにいたもう1体は、大将の元へ戻り、二人で戦況を見守っていた。


 やがて、血だらけになった1体が地に伏した。


 残りは2体だ。僕たちは三方からじわじわと間合いを詰める。


 大将を守ろうと1体が剣を構えた――が。


「貴様は邪魔だっ!」


 その瞬間、大将が剣を振り抜き、守ろうとしたリザードマンの首を跳ね飛ばした。


 同士討ち……いや、同士ではないのだろう。弱者を切り捨てたに過ぎない。僕たちのファミリーでは、絶対にあり得ないことだ。胸がムカムカする。


 さらに、大将は倒れた仲間の魔石を掴むと、むんずと握りしめ、魔力を吸収していく。仲間の魔石から魔力を奪うなんて、吐き気がするほどの行為だ。


 大将の身体が少し大きくなり、その周囲に今までのリザードマンとは比べ物にならない魔力が渦巻く。


 大将がこちらへ近づき、尾をひと振りした。乾いた音が響き、ルドフランが弾き飛ばされた。


 しかし、ルドフランは空中でくるりと身体をひねり、猫のように着地する。ダメージはほとんど無いようだ。


「変化師! 相手してやる!」


 大将はマーベラの方へ向き直り、剣を構えた。尾は我々の方へ向けられ、右へ左へとしなり、牽制している。その動きは他のリザードマンとは違い、しなやかでまるで鞭のようだ。


 どうやら、ターゲットをマーベラに絞ったらしい。ブンブンと剣を振るうが、マーベラの身軽な動きには当たらない。当たらないが、こちらも攻め手に欠ける。


「なんだ。逃げてばかりか?」


 大将が挑発する。


 動きがありそうだ。僕はルドフランの元へ駆け寄り、声をかける。


「ルドフラン。一度でいい。あの尾を止めてほしい。少しの間でいいから」


「分かりました。合図をいただければ止めましょう」


 僕は大将の真後ろに位置取り、大将が動くたびにその後ろをキープした。


 マーベラがバンダースナッチに変化し、襲いかかる。しかし、大将は力で受け止め、押し返す。その剣は的が大きくなったためか、ついにマーベラにかすりはじめていた。


「ふんっ。じゃあ、これはどう?」


 マーベラはバンダースナッチの巨体から細身へと変化し、《ビャッコ》となる。まったく驚異的な変化能力だ。


「犬コロからキツネだと!? はんっ」


 大将はまったく意に介さぬ様子だ。


「とうっ!」


 ビャッコが高く跳び上がった。そうか。高く跳躍するために変化したんだ。


 だが、大将は慌てず下から迎え撃つ構えを取る。降りてきたビャッコが貫かれる――そう思ったその瞬間。


 ビャッコが黒い塊に変化した。


『キンッ! ドカッ!』


 剣を弾き、激突する音。大将が尻もちをつき、目を見開いた。


「あはは。《マンマル》かー」


 マーベラが笑う。


 そう。剣が当たる直前、マーベラは《マンマル》に変化したのだ。《マンマル》は非常に硬く、剣では刃が立たない。


「なんだ、これは!?」


 驚きながらも、大将は何度も剣を振り下ろすが、そのたびに金属音が鳴り響くだけだ。


 大将が夢中になっている今が好機だ。


「ルドフラン!」


 僕は合図を送り、手に魔力を集める。


「紅蓮の炎よ。我が剣に纏え!」


 掌に魔法陣が浮かび上がる。


 ルドフランががっしりと尾を掴んだのを見届け、僕は詠唱の仕上げをする。


「ファイヤーブレード!」


 僕の剣が炎に包まれる。すぐさま大将へ駆け寄り、その肩口を斬りつけた。『ガシッ』と硬い感触。やはり剣では傷はつかないが、炎だけは大将の腕に移った。


「ぐあっっ!」


 大将は憤怒の表情で振り返るが、いつまでも同じ場所に僕がいるわけがない。


 腕を炎に包んだまま僕に迫ろうとしたそのとき――。


「どさっ」


 大将の腕が、ぼとりと地面に落ちた。


 大将の背後には、片目のシープキラーが立っていた。両腕で大将の腕の根元を突き抜いたらしい。


「《セキガンの諸手突き》だ!」


「くっ!」


 状況の不利を悟った大将は、尾を地面に叩きつける。その反動で後方へ大きく跳び下がる。二度それを繰り返すと、かなりの距離が空いた。


「小僧、変化師、名は?」


「僕はユリアス」


「アタシはマーベラ」


「覚えたぞ。俺は《ナン》だ」


 名を告げると、リザードマンの大将――ナンはその場を去っていった。


 僕は大きく息をついた。


「ふぅー。大将は逃がしたけど、任務完了だ!」


 いつの間にかツキシロやラトレルたちも集まってきて、みんなで村長宅へ戻ることになった。


「いやあ、凄かったね、マーベラ! バンダースナッチにビャッコにマンマル、そしてシープキラー!」


「えへへ。元々変化には自信あるしさ。アタシはルドフランたちみたいに剣は使えない。だから、変化の練習はずっとしてるんだよ」


「そっか。凄い凄い!

 それにルドフランやラトレルもさすが《剣士》だよ!」


 僕がマーベラに続いてルドフランたちを褒めると――


「私たちは《剣士》ではございません」


 ラトレルがきっぱりと言った。


 はて? 確かに剣士だったはずだ。


「私たちはすでに《剣客》となっております」


 ルドフランが誇らしげに胸を張る。すごい! いつの間にか職種までレベルアップしているなんて。後で聞いたら、サリナとアンフィはさらに上の《剣豪》になっていた。


「ユリアス様も《ファイヤーブレード》を使えるようになられたのですね」


 ラトレルが微笑む。


 しかし、そんなに大したことではない。僕はやっと10秒ちょっと炎を纏わせられるようになっただけだ。火属性魔法のスキルを得たことは得たけれど――


 【火属性魔法発動(仮)】Lv.0


 (仮)って何だ? しかもレベル0って! なんだか落ち込む。


 ともあれ、今回は僕たちチームの勝利だ。個人ではなく、みんなで勝ち取った勝利――それがとても嬉しい。


 僕たちは村の警備に数名のアントラーを呼び寄せ、村を後にした。

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