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僕はテイマー  作者: 鳥越 暁
テイマー初級編
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vsリザードマン (2) ラトレルとミドリ

 村の入口から離れ、左手の方へ移動したラトレルとミドリ。彼らを追うように、リザードマンが3体ついてきている。


「今日は調子がいいぞ。身体が動く」


 ミドリが軽やかに言う。


「ふふふ。それがユリアス様の力ですよ。それより油断なさいませんように」


「分かってるさ。でも、これがユリアス様の力なのか? 嬉しいねー!」


 ラトレルは、この討伐チーム全体がすでにユリアスの《統制》スキル下にあることを理解していた。


 だが、ラトレルもミドリも緊張するどころか、これからの戦いに期待で目を輝かせている。


「てめぇら、舐めてんのか……ぐふっ!」


 リザードマンの1体が言いかけたその瞬間、ラトレルの剣が喉元を貫いた。まずは1体。


 大将らしき者が「油断するな」と言っていたが、彼らは結局、敵を甘く見ていたのだろう。その末路である。


「残り2体。1体ずつ片付けましょう」


「おう!」


 二人が改めて臨戦態勢を取ると、リザードマンの尾が襲いかかる。紙一重でかわすが、その尾は速く、力強い。迂闊に距離を詰められない。


 ラトレルが一体の正面に迫ると、リザードマンは力任せの剣撃を振り下ろす。ラトレルはそれを避けて間合いを外すが、すぐさま尾が反転して襲う。さらに距離を取らざるを得ない。


「さすがBクラスか……」


 リザードマンたちも本気を出してきたようだ。


「ちっ、馬鹿力か……ここはツキシロを信じてみるか」


 ミドリも、もう一体のリザードマンと互いに距離を保ちながら、攻撃を仕掛け合っている。


 再びラトレルが間合いを詰めた。その瞬間、尾が襲いかかる。しかし――


『バシィィィィッ!』


 凄まじい音が響いた。ラトレルは尾を真正面から受け止めていた。


「ふう。ツキシロの《守護の膜》……さすがだな」


 ツキシロを信じ、あえて攻撃を受け止めたのだ。


「力が強いのはお前らだけじゃない!」


 ぐぐぐ、と力を込めるラトレル。尾を抱えたまま、ぶわっとリザードマンを持ち上げる。


『ずんっ!』


 地面に叩きつけた。ミドリも、相手をしていたリザードマンも、そして叩きつけられた当の本人も、唖然としてラトレルを見ている。


 ラトレルはすぐさまのしかかるが、力任せに弾き返される。


「ら、ラトレル!? お前、細っこいのに力すげぇな!」


「まあね。人のことより、目の前だよ!」


 その一言で、ミドリもすぐに戦闘へ意識を戻した。


 アントラー族は自分の体重の十倍程度の重量なら運べる力を持つ。ラトレルが特別に怪力というわけではない。むしろ、彼の真骨頂はスピードだ。


 ラトレルは攻め方を変える。脚に魔力を込め、瞬発力を高めた。尾や剣撃をすり抜けながら、何度も剣を繰り出す。しかし――


『ギンッ!』


 金属音が響くたび、剣先は弾かれる。喉を狙っても、本能的に腕で庇われ、刃が届かない。


 ならば、とラトレルは剣に魔力を纏わせる。左右に動き、翻弄し、隙を作る。それは、まさにユリアスの戦い方だ。


 リザードマンの体軸がわずかにぶれた。その刹那、ラトレルは一気に踏み込んだ。


 剣先はまたも腕で庇われるかと思われたが――


『ずっ!』


 剣先がめり込み、そのまま腕ごと喉を貫いた。リザードマンは断末魔すら上げることなく崩れ落ちた。


「ふう……いつの間にか、ユリアス様の戦い方が染みついてたな」


 ラトレルはどこか誇らしげに口角を上げた。


 視線をミドリの方へ向ける。なかなかの肉弾戦になっているようだ。助けに行こうかと迷うラトレルだったが、ミドリの目が「大丈夫、任せろ」と言っている気がして、その場に留まった。


 ミドリは尾の攻撃を跳んだり、伏せたり、身体を捻ったりと、見事な身のこなしを見せている。そのたびにラトレルは感心する。


 時折、ミドリは前脚で土塊をリザードマンに飛ばす。だが、リザードマンは避けもせず、意に介さない様子だ。おそらく隙を作ろうとしているのだろう。


 ラトレルの相手をしていたリザードマンより、この相手の方が剣の扱いに長けているらしく、打ち下ろしだけでなく、横薙ぎの攻撃も織り交ぜてくる。ミドリの身体には、かすり傷のような血の筋が数本見えていた。


 何十回目かの尾の攻撃が迫る。それを軽く後ろに跳んでかわしたミドリは、前脚に魔力を溜め始めた。


「ん? 何をするつもりだ?」


 ラトレルは、その魔力の集まり具合に気づく。離れて見ていたからこそ分かる動きだった。


 ミドリは再び前脚で地面を掘り起こし、土塊を飛ばした。リザードマンは動かない。先ほどまでと同じかと思われたが――


『ドスッ!』


 左肩の付け根に飛んだ土塊が、リザードマンを大きく揺らした。その隙を逃さず、ミドリは一気に間合いを詰め、右腕に噛みつく。


 そのまま、身体をひねるように回転させた。


『ブキャギャギャッ!』


 鈍い音が響き、リザードマンの右腕はあり得ない方向に折れ、だらりと力なく垂れ下がった。剣も落ち、握ることすらできない。


「グオオオォッ!」


 リザードマンは狂ったように尾を振るうが、剣を失い、負傷したその動きはもはや鋭さを欠いていた。


 最後には、喉元に食らいついたミドリが勝利を収めるのだった。


「なるほどな。考えて戦えるとは……ユリアス様のファミリーとして、合格だ」


 ラトレルは嬉しそうにミドリを称える。


 ミドリが何をしたのか。それは、飛ばす土塊に自らの魔力を込めて硬度と威力を上げた攻撃だった。これまでの土塊は、すべてこの一撃のための布石だったのである。ミドリなりに考え抜いた戦い方だった。


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