vsリザードマン (1)
僕はマーベラ(変化体)の背に乗り、ゼル村へ急いでいる。
訓練所でファイヤーサーベルの魔術訓練をしていたとき、急報が入った。ゼル村にリザードマン(トカゲの獣人)が10名襲来し、村長が重傷を負ったという。村人にも怪我人が出ており、村からリザードマン撃退の依頼が寄せられた。
ゼル村には護衛任務で定期的に行っているマーベラは、憤然としている。
僕はマーベラのほか、ルドフラン、ラトレル、ツキシロ、それにアントラー族の治療スキル持ち2名、さらに最近チェンジヤー団に加わったワイルドキャッスルの新人3名を連れて急行した。
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「村長! 大丈夫か!?」
村長の家に飛び込むなり、マーベラが声をかけた。村長は苦しげだが、意識はあるようだ。
「ルドフラン。治療を! 他の治療持ちは村人たちを頼む!」
怪我人たちの治療が始まる。リザードマンたちはすでに撤退したようだった。
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「村長。初めまして。僕はユリアスです。
挨拶もそこそこですが、状況をお聞かせください」
「このたびは、お越しくださりありがとうございます。マーベラ殿のご主君様でいらっしゃいますね。
実は突如としてリザードマンどもが現れ、村のチーズを奪い始めたのです。何とか抵抗いたしましたが、この有り様でして……い、いててっ……」
「無理をなさらず、ゆっくりで構いません。リザードマンたちは、今は村にはいないのでしょうか?」
「はい。奴らは持てるだけのチーズを奪い、去っていきました。ただ……『明日もまた来る』と言い残していったのです」
「分かりました。
ルドフラン、治せそう?」
「もちろんです。マンマルポーションもありますので」
「そうか。頼りにしてるよ」
詳しい話は治療が終わってから聞いた。
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リザードマンたちの目的は最初からチーズの奪取だったらしい。
ゼル村のチーズは上質で知られ、村の収入の8割を占める重要な産品だ。酪農の村にとって、死活問題といえる。しかも奴らは「明日はチーズの他に金銀財宝も用意しろ」と脅していったという。
一番怒っているのは、村長と酒を酌み交わすほど親しいマーベラだ。
実はワイルドキャッスルの新人3名も、かつてこの村の家畜を狙っていて、マーベラに捕まり、そのまま傘下に入った経緯がある。
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リザードマンはトカゲの獣人で、筋力が強く、硬い皮膚を持つ。太く長い尻尾は強力な打撃武器で、剣も扱うという。Bランクに分類される魔物だが、弱点は喉と頭頂部だとされている。
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「よし。明日は僕とマーベラ、それにルドフラン、ラトレル、ミドリで迎撃に回ろう。
残りのみんなは村民の警護をお願いしたい。
ツキシロは警護隊を見てもらえる? 落ち着いたら、僕たちとも合流してほしいんだ」
「分かりました!」
ミドリはワイルドキャッスルの新人で、尾の付け根が緑色なことからマーベラが名付けた。ミドリに従っていた2名は、ウスミドリとキミドリという。実にマーベラらしいネーミングだ。
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「俺もリザードマンと戦いてえ!」
ウスミドリが迎撃隊に加わりたいと駄々をこねる。
「チェンジヤー団心得・其の一!」
マーベラが一喝すると、ウスミドリはびくっと肩を震わせ、
「わ、分かった。警護する……」
と大人しく引き下がる。チェンジヤー団心得とは一体何なのか。後で訊いてみよう。
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翌朝。見張りをしていたツキシロがリザードマン接近を知らせてきた。
「10名です。特に警戒する様子もなく、悠々と歩いてこちらへ向かっております」
悠々と、だと……!
初めて対峙する相手だし、Bランク相手だから苦戦するかもしれないけれど、こちらも戦力は揃っている。マーベラ、ルドフラン、ラトレルはBランクだ。
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村の東の入口でリザードマンたちと対峙する。
「ふん! 村に雇われたか? 怪我するだけ損だぞ、人間ごときが! 去ね!」
大将格の一体が吐き捨てる。
僕らは皆、人間の姿をしているから、どうやら相手は全員人間だと思っているらしい。
黙ったまま睨みつけていると、数体のリザードマンがこちらへ踏み込んできた。
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「ぐあっ!」
瞬時にミドリが人型を解き、ワイルドキャッスルの姿となる。そのまま一頭のリザードマンの喉笛に食らいつき、噛み千切って倒した。
続けてルドフランが刀を一閃。二頭目のリザードマンが地に伏し、魔石へと変わる。
リザードマンたちの顔色が一変する。
「ぬっ! 変化師か!? 中々やるな。皆、油断するな!」
その声を合図に、敵の動きが変わった。隙がなくなり、全身がうっすらと魔力を纏い始める。身体強化だろうか。
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「ラトレル、ミドリ、左の3人をお願い!
僕とルドフラン、それにマーベラで残りの5人を相手にするよ!」
「了解!」
僕たちもすぐに態勢を整える。
敵の連携を許すと厄介だ。僕らは村を背にする形で二手に分かれた。