表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕はテイマー  作者: 鳥越 暁
テイマー初級編
28/147

ムワット石の採取(9) 魔物がたくさん

 先ほどから、『魔力探索』が使えなくなった。スキルの発動時間を超えたようだ。これから1時間は探索できない。しばらくは周囲への注意を怠らないようにしなくては。


「大量に、オロチの眷族が現れたようです」


 サリナが告げる。2メートルほどの『シマヘビラ』がオロチの周囲に集まってきたらしい。『シマヘビラ』自体はEクラスでさほど脅威ではないが、20匹も出現したとなると厄介だ。


「大丈夫かな……?」


「あの娘たちなら大丈夫でしょう。オロチ以外は恐れることはないはずです」


 そうだよね。アンフィたちも20人ほどは連れてきているし……。そう自分に言い聞かせていた時――


「ちょっとー! こっちも大変よ!」


 チョコレッタに呼ばれて駆け寄ると、30羽ほどのカラカラが群れを成して押し寄せてきていた。


 すぐにスペースを飛び出し、片っ端から斬り捨てる。剣を振るたび、羽ばたきと甲高い鳴き声が耳を打つ。戦いの最中、視界の端に文字が浮かんだ。


【称号:カラカラハンター】


 なんだか、あまり嬉しくない称号を手にしてしまった気分だ。


 その後も、アミラージ、バジャー、カラカラといった低ランクの魔物たちが次々と襲ってくる。個体の強さは大したことはないが、数が多い。こちらも手を休める暇がない。


「『ビャッコ』です。あれに追われて、小型の魔物が逃げ込んできたのでしょう」


 ツキシロが指し示す方を見ると、白い狐がカラカラをくわえていた。全身を覆う毛は月光を受けて白く光り、鋭い瞳がこちらを睨む。Cクラスの魔物だ。跳躍力に優れ、5メートル近く跳ぶことができるという。


 あれを倒さないと、このあたりは雑魚魔物で溢れかえってしまう。すぐに僕は駆け出した。隣にはサリナが並ぶ。


「サリナ! 僕は下から! サリナは上から!」


 短く作戦を告げると、サリナが無言でうなずく。僕が下から狙い、ビャッコを跳ばせた隙を上から討つ作戦だ。


「それっ!」


 脚を狙った僕の剣は、ビャッコに軽々とかわされた。狙い通り跳び上がらせたものの、サリナの剣も空を斬る。ビャッコは再び地面に着地した。


「俊足!」


 僕は俊足スキルを最大限に発動する。右へ、左へ。空気を切るように体が走り、剣を振り抜く。


 上からはサリナが剣を構えて急降下してくる。ビャッコはその鋭い一撃を辛うじてかわすが、そのまま僕の正面へと飛び出した。


「とりゃっ!」


 手応えがあった。剣がビャッコの首元を深々と断ち切る。ビャッコは短い悲鳴をあげ、倒れ込んだ。


【テイマーLv.19】


 レベルが上がった。俊足スキルも1つ上がり、レベル3になっている。


 ビャッコを討ち取り、スペースへ戻ると、周囲の小型魔物たちも、すでに脅威ではない程度に数を減らしていた。


「オロチも森へ入っていったようですよ」


 サリナが息を整えながら教えてくれる。どうやら僕たちがビャッコと戦っている間に、アンフィたちがオロチの眷族を討ち取り、気配減少スキルを使いながら攻撃を繰り返していたらしい。結果、オロチは進むのを諦めたようだ。傷一つ負わせることはできなかったようだけど。


 その後も、中型魔物が現れては討伐する戦いが続いた。そして、ついに長い夜が終わり、青い月はゆっくりと空の端へ沈んでいった。


 そして――朝が来た。


 東の空が薄く白みはじめると、草原の一面に白い霧が立ちこめ、冷たい空気が肌を撫でていった。夜の闘気と血の匂いを帯びていた風が、少しずつ澄んでゆき、空気が入れ替わっていくのがわかる。


 太陽が顔を出すと、草の葉の先に露が光り、小鳥たちが囀りを始めた。金色の光が霧の粒を散らして、ゆらめくように揺れている。その景色は、まるで魔物の影をすべて洗い流すようだった。


 その眩しさに、僕は思わず目を細めた。胸の奥に、じわりと充実感が広がる。長い戦いを乗り越えた達成感だ。


 けれど同時に、体の奥の方からどっと疲れが押し寄せた。剣を握る手が重い。足もじんわりとだるい。息を吐くたびに、眠気がこみ上げてきそうになる。


 それでも、悪くない。


 青い月の夜を無事に越えた。皆も無事だ。そう思うと、疲れさえも心地よく感じられた。


 マーベラたちチェンジャー団も、グレーボアやシープキラーを数頭討伐したらしい。


「ふうー、大変だったわねー。それにしても、この魔石の量! 見たことないわよ」


 討伐の成果として集まった魔石は想像以上の量になっていた。スペースの周りには、拾いきれていない魔石や遺物がまだゴロゴロと転がっている。これから交代で睡眠を取りつつ、魔石を拾うのが残りの昼間の仕事になりそうだ。


 翌夜は驚くほど平穏で、臭いの消えた僕たちは街へと帰ることになった。大量の荷物を抱えて――もっとも、運搬を引き受けてくれたのはチェンジャー団だったけれど。





「お疲れ様。私が青い月の日を忘れていて、迷惑をかけたわ。無事で本当に良かった」


 姉さんは心底ほっとした顔で僕たちを出迎えてくれた。心配してくれていたのだろう。目の下には隈ができている。美容に手を抜かない姉さんには珍しい姿だ。


 依頼達成の書類を書き込み、諸々の手続きを進めながら、僕は皆に報告した。


「僕さ。あんまり嬉しくない称号を手にしたよ」


 みんなが興味津々の目を向けてくる。


「【カラカラハンター】」


「ぷっ! ふははははは! ユリアスくんらしいわねー。ふふっ、あー可笑しい! ぷぷっ」


「もう、そんなに笑わないでよ!」


「ごめんごめん。でも称号持ちなんて、そう簡単になれるもんじゃないのよ。自信持ちなさい。ふふっ」


「姉さん! まだ笑ってるじゃないか!」


 この称号を得たことで、俊敏性が1.2倍になったらしい。どうりでビャッコと戦っていたとき、体の動きがいつも以上に軽かったわけだ。特に左右に動く時に。


 その夜、依頼達成の祝いを兼ねて食事をしたのだけれど、疲れ果てたのかチョコレッタは倒れ込んでしまった。……実際は眠っていただけだったけど。


 結局、チョコレッタは僕の屋敷で二晩を過ごすことになり、回復した彼女はムワット石と20個もの魔石を手に、ホクホク顔で帰っていった。


------------------------------

【今話の初登場の魔物】

《シマヘビラ》

『オロチ』の眷族.

スネーク型のEクラスの魔物.体長2mほど.

締付け力があり巻き付かれたら厄介.


《ビャッコ》

マムル(獣)型フォックスタイプ.Cクラス.

体長(高さ2m,長さ3m).跳躍力に優れ5mほど跳ぶ.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ