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僕はテイマー  作者: 鳥越 暁
テイマー初級編
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ムワット石の採取(7) サリナのスキルの話

 一通り『青い月の夜』の準備を終えて、あとは夜を待つばかりだ。その夜が訪れるのは、あと2時間ほど先。ずっと緊張していても仕方がない。


 ツキシロは篝火用の薪をせっせと集めていて、サリナとチョコレッタはあれこれと話し込んでいる。


「サリナ姉さんは火球もすごいけど、飛ぶのもすごいよね。それってスキルなの?」


 サリナは答えず、代わりに僕へ視線を向けた。


「ユリアス様。スキルのことをお話ししてもよろしいでしょうか?」


「いいよ」


「ありがとうございます。では……。私が飛べるのは『飛翔』というスキルです。これはユリアス様にいただいたスキルなのです」


 僕が授けたわけじゃない。きちんと訂正しておく。


「僕が“与えた”というのとは違うんだ。一緒に依頼をこなした時に、サリナ自身が得たんだよ」


「いいえ。私はあの時、『ユリアス様のお役に立ちたい』と強く願い、それでスキルを得たのですから、ユリアス様からいただいたのと同じことです」


 ……まあ、本人がそう思うなら、それでいいか。


「そうなんだね。スキルレベルって聞いてもいい?」


「構いません。レベルはMaxです」


「「マ、Maxーっ!?」」


 これは驚いた。ついこの間、習得したばかりのはずなのに、もうMaxとは。


 そういえばサリナは、暇さえあれば飛び回っていた。きっと必死にレベルを上げていたんだろう。


「ユリアス様まで驚かれるのですか? ユリアス様ならお分かりになるでしょうに」


「そうだよね!? ユリアスくんは(あるじ)なんだもの」


「僕は主だけど、それは形式上なだけで、サリナは僕の家族だから。勝手にレベルやスキル、ステータスを覗いたりはしていないんだよ」


 サリナは僕が「家族」と言うたび、決まってにこにこと嬉しそうに笑う。


「本当にいい主従というか、家族なのね。羨ましいな」


 それは否定できない。サリナの「飛翔」は高速飛行ができるという。


 さらにサリナの話は続き、『火属性魔法発動』というスキルも得たそうだ。そこで僕は、ツキシロも何か持っているのか気になって尋ねてみた。


 やはりツキシロも『無属性魔法発動』スキルを持っていた。


 僕自身も、今回の依頼でいくつかスキルやレベルが上がっている。途中からは、目の前に情報が自然と浮かぶようになり、わざわざ確認する手間がなくなって案外便利だ。


 『統制』スキルが2つ上がって「3」に、『指導』も「2」になった。レベルも18に上がっている。『共成長』スキルはレベル7になった(1つ上がった)。これはサリナが新たなスキルを得た影響だと思っている。


 僕とツキシロは会話から離れ、それぞれの準備を続けたが、サリナとチョコレッタは相変わらず「魔法談義」に熱中していた。チョコレッタが「姉さん、姉さん」とサリナに懐いている様子は、微笑ましい。


 そうこうしているうちに、あたりはすっかり暗くなった。夜が来たのだ。篝火を焚き、ランタンを灯し、モエーネの根を燃やす。真っ暗な草原の中に、ぽっかりと明るい空間ができあがる。


 チョコレッタは炎の揺らぎを見つめながら、袖の端をそっと握りしめている。先ほどまでより少し元気がなく、足元に目を落とす仕草が目に留まった。


 けれど、僕と目が合うと、慌てて顔を上げて笑った。


「へ、平気だよ? 暗いのもへっちゃら! 私、ちゃんと頑張るから!」


 声はいつも通り明るいのに、少しだけ張り詰めている。


 サリナがそっと目を細める。ツキシロも心配そうに視線を送っている。僕も、それ以上は何も言わずに、そっと笑い返した。


 誰も口には出さないけれど、チョコレッタが不安を抱えているのは、みんな分かっていた。


「油断しないでね、みんな」


 先ほどまでの和やかな雰囲気が一転し、場には緊張感が漂う。僕は『魔力探索』を使った。


「小さい魔力はあちこちにあるけど、まだ動きはないね。もうすぐ月が出るから、気をつけて」


 周囲に潜む魔物の気配を皆に伝える。


「ユリアス様。月が昇りましたわ」


 サリナが言わなくても、皆その変化を察していた。夜空には、青白い光を放つ月が姿を現していた。満ちた月はいつもよりわずかに大きく、まるでこちらを見下ろす目のように輝いている。


 その光に照らされて、草の葉や森の枝が淡く青く光り、影はくっきりと黒く地面を這う。風もないのに、草原がざわりと揺れたように見えるのは気のせいだろうか。


 無数の小さな魔力に混ざって、中くらいの魔力もいくつか混じっている。どれも右へ左へと活発に動き、時折ぶつかり合っているのは、魔物同士が争っているのだろう。


 夜営地の灯りは一定の効果があるようで、近くには魔物が少ない。それでも、土壁の向こう側には蠢く気配があった。


「壁の向こうに、アルミラージより強い魔力を持つのが二ついるね。ツキシロ、そっと様子を見て」


「はい」


 ツキシロはすぐに壁の向こうを覗き込み、何かを剣で突いた。


「『バジャー』でした」


 バジャー──アナグマを祖とする魔物だ。猫ほどの大きさで、噛みつきやシャベルのような爪で攻撃してくる。Dクラスの魔物で、脅威とまではいかないが、近くにいる魔物は排除しておきたい。


 サリナは、こちらに近づく魔物を感知するたびに飛び立ち、排除しては戻ってくる。アルミラージを数頭、バジャーを一頭、次々と片付けてくれた。


「ふぅ。やっぱり街の外は魔物が多いね。月が出たばかりなのに油断できないよ」


「私がユリアス様をお守りいたしますから」


 嬉しいことを言ってくれる。僕も、皆を守りたいと思う。



【今話で初登場の魔物】


《バジャー》

マムル(獣)型魔物。Dクラス。

アナグマを祖とし、猫ほどの大きさ。

噛みつきとシャベル状の爪で攻撃する。


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