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ムワット石の採取(3) ブカスの森再び

「マーベラ、イーナ、ニーナ、サンナ、ありがとね」


僕は手を振り『チェンジャー団』の彼らを見送る。


街からブカスの森へは直線距離で10kmほどだけど、歩くと地面の状態の悪さや繁茂している草のせいで4.5時間はかかってしまう。ましてやチョコレッタという体力の無さげな娘を連れているのだ。

なのでマーベラ達に森の端っこまで背に乗せて送ってもらったのだ。


僕達は森へ入った。前回進んだ経路をなぞる。時折、アンフィの作ってくれた地図を見ると、正確に記されている。


「この辺りに『ヤゲロ』って魔物がいるらしいよ」


「そ、そうなの? ど、どんな魔物?」


チョコレッタはびくびくしている。怖いのだろう。


「弱い魔物ですよ。襲って来ることもないですし、恐れることはありません」


「サリナはよく知ってるね。さすがだよ」


「ありがとうございます」


サリナは僕が褒めると本当に嬉しそうにしてくれる。

辺りを見渡してもそれらしき魔物はいない。カエルっぽい魔物らしいんだけれど。


「いないかあ。見てみたかったんだけどな」


「おりますよ。あちこちに」


「えっ?」


僕とチョコレッタがキョロキョロしていると……。


『とすっ』


サリナが木に短刀を投げた。

サリナが短刀を回収してくると刃の先に茶色いカエルっぽい魔物が刺さっていた。


「へえー。これが『ヤゲロ』かあ」


「ええ。何の役にも立たない魔物ですね。魔石は少し質が良いらしいですけれど」


サリナはそういう知識も豊富だ。聞くところによると、最近ではアンフィの方が詳しいらしい。

チョコレッタも緊張が解けて楽しんでいるようだ。

僕らは周りを警戒しながら進む。もちろん魔力探索のスキルは発動している。最近は2時間27分探索できるようになった。


「なあ、チョコレッタ。魔法を見せてくれない?」

「魔法?いいわよ」


そう言いながら立ち止まり、詠唱を唱えた。


「火の精霊よ。我に力を与え焼け盛れ!

ファイヤーボール!」


突き出した掌に魔法陣が地に対して垂直に展開した。そして火球が飛び出した。


『ぼんっ!』


子供の頭位の大きさの火球だった。

まっすぐに狙った木に辺り薙ぎ倒した。


「おお、凄い!」


結構な威力だったのだが、打ち出したチョコレッタは不思議そうに自分の掌を見つめている。


「どうしたの?」


「えっと。威力がおかしいの。私の火球、こんなに威力大きくないはずなんだけど」


その問いにサリナがにこりとしながら答える。


「それはユリアス様のスキルのおかげですよ。詳しくは申せませんが、このパーティ全員にそのスキルが作用しているのです」


そういう事か。サリナの言わんとしていることが分かった。パーティのリーダーになったから、『統制』のスキルが効いているんだということを。


「そうなんだね。詳しくは聞かないわ。

でも、これなら私でも魔物を倒せるかも」


「魔物を倒したことないの?」


こくりと頷く。初めてのパーティ参加だというし、そんな機会はなかったのだろう。少女だし。


「ちょうどこの辺りで『カラカラ』を倒したんだ。そいつで試してみる?」


「うん。試したいっ!」


腰の鞄からサリナ用の魔石飴玉を出して、地面に転がした。

チョコレッタとツキシロは不思議そうな顔をして推移を見ている。


「そろそろ来るよ。弱い魔物だけれど、嘴には気をつけてね」


注意を促していると『がさっ』っと狙い通りカラカラがやって来た。

予め詠唱を唱えさせていたので発射させるだけだ。


「ファイヤーボール!」


火球は飛んでいきカラカラに激突。無事に倒せた。


「わあ、魔物倒せたよ!ユリアス君ありがとう!」


あんまり嬉しそうなので、続けて3羽を倒させてあげた。


「さあ、満足したかな。そろそろ先に進もう」


また先に進む。

ムワット石のあるらしい場所に辿り着いた。

探索にいくつかの魔力が反応している。オークだろう。採石の前に退治しなくてはならない。


「気をつけて。今度はオークが来るよ」


「オ、オーク? 私には無理じゃない? 詠唱する暇無さそうだし……」


「せっかくだもの、最初の一匹だけでも倒してみなよ。準備だけでもしときな。無理なら僕らが倒すから」


「う、うん。が、頑張ってみる!」


そうこうしていると、やはり茂みからオークが『ぶわっ』と出てきた。


「ファイヤーボール!」


見事に顔を出したオークに命中。オークは弾け飛んでバラバラになっている。


しかし、後から次々とオークが出てくるとチョコレッタは逃げ出すだけだ。オークから逃げ回りキャーキャーいいながらと何発か撃っていたけれど、外していた。


「サリナ!ツキシロ!あとは頼むよ」

「「はい(かしこまりました)」」


残りのオークの退治は2人に任せる。あっという間にオークを蹴散らせていた。


「さあ、オークはいなくなったようだね。採石しようか」

「ち、ちょっと待ってお水飲んで落ち着かせて」

「いいよ。待ってるから」



チョコレッタが落ち着くのを待って採石をはじめた。


探鉱棒の上の器に持参したムワット石の欠片を入れる。魔力を通して地面に向けて探る。

すると『ポワーッ』っと棒が光るところがある。


「この下にあるみたいだね」


スコップで土を掘って見ると直ぐに石が出てきた。


「これだね。これを取り出すと臭くなるのかあ。嫌だなぁ」


文句を言っても仕方ないので取り出した。


「あれ?臭くないよ?」


「いいえ。とても臭いますわ。耐え難い臭いです」


僕以外の3人は鼻を押さえて非常に嫌な顔をしている。どうやら、本人は臭くないらしい。


鼻を押さえながら他の者も次々とムワット石を取り出した。すると臭わなくなったという。

臭いを発する者はその臭いが分からなくなるらしい。


「ふう。これくらいでいいかな」


僕らは大小含めてだいたい30kgくらいは採っただろう。依頼は5kgだったので十分だ。力持ちのツキシロが持ってくれる。


『ビンッ』


またスキルかレベルが上がったようだ。後で確認しよう。


「さあ、ユリアス様、帰りましょう。20分ほどで『モグラット』がやってくるのでしょう?」


「いや、ちょっと待とう。アンフィがモグラットを欲しがっていたから一頭だけ持ち帰るよ」


反対意見もでるかなと思ったけれど、みんな「分かりました」と従ってくれる。あのスキルのせいなのかもしれない。

サリナは「娘に気を遣って頂いてありがとうございます」と感激してウルウルしている。昔からサリナは感激屋で涙脆い。


モグラットを待つ間にチョコレッタに気になったことを話す。


「あのさ。チョコレッタはさっき逃げ回りながらファイヤーボールを出していたよね」


「ちょっと、動揺して狙いが外れただけよ!」


外していた事を揶ったと思ったみたいだ。


「ううん。そんな事じゃなくてさ。あの時、チョコレッタは無詠唱で撃ってなかった?」


「ん? そういえばそうね」


「じゃあ、無詠唱でも撃てるじゃん」


「えっ?」


チョコレッタの顔が綻んで、「試してみるわ」と空に向かって何発か無詠唱で撃ちだした。

チョコレッタは火球を無詠唱で撃ち出せるようになった。


「あっ。レベルが上がった!」


チョコレッタはなんとレベルが5も上がったらしい。元々低かったから5つも上がったんだろうけれども、一緒にいる僕らも嬉しかった。


良かったねーと喜びを分かち合っていると、目の前にチョロっとネズミ型の魔物が現れた。頭が大きくバランスの悪い体型は可愛くない。


「これだろうね。モグラットっていうのは」


「これですわ。資料で拝見しておきました」


「よし!」


直ぐに短剣を投げて仕留める。魔法薬をかけて姿を固定。麻袋に入れて撤収だ。


近くの地面全体が『ずわっ』っと動いたと思ったら、モグラットだった!地面を覆い尽くしてこちらに向かってくる!ざっと数百匹、いやそれ以上かもしれない。

バランスの悪い体型の癖に素早い。


「さあ、逃げよう!」


と走り出そうとしたけれど、その先にもいた。囲まれてしまったのだ。


「ユリアス様!お掴まりください」


いつの間にかサリナは飛んでいて手を差し伸べて来た。僕はその手を取る。その力強さに驚いた。


「ツキシロ!貴方はチョコレッタさんを抱いて駆けなさい」


僕を抱えあげながら指示を出している。


とても速く飛ぶ。ツキシロもモグラットを振り切って走る。


「凄いね。サリナ。助かったよ」


「大したことありませんわ」


と言いながらも照れている。腰を後ろから抱かれて飛んでいるのだけれど、力強い。

どこからそんな力がと思っているのを察したのだろう。


「身体強化ですわ。私もツキシロも身体強化を使いましたの」


「なるほどね」


サリナは簡単に言うけれど、咄嗟に判断して強化するなんて凄いことだと思う。

やがて森を抜け出した。


「ありがとうね。2人とも」

「うん。ありがと、ツキシロさん!」


礼を言う僕達に、言われた2人は照れくさそうにしていた。

ともあれ、草原に辿り着いたのだけれど、この草原に3日いなければならないのだ。


少し憂鬱だ。

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