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僕はテイマー  作者: 鳥越 暁
テイマー初級編
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ムワット石の採取(2) 準備

 チョコレッタが帰ったあと、僕とエリナ姉さんは今後の方針について話し合った。


「ユリアス。ムワット石のこと、どの程度知ってる?」


 最近、姉さんは二人きりの時には僕を呼び捨てにする。ファミリーと呼ばれる仲間たちは増えたけれど、血縁的にはたった一人の身内だ。実際には叔母だけど、「おばさん」なんて呼んだら、きつーく叱られる。


 そんな姉さんに呼び捨てにされるのが、僕はなんだか嬉しい。


 にやにやしていたら――


「ちょっと、聞いてる?」


 怒られてしまった。


「うん、聞いてるよ。えっと、鎧とか防護服になるんだよね? 加工しやすいって聞いた」


「正解ね。じゃあ、採取については?」


 僕は首を横に振った。それを見て、姉さんは僕を資料室へと連れていく。


 このギルドの建物は三階建てで、三階部分は姉さんのプライベートスペース。ギルドとして使っているのは一・二階で、資料室は一階――受付の四部屋奥にある。


 僕も何度か入ったことがあるけど、本当にすごい資料の量だ。書籍から一枚ものの紙切れ、貴族の家系図、各種研究論文まで、きちんと分類・整理されている。


 姉さんは地図の棚から一枚の地図を取り出し、今度は会議室へ移動した。


「これが『ブカスの森』の地図よ」


「え? 森の地図ってなかったんじゃ……」


「なかったわよ。本当に何も知らないのね。これはアンフィちゃんが作ったの。あなたがまた森に行くことを考えて、用意しておいたのよ」


 そうだったのか。嬉しい。嬉しいけど、ちょっと恥ずかしい。


 地図には、魔物の出現ポイントや種類、強さ、魔植物の生息地、目印となる魔木などが細かく記されていた。


「これ、作るの大変だったんじゃ……」


「ええ。アンフィちゃんは暇さえあれば森に通っていたわ。その結果、『気配減少』のスキルも習得したのよ」


 そういえば、最近は彼女たちのスキルステータスを見ていないな。


「ありがたいな……」


「そうね。サリナもアンフィも、あなたへの忠誠心は非常に高いわ。他のテイマーとテイムモンスターの関係と比べても異常なくらいに」


 僕は黙って頷いた。


「でも、それに甘えちゃダメよ」


「うん。僕ももっとしっかりしなきゃ」


 僕が笑うと、姉さんも頷いてくれた。


「気負ったらユリアスらしさがなくなるから、ほどほどに頑張ればいいわ」


 姉さんはそう言って微笑む。


「さて、話を戻すわ。鉱石のことはアンフィちゃんも詳しくは調べてないけれど、私の情報ではこのあたりにあるらしいわ」


 姉さんの情報源はいつも謎だ。ジュオンさん曰く、「彼女の情報網は化け物じみてる」らしい。


 示された場所は、以前マーベラが倒れたあたりの少し西側。地図には緑の丸印がいくつか付いており、「オーク」と書かれていた。


「オークの巣が近いんだね」


「そうみたいね」


 オークなら倒せる。集団で来ると面倒だけど、そこまで怖くはない。むしろ、ワイルドキャッスルやシープキラーみたいな徘徊性の魔物のほうが警戒すべきだ。僕には魔力探索スキルもあるし、大丈夫だろう。


「出発はいつにする?」


「正式な依頼に整えるのに、あと三日ほどかかると思うわ」


 チョコレッタからではなく、別口から依頼を立てるらしい。


「メンバーはどうするの?」


「今回はチョコレッタも同行させるから、魔術師ギルドとの共同依頼という形にするわ」


「他の魔術師も来るの?」


「来ないわ。彼女を同行させるためだけの名目だから」


 ほっとした。実はこう見えて、ちょっと人見知りだ。


「ユリアスはサリナかアンフィ、どちらかを必ず連れて行くこと」


「どうして? ルドフランとラトレルだけでいいと思ってたけど」


「はあ……あなたの職業は?」


「……テイマー」


「でしょ? テイマーがテイムモンスターを連れて行かないなんて、ダメに決まってるでしょ!」


「えっ!? でもこの前の依頼は――」


「それはそれ。これはこれ!」


 姉さんは人差し指を立てて「ちっちっちっ」とやるけど、誤魔化された気がする。


「詳しくは言わないけれど、あなたたちは他のテイマーとは違って特殊なの。自覚しておきなさい」


「う、うん……」


 というわけで、今回はちゃんとテイムモンスターを連れて行くことになった。


「安心感ならサリナ。成長を促すならアンフィ。どちらにする?」


「……サリナ!」


 即答だった。


「なぜ?」


「サリナの実力を、僕自身がちゃんと把握しておきたいから。たぶん今の僕の周囲で、総合的には一番強いのが彼女だと思う」


「その通りよ。あなたはサリナの力を正しく理解し、使いこなせるようにならなきゃいけない。今じゃなくても、いずれそういう時が来るから」


「わかった。サリナを連れて行く」


 こうして【ムワット石の採取パーティ】は「僕、サリナ、チョコレッタ、ツキシロ(サリナの息子)」に決まった。


「これで場所とメンバーは決定ね。次は採取方法を教えるわ」


 採取自体は簡単らしい。「探鉱棒」という道具でムワット石の反応を探り、手で掘るだけ。地表近くにあるので、スコップ程度で充分だという。


「問題はそのあとなのよねー」


 姉さんが嫌そうに顔をしかめる。


「とにかく臭いのよ!」


「えっ!? そんな石、嫌だなあ……」


「石じゃないの。掘った人が臭くなるの」


「は? どういう意味?」


 なんでも、ムワット石を掘り出すと、その人だけが強烈に臭くなるらしい。周囲の人間が三日間は耐えられないほどの悪臭。しかも、その臭いは何をしても三日間は取れないという。


「だから採取した人は、三日間は街に入ってはダメ!」


「そんなぁ……じゃあこの依頼、断ろうか――」


「断らせないわよ!!」


 ……この依頼、どう考えても罰ゲームだ。


「じゃあ、また森で三日間過ごさないと……」


「森の中はダメよ」


「なんで?」


「その臭いは、森に住む『モグラット』を誘引するの。数千匹は集まるわよ」


「げっ……!」


 まさしく罰ゲーム。


 結局、採取のあと三日間は草原で過ごさなければならないらしい。モグラットは森の外には出ないのが救いだ。


 そして三日後。

 【ムワット石採取パーティ】のメンバーが、ギルドに集まった。


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