レベルが上がった
テイマーギルドに登録した次の日、さっそく依頼を受けにやってきた。
「エリナさん、おはようございます。依頼を受けに来ました」
「おはよう、ユリアス君。初めてなら、このあたりがおすすめよ」
受付嬢のエリナさんが選んでくれた依頼書の中から、僕は一つを選んだ。
『魔物植物・ビークインの球根を3つ採取せよ』という依頼だ。報酬は50銅貨。安い宿なら三泊分くらいにはなる。
僕はまだFランクの最下級テイマーだけど、聞いていたよりは悪くない稼ぎかもしれない。一日三つくらい依頼をこなさないと食べていけないとは聞いていたけど、これならやっていけそうだ。
「これにします」
「うん、いい選択ね。現地にはもう生えてると思うわ」
現地に向かうと、確かにあちこちにビークインが生えていた。
3つの球根を持ち帰るだけ――簡単な仕事のはずだった。
「サリナ、さっそく採ろう。余分にあってもいいって言ってたから、20個くらい集めておこう」
「……そうですね……」
「ん? どうかした? なんだか不安そうだけど」
「ええ。このビークインという魔物植物は、普通『ビントル』という蜂型の魔物が守っていると聞いたことがあります。けれど、その気配がないのです。不思議だなと……」
そう言われて周囲を見渡してみたが、確かにそれらしき魔物の気配はなかった。
「いないならその方がいいよ。よし、採るよ。みんな、準備はいい?」
「はい。皆、用意はよいですか?」
『はい!』
僕がテイムしているのはサリナ一人だけ。けれど、サリナには彼女に従う部下たちがいる。
今はそのうちの20体が姿を現していた。サリナが声をかけると、皆、一斉に動き始めた。
僕がビークインの茎を掴み、土から引き抜いた――その瞬間だった。
ブゥゥゥン……!
羽音が耳を震わせ、空気がざわつく。
空を見上げると、黒く光る蜂型の魔物――ビントルが群れをなしてこちらに向かってきていた。
鋭い複眼に狙われているのがはっきりとわかる。
「来たね……」
サリナが静かに言った。
その声に、従者たち――アントラーたちが一斉に動き出す。
剣を抜き、迷いのない足取りで所定の位置へ。誰一人、騒がず、乱れず。
前に出る者、横に構える者。
その動きは、もう何百回も同じ戦場をくぐり抜けてきたかのように整っていた。
一体のビントルが突進してきた瞬間、アントラーの二体が左右から挟み込むように踏み込み、交差するように剣を振るった。
斬撃の音。ビントルの羽ばたきが止まり、まるで重みを失ったように地に落ちる。
「数が多いですね。ですが……問題はありません」
サリナが軽く言って、ふわりと舞い上がる。
上から飛びかかってきたビントルに対して、彼女はまっすぐに剣を突き出し、ひと突きで仕留める。
「囲んで。落ち着いて、一体ずつ」
その言葉に、アントラーたちはまた動き出す。
一体のビントルに対して三体が連携し、死角を潰すように包囲しながら斬り伏せていく。
動きに無駄がなく、指示もいらない。まるで彼女の意思そのものが隊全体に通っているようだった。
僕はその様子を、じっと見ていた。
(……やっぱりすごいな、サリナ達は)
不思議と不安はなかった。
襲われているはずなのに、僕の中にあったのは満ち足りた気持ちだった。
(これなら大丈夫だ。僕が信じているサリナと、その仲間たちがいる)
あるアントラーが、背後に回り込もうとしていたビントルに気づき、僕の前に滑り込むように立ちふさがって一撃で仕留めた。
「ありがとう!」
「お気をつけて、ユリアス様」
落ち着いた声を残し、彼はまた別の敵の元へ走っていった。
やがて――
一時間後。
ビントルたちはすべて撃退され、辺りは再び静けさに包まれていた。
アントラーたちは剣を収め、サリナのもとへ集まりつつある。
誰一人として傷ついた者はおらず、隊列は整ったままだ。
その姿を見て、僕は小さく息を吐いた。
(よくやったね、サリナ。みんな)
その胸の奥に湧いたものは、驚きではなかった。
誇らしさと、確かな信頼だった。
* * *
『ピンッ』
体の奥から、金属音のような軽い衝撃が走った。
この感覚は知っている。レベルやスキルが上がったときのサインだ。
僕はすぐにステータスを確認した。
⸻
◆ステータス表示◆
バドレオン・ユリアス
職業:テイマー Lv.7
•スキル1:テイム Lv.2
└1体の魔物をテイム可能
•スキル2:間接テイム(固有スキル) Lv.1 ★NEW
└テイム体を通じてさらに1体の魔物をテイム可能
•スキル3:体力・魔力回復 Lv.1
•スキル4:共成長 Lv.5
└テイム体と共に成長する
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【テイム体スキル】
『サリナ』
種族:インセクタル魔物・アリ族 Lv.10
•スキル1:女王の支配(女王固有) Lv.5
└最大100体のアントラーを従属させる
•スキル2:飛翔 Lv.1 ★NEW
└短時間空を飛行可能
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【間接テイム体】
『???』……未テイム
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「やった! レベルが2つも上がってる。それに、新しいスキルまで!
でも……『間接テイム』ってなんだろう? 固有スキルってことは、珍しいスキルなんだろうけど……。帰ったらギルドで聞いてみよう」
それに、サリナもスキルが増えてる。どうやら、飛べるようになったみたいだ。
「すごいじゃん、サリナ!」
するとサリナはふわりと宙に浮かび、軽やかに空を舞い始めた。
「おお……これは素晴らしいです! ですが……体力と魔力の消耗が大きいですね。もっと鍛えねば……」
「うん、でも飛べるだけで十分すごいよ。これからが楽しみだね」
僕たちは、ビントルの魔石と素材、そしてビークインの球根を携えて、ギルドへと戻った。
初めての依頼は、思っていたよりずっと手応えのあるものだったけど――
僕は確かに、一歩前に進めた気がしていた。