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僕はテイマー  作者: 鳥越 暁
伯爵昇爵と領内経営
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東部会合の幕開け

 大広間にぞろぞろと人が集まりはじめた。集まったのはみんな領地を持つ貴族たち。今日はカラブレット王国東部をまとめる最初の会合だ。


 イブさん――イブロスティ女王陛下も来ているけれど、今は別室に控えている。


「ユリアス様。エリナ様がお連れになるのはパワード侯爵です。――あまりユリアス様に好意的ではない、という噂もあります」


 耳打ちされてそちらに目をやると、小柄な男が姉さんに伴われて歩いてくるところだった。


「パワード侯爵。初めてお目にかかります。どうぞよろしく」


 僕が挨拶すると、侯爵はじっとこちらを見てから、


「……パドレオン卿。よしなに」


 とだけ答えた。本当に寡黙な人らしい。


 そのまま室内をぐるりと見回し、鼻を鳴らして「釣り合わぬな……ふん」と小声でつぶやく。どうやら独り言のつもりらしいが、隣にいたサリナがほんの少しだけ眉をひそめたのが見えた。


 一通り、会合に集まった貴族の方々と挨拶を済ませたところで、姉さんが拡声の魔術具を手にした。


「――時間となりました。これより会議室へご案内いたします」


 ルドフランやラトレルたちが先導し、列を作って奥の会議室へと進んでいく。僕もその後に続いた。


 打ち合わせどおり、上座にはすでにイブさんが腰掛けていた。部屋に入った貴族たちは一斉に膝をつき、恭しく挨拶を述べてから、それぞれ指定の席へと着いていく。


 こうして場に臨むと、やはりイブさんは――女王陛下なのだな、と改めて実感する。


 その脇に立つコゾウさんが「コホン」と咳払いをひとつ。


「では、皆様。これより会合を始めます」


 場がしんと静まり返る。


 最初に伝えられたのは、この東部地区が他の地域よりも魔物の脅威が大きいこと、そして水資源が豊富であること。そのため、この地区を一つにまとめ、魔物への対処や水利をめぐる協力体制を築くのが今回の地区割りの目的――そう説明がなされた。


「地区分けをするにあたり、纏まりがなければ意味をなしません。そこで皆さんをまとめる役……すなわち地区統括官を置きます。正式名称は――東方担当相です」


 コゾウさんの声が会議室に響く。


「……ここまででご質問はございますか。遠慮なくお聞きください」


「……それではよろしいか?」


「ミゲル侯爵、どうぞ」


 名を呼ばれて立ち上がったのはミゲル侯爵。たしか彼の所領は今回の東部区分の北西に位置していたはずだ。領地では魔術師の触媒として欠かせないタルキ鉱石が産出され、そのシェアは実に98%。おかげで財政はかなり潤っていると聞く。


「ご趣旨は理解しました。しかし……本当に纏まる必要がありますかな? 西部方面とは事情が違い、各領内で大きな問題があるようには思えませんが」


 ああ、この人は東部の一体化に反対なんだな。豊かな領地を持っていれば、そう考えるのも当然かもしれない。僕がそう思っていると――


「私が決めたことです」


 イブさんの声がピシャリと会場を打った。


「も、申し訳ございません……!」


 おおっ。イブさん、さすがの威厳!

 でもこれじゃ、他の人も言いたいことがあっても口にしづらいよ?


「――パドレオン卿。何かございませんか?」


 うわっ、コゾウさん!? 僕に振るの!?

 視線が一斉に集まる。……仕方ない、必死に考えるしかない!


「あ、あの……パドレオン・ユリアスです。よろしくお願いいたします」

 まずは深呼吸して名乗り、それから勇気を振り絞って言葉を続けた。


「私が思うところを述べさせていただきます。女王陛下がお決めになられた東部の皆様と纏まるということ――これは大きな意味があると思います。


 先日、私の領やお隣のグオリオラ公爵領では、南部の森から多数の魔物が押し寄せ、『スタンピート』寸前の状態になりました。南部だけではありません。メディシナルの森も、北部の山岳地帯に続く森もあります。そこでスタンピートが起きる可能性は十分にある。


 その時に個別で対処するよりも、まとまって動いたほうがはるかに効率がよいのではないでしょうか」


 言い終えたところで、イブさんが満足そうに頷くのが目に入った。テノーラさんやテッテラさんも同じように頷いている。


「――私もよろしいか?」


 隣に座っていたドリアンナ侯爵がすっと立ち上がった。コゾウさんが軽く頷き、先を促す。


「では……対魔物だけではありません。経済的にも恩恵があるでしょう。手を結び、繋がりを強めれば、相互に物流が整います。さらに情報を共有すれば、時流から取り残される領もなくなるはずです」


 侯爵の落ち着いた言葉に、多くの参加者が頷き始めた。会場の空気が、少しずつひとつにまとまりつつあるのを感じる。


「そういうことだ」


 次に立ち上がったのはテノーラさんだった。


「我ら上級貴族院では、その他の細々とした利点についても議論を重ね、すでに結論を出している。――言っておくが、これは決定事項だ」


 その言葉に、会場は水を打ったように静まり返る。


「……ならば、言うことはありませんな」


 ドリアンナ侯爵がそう応じて腰を下ろした。


「では――次に、取りまとめ役を決めなくてはなりません」


 イブさんの話では、僕がそのまとめ役――「東方担当相」に任命されることになるらしい。

 イブさんが決めたことにさえ異論が出たのだから、僕の任命なんて当然反対も出るだろう。


 ……はぁ。思わずため息がこぼれた。


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