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僕はテイマー  作者: 鳥越 暁
伯爵昇爵と領内経営
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奥さんたちと僕の新たな役目

 穏やかな時間が流れている。

 この日常が、僕にとって何よりの力になる――そんなことを思うのは、やっぱり彼女たちがいるからだ。


 最近、僕の部屋は奥さん達がたむろしている。部屋は400平米もあって大きすぎるからいいんだけどね。


 それぞれ妊娠しているので、お互いの体調とかを気遣っているんだ。


「お母様、無理はなさらないでくださいね、ユリアス様もご心配なさいますから」


 アンフィがそっとサリナの背を支えながら微笑む。声は穏やかで上品だ。


「ありがとう、アンフィ。でもあなたこそ、今は体が大事なのだから。ねえ、旦那様もそうお思いでしょう?」


 サリナも優しく微笑んで僕を見る。その言葉遣いには落ち着いた気品がある。


 そこへ、マーベラがソファに腰を下ろしながら、軽く笑った。


「アタシはさ、動いてる方がいいな。その方が元気な子になるよ」


 サリナが少し困ったように笑う。


「マーベラ、あまり無理はしないようにね。今は自分の体を一番に考えて」


「うん、わかってる。でもジッとしてると逆に落ち着かなくてさ」


 マーベラはニカッと笑って、僕に目を向ける。


「ユリアスも、なんか言ってやってよ」


 僕の言うことは一つだ。


「お産婆さん達の言うことを、よく聞いてね」


 それを聞いて、奥さん達の世話をしてくれているメイドさん達が、控えめに頷いている。


 実は、3人揃ってこうしてくつろぐのは滅多にない。

 仕事ではいつも顔を合わせているんだけれど、それぞれ忙しくしているから、こうしてゆったり座っている姿を見ると、なんだか嬉しくなる。


 サリナは己の鍛錬に精を出している。

 アンフィは日々研究に没頭していて、よく研究所に入り浸っていた。

 マーベラは――意外なことに、一線は退いたものの、軍部について勉強を欠かさない。


 こんな奥さん達に、僕は支えられている。


 そのとき、控えのメイドが扉の前に現れた。


「旦那様。エリナ様がお見えです」


 姉さんが、団欒を壊しにきた。


「入ってもらって」


 返事をすると、すぐにエリナ姉さんが顔を出した。


 姉さんは席に着くなり話を切り出す。


「これからイブも来るわ。そこで話をされるけれど、聞いておいて

ユリアス、貴方はこれから『カラブレット王国東方担当相』に任命されるの。私も賛成していることよ」


 姉さんが賛成しているということは決定事項だ。

 奥さん達以上に僕の立場を支えてきてくれたから今の僕がある。

 反対するつもりはないけれど、僕が何をするのかはしっかりと聞いておきたい。


「どんな役目?」


「簡単に言えば王国の東部をまとめる役ね」


 あまりピンとこない。

 確かに僕の領地はこの国の東の端っこだ。広くて長い草原と、その向こうにはどれほど続いているか分からない大森林がある。

 近年、森林からの魔物の被害も聞くようになったから、それに対処させようというのかな? それは今までもやってるしなあ。


「草原とか森とかの脅威から守れってこと?」


 姉さんは首を横に振る。

 どういうことだろう?


「ユリアスが言っていることも含まれるわよ。魔物の脅威から街を守ること。年々、その脅威は増しているのよ、私たちを除いてね」


 僕は頷く。

 僕の領の者達は魔物を恐れないからね。それどころか研究しているし、彼らからの魔石やドロップ品は経済を支えているんだから。


「パドレオン伯爵家として対峙してきたのを近くの貴族達にも手伝ってもらおうってことよ

……貴方の下に16の領地持ちの貴族達がつくことになるわ」


「えーっ! 無理じゃない?」


 僕はまだまだだし、自分の領地のことだけで精一杯だ。

 その16の貴族の人だって、貴族になって数年の自分より若い僕に従うなんて、嫌だと思う。


「エリナ。それは……ユリアス様のご懸念をなくす……ということでよろしいのかしら」


 サリナが、いつの間にか僕の横に座っている。


「そうよ。可能性を減らさなくちゃね」


 うん? なんのこと? 僕の懸念?

 なんか知らないうちにやらかしてたかな?


 集まってきていたアンフィとマーベラが、小さく頷いている。


「それならば……ユリアス様。大丈夫です。今まで通りのままのユリアス様でよろしいのですよ。あとはエリナに任せておけば」


 そうなの?

 なんか4人で分かりあっているようだね。

 ……それが何かは分からないけれど、皆が喋らないということは――僕は聞かない方がいいんだよね。


「分かった。姉さんにお任せします」


 そのあとは、難しい話もいったん脇に置いて、いつものように皆でお茶を囲んだ。


 エリナ姉さんも席に加わって、サリナやアンフィと静かに言葉を交わしている。マーベラは、ちょっとした冗談を飛ばして、場を和ませていた。


 メイドさんが淹れてくれたハーブティーの香りが、部屋いっぱいに広がって、

 僕はただ、彼女たちのやりとりを聞きながら、静かにひと息ついた。


 とりあえず、明日だ。

 イブさんの話を聞いてから考えよう――それでいい。


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