戦後処理⑵
再開後、決定事項として新パレト村及び新防衛施設の建設が告げられ、それに携わるのはドワーフ、コロンの者達と決まった。
建設が始まればすぐに出来上がる。
村の場合は他村に一時的に住まわせてもらっている者達が入れば問題ない。
だが、新防衛施設はそうではない。新たに人を入れなければ維持できない。
「クロム、人材は?」(姉さん)
「報告では領兵は12名です。彼らはほぼ隣領との境の警戒に当たっています」
「少なすぎじゃん!?」(マーベラ)
「シルビィユさん達が居てくれていますから、甘えていました」
クロム領のように小さい領地ではこの程度だろう。現在クロム領は人口900名程だ。人口の3%の兵数が適正と言われている。その計算では27兵程度だ。それに比べても少ないが、今のような平穏時ではどの領も少ないのが現状なのである。
その割合の兵数は国に何かあった時に出兵の義務がある。領を持つ貴族の責務の一つだ。
「あと20名ほど。クロム、集まりますか?」
クロムはちらりと後ろに控える男性を見た。
彼はクロムが幼少の頃から支えてきた者だ。今は正式に家臣となり、重臣だ。見た目は「できる執事」だけれどもね。
彼の方が領内の事情に詳しい。
姉さんは発言を促した。
「結論を申しますと集まります。現在、領内には11村とシルビー街があります。
村から1名か2名、人口の多いシルビー街から10数名、容易く集まるでしょう」
そこでマーベラから質問がされる。その人員は「徴兵」によるものなのかと。
「いいえ。希望者が少なかった場合は領民の義務として考慮せねばなりませぬが、しっかりと給金などの待遇面を提示すれば、その必要もなく集まります」
今まで……クロム領となる以前は労力を搾取されてきた領民たちだ。貧しい暮らしをしてきた。
僕たちの支援もあって、やっと困窮から抜け出したばかりの彼らにとって、今の生活を守りたいと思っているそうだ。以前の生活には戻りたくないと。
その「今」を守るための「防衛」の仕事はやりがいのある仕事ととらえられるだろうとのこと。
「分かったわ。ならば、クロムの名の下で寡兵しなさい。
そして、領民の信頼を強くするためにも、クロムは一旦、所領に帰りなさいな」(姉さん)
領主がいるのと不在なのとは士気も違ってくるだろうし、仮にも領主なのだから所領に戻るのは自然なことだ。
「分かりました。実は私もそう思っていたのですが、アンフィ義母様との研究が楽しくて、ついつい先延ばしにしてしまっていたのです」
そうだよね。アンフィもクロムも本当に楽しそうだったもんな。
アンフィを見ると、少し寂しそうな顔をしていた。
「そ、そうだ。クロムの領の東南に隣接している大きめな森があるんでしょ?なんかでっかいクレバスの周りの」
「ええ。その名も『クレバスの森』と言います。国直轄の森ですわ」
「イブさんに話を通して、そこの魔植物を調べさせてもらおうよ。そのためにクロム領内に研究施設を造ってさ」
「こらっ!また、話が脱線しているわよ!
……でも、そうねぇ。何かが得られる可能性も否定できないか。なら、アンフィちゃんが研究施設が軌道に乗るまでひと月くらい面倒みるとよいわ」
さすが、姉さんだ。少しでもアンフィとクロムが共にいられる時間を作ってあげたかったという意図を理解してくれている。
「研究施設の話は前向きにするから。話を先にすすめましょう」
「そうね。クロムが戻るとして誰か補佐が必要ではないかしら。クロムは政の経験はないですわよ。私達の中でもエリナさんくらいでしょう」(サリナ)
「今の代行さんじゃ駄目なの?」
今までだってそれで1年弱の期間をやってきたのだ。
「難しいでしょうね」
先ほどのクロムの重臣が答える。これまでは「水路の整備」「村の整備」「就農の手引き」などと与えられた指針があり、それに沿って色々な策を講じたにすぎないらしい。大元の指針を考えたりするのは越権でもあり、能力は未知という。
「そうね。それに関してなんだけれどユーラシドリ元伯爵に同行してもらってクロムの補佐をしてもらうわ」
「ええっ!?」
ユーラシドリ元伯爵はドリアンナ元侯爵の寄子貴族だった。侯爵の隠居に追随して、自らも引退してドリアンナ・アキサイロさん個人の家臣となっている。そして二人とも我が領の客分だ。
当初、元伯爵は僕に従臣を願ってきたのだけれど丁重にお断りさせていただいた。元伯爵を家臣になんて分不相応すぎる。その結果の「客分」だ。
「私からも勧めましてな。当人もそのつもりでおります」(アキサイロ)
「お任せください」(ユーラシドリ)
ユーラシドリさんも微笑んで頷いている。確かに心強いか。
ここまでで決まったことを整理する。
「新パレト村及び防衛施設の建設」
「クロム領内の寡兵」
「クロムの帰領と補佐にユーラシドリ元伯爵が赴く」
「魔物研究施設の建設とアンフィの短期派遣」
まだ、決めることはありそうだ。
小休止を入れて、しばしティータイムに入る。