戦後処理(1)
ツキシロ達はクロム領内パレト村を奪い返した。
シロクマくんが倒したツバサバイソンは瀕死だが命は奪っていない。同様に何頭かのストーンドッグも捕らえている。
討ち取った敵兵は14名。降伏したり捕らえた者7名だ。
ツキシロはいわゆる戦後処理をどうするか、どうユリアスに提言するか考えていた。
さて、無事に村は奪い返せたが、かなり作り替えられているし、敵兵だが少なからず死者も出た。このまま「どうぞ」と村民達に委ねて終わりと言う訳にもいくまい。
領境の警備も解かせて、シルビィユ達の意見も聞くことにする。彼らはこの地に赴任しているのだから。
「うーん、クロム嬢に聞かねばなりませんが、このまま村民達にとは良くない気がします」(シルビィユ)
「まあ、そうだよな。クロム嬢とユリアス様に伺ってみよう」
「隣地が隣地ですから、ここはこのまま防衛拠点とするのがよろしいのではないでしょうか。人員の問題とかありますが、御提言お願い致します」
良い案だろう。そうすれば敵の拵えた擁壁も手を入れて利用できるだろう。半分はトレントさんとボタインが崩してしまっているが。
そんな話をしているとシロクマくんが何やら言いたそうにしているのが目に入った。
「シロクマくん、どうしたのだ?」
「主。こいつどうする?」
横たわっているツバサバイソンを指差す。
「うん? そういえば、何故とどめを刺さぬのだ?」
「いいのか? こいつの主はいなくなった。何かの役に立つかと思ったのだが……。もう、戦意もないしな」
ツバサバイソンとテイム契約しているテイマーは死んだらしい。シロクマくんの目線の先に一体の屍があった。
ふむ。テイマーがいれば、ツバサバイソンと契約すれば戦力になるか。
どうするかの返答は保留して、捕縛した者達の素性を尋問してみることにした。侵略者の正体が分かるかもしれない。
その結果、正体は分からなそうだ。彼らの頭目のグレンという名は偽名の可能性がありそうだ。ちらっと「メットン様」と側近が言ったことがあるとのこと。慌てて言い直したらしい。
それらの情報をまとめて報告を上げた。
……ユリアス執務室……
「良かったね。無事に取り返せたよ」
「ありがとうございます何とお礼を申してよいか分かりません」
クロムは嬉しそうに、かつ申し訳なさそうだ。
「何言ってるの。僕らは家族なんだから」
奥さんの養子、当然僕の養子にもなったのだから、家族同然ではなくて「家族」なのだ。
「それでどうする? そのまま村に返すっていうのも色々と問題ありそうだよね」
クロムはピンときていないようで、小首を傾げている。
これは分かっていないな。
「クロム嬢、よく考えるのだ」
焦れたようにクロムに話し掛けるのはドリアンナ・アキアンドレ元侯爵だ。他の者も「何故分からぬのか」という顔をしている。
ちなみにこの場には幹部は勢揃いしていて、当然のようにテッテラさんもいる。
「パレト村は荒れてしまっているのだろう? 戦闘の傷跡も生々しかろう。そのまま村人に明け渡すとなれば、その後片付けも村人がすることになる。何の落ち度もない村の衆達がだ」
クロムはハッとした顔をした。
「更に言えば、敵兵とは言え血の流れたところに住まわせるのもどうかと思う」
「仰る通りですね。すみません。考えがいたらずに」
「気にすることないよ、クロム。アタシ達がいるじゃん! みんなが考えてくれるって」
マーベラは他力本願思考だが、その通りだ。
結局、パレト村は元の場所から少し移動して新たに設けることになった。
元パレト村は今ある擁壁や改築された村長屋敷を活かして防御施設にする。もちろん、手を加えなければならない。
それから、新パレト村の建設や防御施設に関して、各々の立場から様々な意見が出た。
「パンッパンッ!」
突然、今まで黙って成り行きを見ていた姉さんが手を叩く。
「はぁ。まったく……貴方達は。よいですか!? こういう時は決めることが第一。それから、それに沿って修正や詳細を詰めていくの!」
確かに先程まで「まとまりがないなぁ」とは思っていた。
「いいですか。1時間後に会議を再開します。それまで各自意見をまとめておきなさい」
「「「はい!」」」
やはり、姉さんの仕切りは締まる。
「それと、ドワーフとコロンの代表も呼んでおいて。チョコもね。では、一時、解散!」
再び姉さんが手を叩いて散会した。
皆が僕の執務室を出ていったが、姉さんは留まった。
「お茶でも飲みましょう」
ステイラさんがお茶を出してくれる。
熱くもなく温くもない良い加減のお茶を嚥下すると、心地よく心身の緊張がほぐれる。
しばらくするとドワーフのゲンさんとコロンのノハさんがやってきた。
「なんの用だ?」
ドワーフの長であるゲンさんは口は悪いが、建設技術は右に出る者がいない。
「せっかちねー。まあ、話が早くていいわ。実はね、貴方達に村一つと要塞一つを造って欲しいのよ」
「ふむ。詳しく話を聞こうか」
姉さんは新パレト村と元パレト村でえる防御施設の建設を彼らに任せようと言うのだ。
「ふむ。話は分かった。ノハよ、お前のところは何人出せる?」
「そうだなあ。ナデージダの方もこれから仕上げだし、ワシ含めて二人だな。ゲンは?」
「うちも二人だ。まあ、これなら余裕だな」
「ああ」
二人は頷きあっている。って4人でやるの?
「村の方はワシがやろう」(ノハ)
「けっ。楽な方取りやがったな。まあ、いい、じゃ、決まりだな」(ゲン)
「それでどのくらいでできる?」(姉さん)
「あん? 始まりゃ多く見て二日か!?」
「おう。村の方は一日で片付くぞ」
早すぎじゃない!? ドワーフ、コロン、恐るべし。
こうして、新たな建設計画はまとまった。
材料の運搬などの詳細を詰めていると、時間なのだろうか、先程の面子が続々と再訪してきた。
皆が揃ったところで改めて会議がはじまる。
ゲン……ノウ・ゲン。ドワーフ族の長。ドワーフ族は建築技術、鍛治技術に優れている。ユリアスとはユリアスの祖父からの付き合い。
ノハ……コルド・ノハ。コロン族長。コロン族は建築技術、武具製造に秀でている。シムオール市で悪客に困っている時にユリアスに救われ恩義をかんじている。