アンフィとデート
『もっと快適に、もっと豊かに』がいつの間にか領のスローガンになっていた。
ナデージダの学園が出来て半年経つと、宿場街であるオアシス街も形が整った。コロン族やドワーフ達ではない人間の手によるので、今までのような建設速度ではないけれど、十分に早い。
その他の領内も上手くいっているようで安心だ。
今日はアンフィの魔植物採取に付き合ってブカスの森を散策している。ブカス街とは結構離れた森の中だ。どちらかというとレーテーの森に近い。
「ヒュルルーッ」と上空を鳥が飛んでいった。
「あっ。冬告鳥です。今年は冬の年になりますね」
冬告鳥は「アカカンムリドリ」が正式名称で、冬の訪れのひと月ほど前にアイーダ草原に飛来する。
冬の年…不定期に数年おきぐらいの間隔でやってくる。その期間は長い時で2年ほど、短くても1年は続くのだ。
「寒いの苦手なんだけどなあ」
「そうですね。私もです。
ですけれど、数年間、忙しかったですから、御屋敷に籠ってのんびりする良い機会じゃありません!?」
確かにそうかもしれない。
「でも、外の季節は関係なくアンフィは研究室に引きこもるんじゃないの!?」
「うふふ。当然です…と言いたいところですけれど、今冬は旦那様とできるだけのんびりします」
「そう? それは嬉しいな」
「うふふふ」
僕らは屋敷に引きこもるとして、領内は大丈夫だろうか?
「ナデージダは大丈夫でしょう。学園の施設は冬の季節のことも計算されていますから」
「他は?」
「森の中は案外暖かいのでブカス街やメディシナル竹林も問題ないと思います。あまりに積雪が多いと心配ですけれど」
降るであろう雪の量が少なければいいな。
「ゼル村、シロコ村も古い村なので冬の季節の過ごし方は知っているでしょう。
その点、コルメイスはできてから初めての冬を迎えるので何かあるかもしれませんね」
帰ったら給水管の凍結対策とかチェックしてもらうことにしよう。
「そうだ。旦那様、火トカゲの魔石を取っておきましょう。発熱効果がありますから」
トカゲ型の魔物である火トカゲ=サラマンダーの魔石を通して少しの魔力を与えると発熱する。冬場の暖を取るのに良いかもしれない。
「そこそこの数の在庫はあると思うけれど、多くて困る物でもないし、火トカゲがいたら取っておこうか」
「はい。この先に巣がありますから20位手に入れましょう」
相変わらず探索して調べているようだ。感心するしかない。
それからアンフィの案内の元、火トカゲを22ほど退治した。
「ほら、あそこに朱色の実があるよ。何だろう?」
「あら!?あの木は「ユメユメノキ」ですわ。あんな実がなるのですね。新発見です、旦那様!」
「そうなんだ。じゃあ、持ってって調べようか」
僕は木に登って10個ばかりを採る。
アンフィは嬉しそうに腰袋に納めた。
「ふふっ、お土産がたくさんになりましたね。少し休みましょうよ」
「そうだね」
アンフィもはしゃぎ疲れたのかもしれない。
休むのに良いところがあると先導されたのは大木の下だった。
「さあ、上りましょう」
大木には目立たないように蔦を利用した梯子があり、上って行くと、小部屋があった。ツリーハウスだ。
「いつの間にこんなの作ったの?」
「少し前ですよ」
中には大きなソファーと机、椅子があり、隅にに魔導コンロや食器の類もある。
「お茶を入れますね」
アンフィの入れてくれたコリン茶は美味しい。ゆったりとした時間に楽しい会話。僕もこんな風な隠れ家みたいな所が欲しいな。
こうして、アンフィと楽しい時間をたっぷりと過ごして屋敷に帰った。
「ビュウロン。火トカゲの魔石ってどの位ある?」
僕は森で採取した収穫物を持って、ビュウロンに聞いた。
「えっと、少々お待ちください」
直ぐにツマミエさんが帳簿を持ってきた。ツマミエさんとビュウロンで地下倉庫を管理してくれている。
「サラマンダーの魔石は……あった、あった。今のところ69個です」
「案外と少なかったか。ん? 今のところ?」
「すみません。全ては整理できていませんので」
膨大な物資の内の2/3ほどがやっと整理できたところらしい。
そんなに大変なのだろうか?
「毎日、在庫は増えますので」
ビュウロンの目は僕の抱えている袋を見ている。この中には火トカゲの魔石22個の他にも退治した魔物の魔石が大小30個。ドロップ品も同じ数だ。アンフィが珍しいと言っていた鉱石の欠片も入っている。
申し訳ない気持ちになりながら、袋を手渡した。
「ユリアス様。お願いします。どうか人を、人をください!」
「うん。分かった。何とか手配できるようにするから頑張って」
直ぐには無理だろうけれどね。一応、姉さんに言っておこう。
「姉さん。ビュウロンが人員増やしてくれって」
「今は無理ね。どこも人が欲しいのよ」
ごめんね。ビュウロン、役に立てなくて。
ついでに冬の準備は大丈夫か聞いてみる。
「えっ? 冬がくるの!?」
「うん。冬告鳥が飛んで来てたよ」
「うわっ! 皆を集めて!
そういう大事なことは早く言いなさい!」
なんか慌てている。僕だって今日、冬告鳥を見たんだもん。
それからは皆大忙しとなった。
「ヤルカードは魔泥炭の生産をできるだけ増やして。
ボタイン達はコルメイスの中央広場に大きな穴を掘るのよ。何の穴かって? 雪捨て場に決まってるでしょ!
ツキシロはチョコレッタとブカスの森から薪を集めること」
「「「はい!」」」
みんながバタバタと動き出す。
「村なんかは大丈夫かな?」
「そうね。プラティーナに村々に連絡させて。ナデージダはサリナがね」
「分かった」
「あとは、何かあったかしら……」
僕は水路とか水周りは大丈夫かと聞く。
「あっ、そうね。ガディアナ、どう?」
「末端の方は危ういかも知れませんわ」
「えっと、アンフィ。研究所で不凍の魔法陣用の魔紙を用意して。枚数はガディアナと相談して多めにね。
雪に閉ざされるとなると照明も必要かしら。ランタン用の魔石の用意はビュウロンがしておいてね。
ルドとラトは食料の確保」
「「「はい!」」」
僕が考えていたよりも、やることが多いんだな。
僕にできることは何かない? ないの!?
そうかあ、皆頑張れ!