バンブータイガー(1)
私はリグネーヌ、スネークタイガー族だ。元ワイルドキャッスルのヒューマン・マーベラ様のテイムモンスターであり下僕だ。
そうなった経緯は省くが、現状に満足している。
森の中で数多の魔物との戦いに明け暮れ、餌を狩り、寝床を探す。そんな暮らしをしてきた。
その状況から救い出してくれたのが、ユリアス様とマーベラ様だ。
マーベラ様は強くて優しさがある。
ユリアス様は強いのはもちろん、懐が深い。優しさもあるのだけれど、全てを受け入れてくれるような気がするのだ。
お二人には到底敵わない。
今の暮らしは日々覚えなくてはならぬことも多いが、大満足なのである。
私が同じ立場に誘った同族のニノトーラも同じ気持ちだろう。
我らはマーベラ様の従者としてユリアス様の領地に住まわせてもらっている。
私達の仕事はマーベラ様の家臣というものらしい。ヒューマンの役割というものは勉強中だが、要はマーベラ様に従って動くということだと理解している。
そんな折に私達にお呼びがかかる。
「ルドくんとラトくんの村で竹を使いたいんだって。それでメディシナルの森に竹を取りに行きたいんだけどさ。そこに2頭のバンブータイガーがいるらしいの」
なるほど。マーベラ様はそのバンブータイガーが竹を取る時に邪魔にならないようにしたいと私達に話をされた。
「分かりました。私達にお任せ下さい。話をつけてきます」
役目が回ってきた。これはしっかりとこなさなければならない。
バンブータイガーは私と同じ虎型の魔物だ。通常の強さでいえば同じくらいだろう。
だが、私達はこの地に来て、力量が上がったのを実感している。
日々、マーベラ様にお手合わせいただいているし、ルドフラン殿とも鍛錬をしているのだ。更にユリアス様のお力だという「能力の上乗せ」があるらしい。
私達は直ぐにメディシナルの森へ走る。
「ねえ、リグネーヌ。どうやって話をつけるつもり?」(ニノトーラ)
「そんなのは決まっているわ。序列をはっきりさせればいいのよ」
「そうよね。それが一番よね。
で、どっちの姿でやる?」
どちらが良いのだろう?
ヒューマンの姿の方が魔力の使い勝手がいいので、火炎の威力は高い。身体強化もしやすくなる。
元来の虎の姿の場合は、身体の扱いは慣れている。跳躍力もある。
どちらにも優れている部分があるのだ。
「そうねえ……。ニノトーラはどう思う?」
「始末するのだったらヒューマン型ね。エリナさんから賜った剣で容易いよ。
生かしておくのなら、虎の姿で序列をつけた方が、竹虎も従いやすいとは思う」
生かすか殺るか。
生かしておこう。そして、マーベラ様の配下として竹林を守らせよう。
竹林は思ったより広かった。ヒューマンの単位で言えば2、3km²ぐらいか。
ほどなくして、バンブータイガーが現れた。
2時間程後………。
「ワタシたちの負けよ。好きにするといいわ」
目の前に2頭のバンブータイガーが横たわっている。
勝敗は喫したが、かなり手強かった。
「物分りが良いわね。
それじゃあ、あなた達は私達に従いなさい」
同族かそれに近い者の間には、しっかりとした上下関係がある。弱者は強者に従うのがルールだ。
「分かったわ」
「実は私達には主がいる。その主に貴女達の処遇を決めていただくから、付いてきなさい」
「待って。リグネーヌ。その前に……」
ニノトーラがポーションを取り出して彼女達の傷を癒してあげた。
「わあ。傷が治ったわ!」
ふふふ。驚いている。私もそのポーションにはお世話になっているからね。効くでしょう!?
ユリアス様の御屋敷にバンブータイガーを連れていった。
「ここで待っていなさい」
彼女達を控えの部屋に置いて、マーベラ様を探す。
この控えの部屋はユリアス様や妃様方へ面会を求める者達が待機するところだ。
執務室やお部屋などを訪ねるが見当たらない。
使用人に聞いてみると隣の建物であるギルドに行っているという。
私達はギルドに向かう。
エリナ様にマーベラ様の居所を尋ねた。
「さっき帰ったわよ。何の用?」
すれ違いか。
メディシナルの森からバンブータイガーを連れてきたことを報告する。
「それなら、私も行くわ」(エリナ)
エリナ様と共に屋敷へ戻る。
「どこにいるの?」
「とりあえず控えの部屋に留めています」
「なら、私が先に会ってみるわ」
私は控えの部屋の扉を開けた。