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僕はテイマー  作者: 鳥越 暁
伯爵昇爵と領内経営
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村々からの相談事(1)

僕の領内には村が4つある。

ゼル村、シロコ村、この2村は自治権を認めているけれど、直轄の村落だ。

あと2村はソレステッド村とキリーガミロ村。それぞれルドフランとラトレルの領だ。


この4村から相次いで相談が寄せられた。

それぞれ内容の異なる相談だ。


先の2村の領としての担当はガディアナの娘であるユリーネだ。彼女から告げられる。


「シロコ村では、また、メンライダの大発生の兆しがあるとのことです。滞在しているミドリさんの配下の方からも報告があります」


バッタ退治か。シロコ村の魔小麦粉は大事な特産品だ。対策というか退治チームを送ることを決めた。


「ゼル村は魔獣の被害がなくなり収入も安定しました。生活の基盤が守られていることで子供達が増えました。

その子供達に教育の場を与えて欲しいそうです」


「うん? どういう事?」


説明を聞くと大人になって困らないようにしたいと。コルメイスに来る機会も増えたので、マナーや村以外でも通用する作法等を教えて欲しいそうだ。


「村の大人達ではダメなの?」

「大人達は家畜の世話で忙しいということもありますが、きちんとした作法を知っている者はいないようで」


「そっか。ユリーネはどうしたらいいと思う?」

「異例なことですが、こちらから教師を派遣して小さな学校を作られてはどうかと思います」


この提案は本当に異例なことだ。学校は貴族か富豪くらいしか通えない。そもそも学校自体が少ない。

僕はシムオールの私設学校(私塾のようなもの)から入学証が送られて来て4年通った。1日数時間だったし、内容も高度ではなかった。でも、そこで礼儀作法とか読み書き、計算なんかを覚えることができた。

後で聞いたら、姉さんが祖父の遺産を利用して僕に援助してくれていたんだって。そのおかげだ。


「そうだね。他領との交易も盛んになった訳だし、そういう基本的なことは教えておいた方がいいね」


その提案を汲み取ることにしよう。

具体的なことは誰に相談しようかな。

姉さんは何かと忙しいし、イケイリヤの事もあるし……。

僕の奥さん達に相談してみよう。


「ルドフランさんとラトレルさんの村なんですが」


うん。あとの2村ね。


「こちらは本来は私の管轄外です」


そうだね。ルドフランとラトレルの領内の問題だからね。


「ですが、お二人から私に相談されまして。私からお話してもよろしいですか?」


「もちろんだよ。言ってみて」


「それでは……」


ちょっと深刻っぽい内容だった。

両村ともシロコ村とビレッジユリアスとの間にある。村民はそれぞれ22名と12名。人数は少ない。広さはどちらもビレッジユリアスの半分程ある。

それでも受け入れたからには自立してもらわなければならない。しばらくの猶予はあるけれど。


「あの辺りでは土壌に魔素がほとんど無いために彼らの出来る農業に向いていません」


確かに。労働人員が少ない上に土壌が悪いんだから。


「お二人は抱えられた村民達に向く産業はないかとのご相談です」


ううむ。難しいんじゃないだろうか。従事する人数が少なくて、採算の取れる産業っていうのは。

ユリーネがなにか言い淀んでいるようにみえる。


「何か案があるの?」


「一つ思いついたものがあるのですが……」


「是非、聞かせて」


「あの、上手くいかない場合、お二人に迷惑をかけることになります。いくつか懸念点もございますし……」


「分かった。良く考えて結論を出すとして、聞かせてもらえない? 」


それでしたら、と話してくれた。


それは酒造りだった。


僕も最近になってお酒を飲めるようになったけれど、美味しいとは思わない。

そのお酒が産業になるのかなあ。


「普通のお酒では無理だと思います。お酒造りには時間と人手が必要ですから」


やはりそうだよね。


「実は簡単にお酒を造る方法があるのです」


「そうなの?」


「ユリアス様は竹の水筒をご利用になられたことは?」


もちろんある。一般的な物だ。保冷機能のあるガンムー石製の水筒を最近では使っているけれど。


「私も使っていたのですが、あの渋みが苦手でして」


分かる。竹の水筒はほんの少しえぐみが生じるのだ。僕も好きではない。ほとんどの人がそうだと思う。


でも、竹水筒が酒造りに何の関係があるのだろうか。


「おそらく、お酒になるのを知っているのは(わたくし)だけだと思います。

まったくの偶然のことなのです……」


ユリーネは話をしてくれた。


何とか飲みやすくしようと水筒の中に浄化作用のあるメンライダの魔石を入れてみた。すると、くせも無くなりとても飲みやすくなったのだとか。

その水筒に水を入れたまま2日ほど放置してしまった。浄化作用もあるし大丈夫なはずと飲んでみると酒になっていた……ということだ。


「へー。不思議なこともあるんだねぇ」


その酒が今までにない味わいで、経験上、至極の酒とまで言い切った。

まあ、味覚には個人差があるから、万人が美味しいと思うことはないと思うよ。僕みたいにお酒がさほど好きではない人もいるんだから。


「お飲みになってみてください」


そうして、用意してくれたお酒を飲む。


美味い!なんと表現したらいいのだろう。口に含んだ時に広がる爽やかさ、嚥下する時に感じる旨味と清涼感。とても美味しい!


「そうなのです。美味しいのです。

シロコ村の相談を受けて、現地でメンライダを数匹退治した際に得た魔石を持っていたことも、水を入れたまま二日経ってしまったのも偶然で、何かに導かれたような気さえします」


お酒の好きなユリーネはどういう条件下でその酒ができるのか、密かに試していたらしい。




ユリーネの熱意が感じられるし、お酒造りも面白そうだ。

カルディス

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