飛び領地
コゾウさんから告げられた結論。
今回の件について、ドリアンナ侯爵は正式にパドレオン伯爵に謝罪するとされた。(文書にその旨を記して残す)
そして、ドリアンナ侯爵は謝罪の明かしとして、パドレオン伯爵から申し渡された交易禁止措置を一部地域以外で受け入れ、事の元凶となったドリアンナ・アキアンドレ子爵は爵位剥奪。身元は王宮預かりとなるそうだ。
なんでも、厳しく躾直されるという。
とても驚いたのは、その子爵の統治していたイケイリヤ街を僕に割譲されたことだ。パドレオン伯爵領となる。
そのようにして、僕はいくつかの書面にサインをして、ドリアンナ侯爵の謝罪を受け入れたんだ。
ドリアンナ侯爵一行は帰っていった。
なぜかコゾウさんは残っている。色々と見学したいそうだ。テノーラさんも相変わらずだし、テッテラさんなんかは完全に住み着いているからね。
「それでイケイリヤをどうするの?」
「ガディアナに見させることにしたわ」
そのあたりの事は姉さんに任せておけば問題がない。
パドレオン伯爵領内パドアクア男爵領となる。
ガディアナは色々と仕事があるので、イケイリヤに行きっぱなしは困るけれど、ガディアナに従っているムネアカアントラーの者が代行として就く。
「僕の知っている人?」
「そうよ。貴方の間接テイムモンスターじゃない」
ああ、あの人か。ガディアナを間にして間接テイム契約をした人か。確か名前は……。
「サンディ。氏はガディアナが付けてモリオンド・サンディよ。覚えておいて。サンディの群れの8名とガディアナの所の3名。合わせて11名のムネアカアントラーの者達がイケイリヤに住むの」
サンディはガディアナがムネアカアントラーの種族長となった時に、ガディアナに忠臣を誓ってやってきたムネアカアントラーの一群れの女王だ。
「分かった。不便のないようにしてあげてね」
「もちろんよ」
その後の報告を聞くとイケイリヤ街の統治は上手くいっているようだ。
コルメイスとの交流も盛んなようで、ギルドにもイケイリヤ出身の者が何人か入ったんだって。
「ところで、コゾウさん。いい加減、帰らなくていいんですか?」
「……。帰らなくてはいけませんかねぇ」
どうして、ここに来る人達は帰りたがらないのか。仕事が嫌で現実逃避しているんだろうな。
「それはそうでしょ。宰相なんですよね?
仕事も貯まってますよ、きっと。それにイブさんが怒っていると思いますけど」
「いや、イケイリヤ街の事もありますし、まだこちらでの仕事も……」
『バンッ!』
いきなり扉が開かれた。
「こら!コゾウ!ズルいわよ!」
入ってきたのはイブロスティさんだった。
「へ、陛下!? ど、どうしてここに?」
「貴方ばかりが楽しんでるからでしょ!」
「わ、私は楽しんでなんかおりませんぞ。テノーラ殿、そうであろう?」
「………」
「こ、こら、なぜ黙るのだ!?」
「貴方だけここに居るのは許せないわ。さっさと帰りなさい!」
「む、むむう。仕方ありませんな……」
良かった。一人は帰ってくれるみたいだ。
「私はここに残るからね」
「えっ!? それは本末転倒です。政務が貯まって後で大変になります。一緒に帰りますよ!」
「大丈夫よ。影武者置いてきたから」
「む!なんと用意のいい……」
へえ。影武者なんているんだな。物語だけの話かと思っていたよ。
姉さんが耳打ちしてくれたんだけれど、その影武者さんはイブさんとそっくりではないんだって。
偽物と分かる方がいいらしい。それって意味があるのかな? よく分からないや。
ブツブツ言いながら、コゾウさんは帰っていった。イブさんを残して!
イブさんは滞在中にテノーラさんの別荘に滞在するようだ。テノーラさんは嫌そうな顔をしているけどね。
それからイブさんはたっぷりと半月程も休暇を楽しんで帰っていった。アンフィの所のアントラーの一人を連れて。
どうして連れていったの?
「王宮からここに出向くには時間が掛かるからと仰ってましたわ」(アンフィ)
「なにかあった時に直ぐに連絡出来るようにするためね。ほら、彼らは『通信』できるじゃない」
ああ、そういうことか。
その連れて行かれた者は可哀想じゃん!?
「交代制にしたわ。中堅どころの者の持ち回りでね。それにしっかりと報酬をいただくわよ」
やはり姉さんはしっかりしている。王宮の情報を得るつもりでもあるんだってさ。
こうして、慌ただしい日々は落ち着きを取り戻した。
若干の変化があったのは新たな所領となったイケイリヤの事なんかで考えることが増えたことと、それに伴う人員が少々移動したことくらい。
それとルドフランとイスカンダリィ公爵孫娘のマリアージュが最近仲が良い。
面倒くさそうな顔をしていたルドフランも、今は優しげな面持ちで接しているようだ。青の月夜の日の責任を感じているのかな。
僕は通常の日常に戻る。