ムサ・シーマル伯爵の魔道具
ムサ副所長は何やらを抱えている。
「ズンバラへ攻め込む際はこれをお持ちくだされ」
あのう。副所長、攻め込むつもりはないんだけど?
「えっとね、後で顛末は説明するから。
それでそれは何?」
「あははは。これはですな。直径1km12メートル程を焼き尽くす魔道具ですぞ。
まだ4つ程しか出来ていませんが、これでズンバラなど恐るるに足らず!」
「ち、ちょっと、ちょっと!そんな危険な物? 」
周囲を見ると特にドリアンナ侯爵側の三人が青ざめている。
「や、やはり、パドレオン卿は我が領を……」
「そんな事しませんから!
とりあえず、副所長は一旦研究所に戻ってください。後で今後について説明しますから。
その危ない物も持っていってください」
「そうですか……」
ちょっと悄げているけれど、仕方ない。
「改めてお聞きしますが、先程の通りに私共にお任せいただけるのですよね?」(コゾウ)
「ええ。武力で攻め入る事はしませんよ」
「ほう。良かった。
でも、あのムサ伯爵の魔道具は気になるな」(テノーラ)
「そうですな。儂もどの程度のものか知りたいのう」(テッテラ)
ということで、話合いは一旦棚上げされて、副所長の魔道具の効果を計ることになった。
場所はアイーダ草原の西方、現在のコルメイス街の外門の前辺りだ。
その辺に街の役所施設を新たに造る予定だから、草原が燃えてもかえって都合がよいだろう。
僕らは物見台から見物だ。
副所長はデーアビントルに抱えられて目的地点に降りて魔道具を置き、戻ってきた。
『シュバッ』
閃光が草原を走る。
次の瞬間、物凄い勢いの炎のサークルが現れた。それも広い範囲で炎の高さも5.6メートルはある。
突如現れた業火のサークルに一同は言葉を失っていた。
すごいな。数十メートル離れているのに熱気で肌がひりつく程だ。
あれ? これはいつまで……?
「こ、こほんっ。副所長、素晴らしいです。それで、これはどのように消すのですか?」(姉さん)
「さあ? 放っておけばいつかは消えるのでは?」
消し方を考えていない!?
僕らは慌てたけれど、当人は研究成果を目の当たりにして満足気だ。薄い胸板を誇らしげに逸らしている。
「しょうがないな。今回は僕が消すけれど、今度は発動を消す方法もセットで考えてください」
テノーラさんとテッテラさんはどうやって消すのか興味深々な顔をしている。
僕は腰袋の小石に触れてマイムを呼び出す。
マイムを見て、ドリアンナ侯爵サイドの者達は驚いているけれど、いつもの事なので気にしない。
「なあに? なんか暑いね」
「そうなんだよ。それでさ。あの炎を【水包】で消したいんだけど、それを3倍位に広げられるかな」
「うん。大丈夫よ。ここは宝玉効果もあるし」
僕が出せる【水包】のスキルの最大はアルセイデスの森で出した直径300メートル程だ。それだと3回位は出さなくちゃ、この炎を消せない。
一気に消してしまいたいのでマイムに手伝ってもらうんだ。
「水包 !」
スキル名をわざと叫んで大きな水の塊で消化。後で説明する手間が省けるからね。
炎はあっという間に消せて良かった。水蒸気が沢山出て靄みたいに辺りがなったけれど。
「副所長。この魔道具あと3つあるんだよね? それは厳重に保管して。研究成果は公表禁止、門外不出で」
「……分かりました」
ちょっと残念そうだ。
「研究は続けてもいいからね。特に発動を消す方法を」
「おー分かりました! 課題を与えてくださるとはさすがユリアス様だ」
喜んでくれているようだけれど、出来てしまった魔道具の処理の仕方をなんとかしたいじゃないか。危険すぎるから。
魔道具の試し発動を終えて、僕達は屋敷に戻る。
-----ユリアス屋敷の会議室-----
ここにユリアスはいない。先程の話の通りに今後の処置はコゾウとエリナを中心に話し合われるからだ。
それでも、おかしな談合とならないようにユリアス以外は揃っている。ユリアスだけが外された形だ。
「これで分かっただろう? この領の特異性と力を」(テノーラ)
「はい。敵対するなど恐ろしくて身が震えます」(ドリアンナ侯爵)
「私もある程度の事は陛下よりお聞きしておりましたがこれ程とは思いませんでした」(コゾウ)
「うむ。儂がこの場にいても良いんじゃろうか……」(テッテラ)
「何を今更。爺さんが是非に同席させろと言ってきたのではないか」
「それはそうなんじゃが……。はっきり言って儂の想像を超えておった」
「ならば爺さんは黙って聞いていて」(エリナ)
「そ、それでは話し合いましょう」
話合いは長引き夜を徹して、纏まったのは翌朝だった。途中でガディアナも呼び出されている。
和解案をまとめた一同は、一旦屋敷に用意された客室で身支度を綺麗に整えた。
改めてユリアスの執務室へ向かう。
「パドレオン伯爵。再度、ご会談に参っております」(エリナ)
エリナもしつかりとユリアスを立てて、貴族としての振る舞いで、公の場としてわきまえていた。
一同からユリアスは結論を告げられた。