コカトリスの進化
青の月の夜の魔物狩りは、目論見通りの成果を出した。参加した者達みんながスキルアップ、ランクアップを果たした。
ただ、少々の問題があった。
イスカンダリィ公爵の孫娘マリアージュが大怪我をした。公爵はルドフランと共にアイーダ草原で狩っていたのだが、危険だとして参加を認めてなかったマリアージュが隠れて付いてきていたのだ。
そして、バンダースナッチに噛みつかれて重症を負った。すぐにルドフランが気づいて手当したので、大事には至らなかったが、公爵が大慌てして大変だったようだ。
当の本人はすぐに治療を受けたのでケロリとして悪びれる様子もないのは困ったものだ。
また、怪我をしたのはマリアージュだけではない。ギルドのテイマーのテイムモンスターが瀕死状態になった。カリアテア兄弟の弟のテイムモンスターであるコカトリス。
テイムモンスターが怪我をするのはよくあることだ。低ランクであれば尚更だ。自己責任と言える。
今回、問題となったのは「対魔物」ではなく、人によるものなのだ。テイムモンスターとは知らずに攻撃されたとかではない。キョナンのテイムモンスターと知っていて攻撃を仕掛けた者がいた。
----青の月の夜・メディシナルの森----
メディシナルの森へはツキシロ、スイレン、カリアテア兄弟が赴いていた。もう1組(ヴィアラクテ家中心のチーム)も入っているが、距離を空けているので互いの干渉はない。
ツキシロ夫妻は貧弱な兄弟のコーチである。
夜半すぎにはそこそこの成果を上げて、兄弟のスキルもいくつか上がった。魔物を倒す度に喜ぶ様を見て、「良かったな」と思う。
「おーい!」
一休みしている時に声がかかる。松明を手に10名程の集団だ。
はて? 我が領の者ではないな。こんな夜に?
近づいた彼らを見ると半数程は怪我をしている。元気そうなのは3人程か。
「こんな夜に何をしている?」
「あ!? 経験値上げに決まっているだろう!?」
彼らは皆、ヒューマンなのは分かる。武具を見ると兵士職と思われる。さほど強いとは思えない奴らだ。パドレオン領以外では無謀と言われるような行動だ。
「怪我をしている者がいるようだが?」
「ああ、魔物と対するのだ。多少の怪我はするさ」
「良ければ治療しようか?」
無謀で自己責任とはいえ、怪我人を放っておいては後味が悪い。
「そうだな」
ツキシロとスイレンが鞄からポーションを取り出そうと目を離した時だ。
「キュコーッ!」
悲鳴が上がる。
目をやるとリーダーの男が槍をコカトリスに突き立てていた。キョナンのテイムモンスターだ。
「な、なにをする!」
「ふん!『成り上がり』のところの者は強いと言われているが、大したことはないな」
そこからツキシロは怒り、十数名を叩きのめして捕縛する。
「てめえ!解け!俺は子爵だぞ!そして父は公爵だ!お前の主よりも上だ。ただでは済まさんぞ!」
そう言って縛られながらもリーダーは暴れる。
「それがどうした。我が主を侮辱することは許さん!」
ツキシロは殴打する。何度も何度も。
数度の拳ですでにリーダーの意識はない。
「ツキシロ!それ以上はダメです。ユリアス様はこやつの死は望まないでしょう」
「うぬ。そうだな。少々冷静さを欠いてしまった。スイレン、すまん」
小手高に縛られた輩たちはその場に転がされる。
「コッコ(コカトリスの個別名)はどうだ?」
「ポーションでかなり癒えましたけれど、まだ危険な状態ですね」
ツキシロが輩たちを打ちのめしている間にスイレンが治療に当たっていた。手持ちのポーションを使って外傷は言えたようだが、身体内部はポーションが行き渡らない。
「クピー……」
苦しそうだ。
「後でエリナ様にお叱りを受けるやもしれないが……」
ツキシロは腰袋から瓶を取り出し中から何やら取り出した。
「それは!? 効くのですか?」
「おそらくな。ユリアス様がかつてマーベラ妃をお救いになった方法だ」
ツキシロが手にしたのは「ユリアスの飴」である。ユリアスの魔力が詰まった魔石。
それをコカトリスに飲ませる。
「えっと。あとは外部からも魔力を与えたはずだ。キョナン!お前は外から魔力をコッコに込めなさい!」
「はい!た、助かりますよね!? コッコは助かりますよね!?」
「泣くな!助かると信じろ!」
四半時後、コカトリスは助かった。変な進化をして……。
「あ、あのう……。これ、コッコですか?」(カリアテア兄弟)
茶色だった翼はオレンジ色となり、身体も一回り大きくなった。トサカも倍ほどの大きさに。
コカトリスのコッコは『エボルブコカトリス』(Cランク)に進化した。
ツキシロチームはその後も魔物狩りをして、捕縛した者達を引き連れて戻るのである。