Aランク魔術師誕生!
ブカスの森はアイーダ草原に比べて魔素密度がかなり高い。となると魔物も強くなる。それも格段にだ。
そんなブカスの森の魔物をチョコレッタは蹂躙している。ファーファにしても、危なげなく倒している。
カラカラにわーわーきゃーきゃー言っていた頃が懐かしい。逞しくなったものだ。
もちろん、僕も彼女達に負けてはいない。アルセイデスの森やヤトノリュウさんとの稽古での経験は伊達じゃないと思う。
スールヤが対魔物では一番経験が少ない。それ故に無駄な動きが多いようだが、この夜を超えれば、著しく成長しているだろう。適宜にアドバイスしているしね。
「アンガージャッカル」という強酸を吐く魔物(Aランク)には少し手こずったけれど、チョコレッタの石と炎を混ぜた雨のような矢で倒せた。この魔物は数体いたので、1体は僕が、ファーファとスールヤも協力して1体を倒している。
チョコレッタがアンガージャッカルを倒した後でランクが上がって大喜びだ。
「嬉しい!
……でも、節々が痛い……」
ランクが上がって身体が順応するためにあちこちが痛むんだ。中には気を失う人がいるくらい辛かったりする。
かくしてAランク魔術師が誕生した。
Aランク魔術師は国内では7名しかいない。最近では20年ほど前に出ただけだという。
「すごいじゃないか!」
目の前にマーベラが現れた。スールヤ通信を通じてサリナから聞いたらしい。
僕のことも気になっていたから、駆けつけてきてくれたようだ。おっつけサリナやアンフィも来るという。
「皆さんが揃うと、おそらくはこの国随一の戦力ですね」
スールヤが興奮している。
みんなが戦闘体制の状態はそうそうあるものではない、という。
僕からしてみれば、ついこの間にアルセイデスの森で散々暴れたので、そんな意識はないけれど。
ちょっと整理してみよう。
僕の領の魔術師はAランクのチョコレッタがトップ。次に多分直にBランクになるだろうファーファ。この二人が魔術師のトップツーだ。
テイマーでは僕がAランク、隠しているけれど、姉さんもそうだと思う。
剣に関わる職種ではサリナとアンフィは「剣豪」だ。ルドフランとラトレルは「剣客」。どちらも国内にとても少ない。
体術系ではマーベラが「拳聖」、イーナは「拳豪」、他のワイルドキャッスル達も「拳客」かそれに近い「拳士」だ。
それに加えてサリナ達、魔物から人間となった者はBランクの魔物の力を維持している。
実に頼もしい仲間達だ。
自分のステータスやスキルを確認しているチョコレッタは「あっ、これもできるようになったの!?」と興奮している。
僕も『魔術の師』という副職種を得たけれど、僕自身はろくに魔術を使えないのにな。ただ、アドバイスしているだけだ。
ほどなくして、ブカスの森で散っていた者たちが集まった。総勢13名。
「Aランク魔術師の誕生祝いの魔物狩りだよ!」
マーベラの号令で再び蹂躙劇が始まる。
実力者に囲まれて安心しているのかファーファも伸び伸びとして魔物を倒している。
「あっ!」
そういいながら自分の手を見たり、メイスに魔法陣を纏わせたりしていた。
ははあ、ファーファもランクが上がったんだな。ニコニコしているし。
「上がったの?」
「な、なんのことでしょう?」(ファーファ)
隠しておきたいらしい。気持ちは分かる。ランクが上がったとエリナ姉さんに知れたら、今よりも難度の高い依頼を受けさせられるだろう。
「隠さなくてもいいのに」
「も、もう少し内緒にしてください」(ファーファ)
しょうがないなあ。喜ばしいことなのに。スキルやランクは本人が公表するかだ。でも、ギルドとしては少なくともランクを把握しておく必要があるため、そうはいかない。「少しの間だけね」と認めてあげたのだけれど、それもすぐにバレた。
「あら。ファーファもランクが上がったのですね」
アンフィがいきなりバラしたのだ。
「ど、ど、どうして!?」
「うふふ。私は【鑑定眼】スキルもってましてよ」
そうだったのか。知らなかった。
あれだけ魔物や魔植物の研究していれば、納得できるけれど。
「おお。重ねてめでたいねー」
マーベラが大喜びだ。他人のことを自分の事のように喜べるところが彼女のいいところだ。
その後、「フォレストワニゲトラ」というAランクでも強い部類の巨大な魔物が出て、総力戦となった。森に棲むワニって意味がわからない。鋭利な鱗を飛ばすし、外皮は異常に硬い。オマケに幾重もの障壁を張る厄介な魔物だった。
1時間ほども格闘して、倒した時は皆が疲労困憊だった。
この時はランクの低かった者たちの成長が著しかった。ランク差がある魔物を倒すのだから、当然だろう。
こうして、僕らのブカスの森の青の月夜は終わったのだった。
フォレストワニゲトラ……ワニのAランク魔物。森林性。鱗を飛ばして攻撃する。鱗には返しがあり、刺さるとなかなか抜けない。障壁(物理・魔術)を張る。成獣は8mにもなる。
背面は硬いが腹面は柔らかく弱点。今回倒したのは5mほどの個体。