タルウィリザード
ついに青の月が昇った。
静かだった夜の森が急にざわつきだす。
「チョコレッタ。右手奥にBランク2体。後は低ランクが多数」
「はい。じゃあ、ファーファ、気合い入れるわよ!」
「分かりました。私はその低ランクを……」
ファーファが言い終わる前に十数頭のスモールキャッスルが現れた。Cランクの猫型魔物だ。爪が鋭く、大きさは家猫くらいの小型。
「うわわわっ。えいっ!」
すぐさま、メイスを鞭に変えて、討ち取っている。一振りで2、3頭をバシッと打ち据える。ファーファは臆病だがやる時はやる娘だ。
頭数が多いのでスールヤも手伝ったのだが、彼は近接戦が得意のようだ。素早い猫達をひょいっと掴んで地に叩きつける。相手は魔物だけれどえげつない。
あっという間にスモールキャッスルは壊滅した。
ここで気付いたことを述べておく。
姉さん達に「思ったことがあったら、言ってあげなさい」と言われているんだ。
「ファーファの鞭使い凄いね。風魔法も使えるんでしょ? それを組み合わせたら面白いかもよ。
スールヤは握力が強いみたいだね。それを利用すると距離があっても攻撃出来そう」
こんな感じだ。
ファーファの場合は風魔法を組み合わせると直接鞭を当てなくても衝撃を与えられるだろう。例えば【ウィンドカッター】とかだ。
スールヤは握力を利用した『指弾』とかどうかな。弾に魔石とか何かの効力を持つ鉱石を使っても面白い。
「具体的には?」とせがまれたので、ちょっとしたヒントを与えておいた。何でも人から聞くのは良くないと思うんだ。
じわりとBランクの魔物が動き出した。
「さあ、チョコレッタ。僕らも行くよ!」
「うん!」
少し奥のBランクの魔物に向かう。
ここから本格的に二手に分かれる。
Bランクの正体はレッドボアトルだった。猪の魔物だ。魔力量的にBランクだが、倒すのはさほど難しい訳ではない。
チョコレッタ一人で大丈夫だろう。
得意の火炎系で仕留めるのかなと思ったら、レッドボアトルの身体を下から石の塊が飛び出て吹き飛ばした。【ストーンピアラ】という石柱を出すスキルだとか。
主に動きの早い魔物に対して進路を妨げるために出すという。チョコレッタはそれを身体の下から突き上げたのだ。
色々と考えているんだな。偉い!
「凄いじゃない」
「えへへ。最近、土属性の魔術が調子いいの」
「そうなの? 実は僕も『土の加護』をもらっててね。それからそういうスキルも少し得たんだよ」
すると、チョコレッタは小声でブツブツ何やら言っている。
『そういうことか。ユリアスくんのスキルのおかげね。この機会を逃せないわ』
よく聞こえなかったけれど、なんか納得しているようだ。
僕たちは更に奥へ進む。
行く手を阻む魔物がいた。火トカゲこと「サラマンダー」(Bランク)だ。眼前に6頭、その後ろに2頭は確認できる。
「あれはね、火で攻撃すると……」
「えいっ!【ファイヤーディアゴナル】!」
遅かった。火は食べられちゃうからダメだよと言おうとしたのに。
サラマンダーは炎を食べて大きくなる。アルセイデスの森で確認されたことだ。
予め言っておけば良かったけれど、レーテーの森やアルセイデスの森では見たけれど、このブカスの森では見たことがなかったので失念していた。アンフィから居るらしいとは聞いていたんだけど。
案の定、サラマンダーは火だるまになりながら炎をパクパクと食べている。
「何よーっ!こんなの知らないわよ!?
ユリアスくんも知っていたなら早く言ってよーっ!」
忘れていたんだから仕方ないじゃないか。
「やっぱり大きくなっちゃったね。
………ね、ねえ、大きくなったというより、もう違う魔物じゃない!?」
「あっ!ユリアスくん。あれは『タルウィリザード』じゃない?」
火に包まれたサラマンダーの中で2頭の体がふた周り大きくなり(2m程)、背中はゴツゴツして所々に棘のようなものが生えている。僕はそのタルウィリザードというものをよく知らない。チョコレッタも本で見ただけらしい(アンフィの著書)。
「そんなことある!?本にもそう書いてあったの?」
「書いてなかったと思うわ」
驚いた。サラマンダーの進化系がタルウィリザードだったのか。
後でアンフィに聞いてみよう。
Aランク魔物のタルウィリザードはチョコレッタには少し荷が重いかもしれない。
そう思った僕はサラマンダーが苦手とする水系攻撃をする。
水包で閉じ込めて置いて、【ソイルランプ】という土の塊を出すスキルで、中を土で満たす。
大きな土団子が出来た。それを二つ、タルウィリザードが2頭だからね。
「凄い!」(チョコ)
思った以上の効果だ。水と粘度のある土が混ざって粘土のようになって包んでいる。
その塊をヤトノリュウの短剣で両断して退治した。
チョコレッタは下から【ストーンピアラ】で突き上げて、バランスを崩したサラマンダーにレイピアを突き刺して倒している。
臨機応変に自分に出来る対処法を考えているんだな。偉い。
余裕があったのはこの辺までだった。
その後は次々と魔物が襲ってきた。ランクも様々で、普段は臆病な奴までが凶暴化している。
やはり、青の月は恐ろしい。
「このワーグ達を倒したら、一旦ベースに戻ろう」
「はあはあ。そうね、限界近いかも」
既に数多の魔物は倒した。
まだ、あと5時間くらいはこの月が昇っている。一時、休憩だ。