ギルドに入ろう
◆プロローグ◆
今日は、ついにギルドに入る日だ。
僕は胸を弾ませながら、目の前の扉を見上げる。
入ろうとしているのは、『テイマーギルド』。
これまで開けることすら許されなかった、その重たい扉に、今、手をかける。
「うわっ……! ここが『テイマーギルド』かあ……」
古びたけれど威厳のある大きな扉をくぐると、中は想像以上に賑やかだった。
人、人、人。そして、その誰もが何かしらの“存在”を連れている。
獣のようなモンスター、小さな精霊、影のようにぴったり寄り添うものもいる。
――そう、これが“テイマー”たちの世界だ。
「ユリアス様、あちらが受付のようですよ。参りましょう」
ぼんやりと立ち尽くしていた僕に声をかけてくれたのは、僕の唯一のテイムモンスター、サリナ。
小さくて、でも凛とした声で、僕を現実に引き戻してくれる。
頷いて、僕は受付へと向かった。
「すみません、ギルドに入りたいのですが、どうすればいいですか?」
受付にいた女性は僕を見て、一瞬だけ表情を和らげた――ように見えた。
けれどそれはすぐに、事務的な口調に戻る。
「この板に手を乗せてください。レベルと適性を確認します」
彼女の声音には柔らかさがあり、どこか安心感があった。
でも、誰かに似てるような……気のせいか。
僕は戸惑いつつも言われるままに手を置いた。
すると、瞬間――
*ピカッ*
「うわっ!?」
思わず声が漏れた。ほんの一瞬だったけれど、強い光が走ったのだ。
「えっ!? ちょっと……待ってください!」
戸惑っているのは僕だけではなかった。
受付の女性が僕以上に目を見開いている。
何か予想外のことが起きたような、その顔は、一瞬、動揺を隠そうとしているようにも見えた。
「こちらへどうぞ」
手を引かれ、奥の部屋に連れていかれてしまった。
(な、なに!? 僕、何かやらかした!? ただ手を置いただけなのに……)
通されたのは応接室のような場所。重厚なソファとテーブルが並び、受付嬢がノートを開いて僕の正面に座る。
「いくつか確認いたします」
「は、はい」
「お名前はパドレオン・ユリアスさん。年齢は15歳でお間違いありませんね」
「っ……はい。でも、どうして名前まで……?」
「先ほどの判定板で確認できるのです」
どうやら、あの琥珀色の板は、名前や年齢、レベルまですべてを読み取る魔具らしい。すごい……。
「あなたのテイマーレベルは5。ギルド加入の下限です」
もちろん、それは分かっていた。レベル5になったからこそ、今日ここに来たのだ。
「ですが……それにしては、少々異例です」
彼女が何か言いかけたところで――
*ガチャッ*
奥の扉から、黒ずくめの長身の男性が姿を現した。
「この子かい?」
「はい。ジュオン様、こちらが彼のボードです」
“ジュオン”と呼ばれた男は無言で板を見つめ、それからゆっくりと僕に視線を向けた。
そして、受付嬢の隣に静かに腰を下ろす。
「ユリアス君。私はこのギルドの副マスター、ギルベルタ・ジュオンだ。よろしく」
「は、はい。よろしくお願いします」
「もちろん、君のギルド加入は認めよう。適性にも問題はない。ただし――君には少し特別な点があるようだ。エリナから話は聞いているかい?」
「い、いえ……。何も聞いていませんが……」
「……そうか。では、私から説明しよう」
そのあと、小一時間ほど。
ジュオンさんから説明を受け、質問に答え、ついにギルドバッジを受け取った。
――本当は、今日すぐにでも依頼を受けたかったけど。
なんだか疲れてしまった。
明日から、本格的に始めよう。
僕の“テイマー”としての人生が。