因果応報
(よくもやってくれたものです)
全てが消えた。
光も、音も、痛みも、鼓動も。
およそ人間の生物らしい感覚は何一つ残っていない。
(こんな、屈辱)
ただ事実を述べただけだ。
それも、終われば水泡に帰する情報。
吐露しようとも問題はない。
むしろ賞賛すらしているつもりだった。
能力選択の甘さ、まずは当たってみるという傲りなど、確かにこれまでの有象無象と似通った欠点は見られる作戦だ。
やろうと思えば複数同時に五感を奪えたものの、そこまでやってはゲームにならないと手を抜いたのもまた事実。
イデオ数の暴力と一言でまとめるのも容易い。
だとしても天晴れな結末だ。
(あの崩落で死ねれば、綺麗な決着だったものを)
不死のプレイヤーが従順すぎたし、気を利かせすぎた。
身を挺して守る、なんて行動は十中八九失敗するだろうに、このタイミングで一を引くとは。
普通の戦闘ならば満点のはずの行為が、画竜点睛を欠くなんて思わない。
(ああ、これで仕事は終了だと、いうのに)
自分勝手なログアウトはできない。
プレイヤーNo.100に座っている以上、基本的な条件は他参加者と同じなのだ。
とはいえブラックも百戦錬磨のキラー。
人を、己でさえも、簡単に死に至らしめる方法は熟知している。
腕でも、足でも、首でも、腹でも、どこでも良い。
急所の一つに手が届けはすぐにすむこと。
だが、
(腕は、どこ?)
わからない。
(首は、どこ?)
わからない。
(ここは、どこ?)
わからない。
何もわからない。
いつまでこのままなのかも、わからない。
(……ぁあっ)
抱いたことのない感情が沸き上がる。
寒くないはずなのに寒い。
痛みは消えているはずなのに。
何も感じずとも心が軋んでいく。
(わた、しは、仕事を、仕事で、ただの、仕事)
それが『恐怖』という感情なのだと、理解することができない。
(わたしが、なにを、したと)
ただただ、叫びたくなる衝動だけが無の中で渦巻いている。
あのプレイヤーを呪い。
敗北を呪い。
システムを呪い。
仕事を呪い。
人を呪い。
世を呪う。
他所を気にかけていられる時間など須臾のこと。
(ぁ、あ、ぁあぁ、ああっ)
結局、最後の最後まで、小黒は己を振り返ることはなかった。
(ああぁぁああぁ、ああぁあぁあっぁああぁぁぁ!)
~~~~~~~~~~
「ああぁぁああぁ、ああぁあぁあっぁああぁぁぁ!」
「ひいぃ、これ何してるの! みんなして何してるのー!」
ブラックの絶叫に、何も知らない幸だけが動揺している。
「サトリ」
「なんだ」
「コイツは反省した?」
「いや、全く」
「そっか」
回答を得たセナは、そっと目を閉じた。
細く長い絶叫が終わり、体を小刻みに震わせるだけになったブラックへ、瓦礫が落とされる。
頭部を丹念に破壊され、今度こそ完全に息の根が止まった。
同種の怒りを燃やしていた面々が感情を切り替える中で、セナだけは遺体を見下ろし続けている。
「ではサトリ君。次の遺体はどこかな?」
「これで終わりだな。もうこの周囲に遺体はない。処分完了だ」
「それは朗報だ! ならばそろそろ戻るとしよう。クック君がメロンとかバナナとか用意していてくれるはずさ!」
「もう果物はいらないんですけどぉー!」
教授の指示で捜索は終了。
野薔薇がミカンを補充し、拠点へ戻る準備を始める。
「セナ?」
幸が声をかけてくる。
「なに」
「そろそろ行くって。どうしたの?」
「いや、何でもないよ。ただ……」
セナは唾を吐き捨てる。
「これだから、いじめる側の人間は嫌いなんだ」
多分に私情が混じった怨嗟の言葉をそこに残し、幸と共に皆の元へと向かった。
「うぇーん、戻ってからもフルーツ三昧じゃ飽きちゃいますってばー!」
「わかった、わかったよ野薔薇君。もうちょっとの辛抱だから!」
もう慣れてしまった野薔薇の泣き言が瓦礫に染み込む。
ノウンや教授、ドレッドたちはすでに風の渦に乗り込み待機状態。
大鼠とサトリが、セナたちのことを待っていた。
これでひとまず戦争は終結。
美味しい食事を求めて調理設備が整った拠点を探しに行く。
誰しもそう思っていた。
「──っ! 全員、身を守れ──!」
ノウンの絶叫が響きわたるまでは。
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現在、第5章を執筆中。 投稿日は毎週4日で日曜、火曜、木曜、土曜になります。




