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七転八倒



「その子が今回の赤ちゃんの一押しなの?」



 おもむろに萌黄が共有画面を拡大表示してくる。

 そこにはビルの階段を慎重に降りていくセナの姿が大きく映されていた。



「まぁぁああ、そういうこったぁなぁ。お前らにだって居るだろぉ?」

「否定はしないけどー、ちょっと決め打ちするの早くない?」

「バァァァアアカ。こういうのはなぁ、フィーリングでいいんだよぉ。それに……」



 VR機器から送られてくる思考信号から、セナの考えは文字となって表示されていく。

 運営にだけ許されたカンニングであり、これらの技術は『心を読む』などのイデオにおいて活用されている。



「まず最初に身を隠そうとする行動だろぉ? 危険を可能な限り下げようとする努力だってやってらぁあ。んで、なによりコイツはちゃんと分かってやがるだろぉぉ? 今後、どんな流れでこの戦いが進むのかっていうのを、高ぇ解像度で理解してやがる!」



 緑野のチュートリアルから、すぐにこの考えに至るプレイヤーは中々居ない。

 そしてそれを見越しての能力選択をしている。

 これだけでも赤羽の中においてセナの評価は高かった。



「ふーん? 確かに光りそうな逸材だとは思うけどさぁ、そういう参加者だってゼロじゃないし……。結局、決め手は好みの能力だったってことでしょ?」

「カカカカカカ! それを言っちゃあオシマイだろうよ!」

「ほーんと赤ちゃんてば、ワンパターンなんだからー」



 ──ソレだけ、というわけではない。

 赤羽は何よりも、セナというプレイヤーの精神性を高く評価していた。

 現代人の感性では完全に失われた、常在戦場の在り方が現れている。



(せいぜい長生きして、場を荒らして乱して壊してくれや。俺が見てぇのは、そおぉぉぉいう死合いなんだからなぁぁ……)



 企画を盛り上げることが仕事の一環である広報部長としての勘と、これまでに99のデスゲームを見てきた経験則が、台風の目を見定めていく。

 赤羽は大酒家の仮面の下で静かに目を細め、今回の祭りの行く末に思いを馳せるのであった。




~~~~~~~~~~




 セナは表通りを避け、湿気と悪臭が漂う裏路地を慎重に進んでいた。

 得た力を活かすなら大樹へ向かわないのは論外だが、急いで向かって得なことは少ない。


 銀色の配管は血管のように摩天楼に這い回り、裏路地を物理的にも狭くしている。

 ときたま自分以外の気配や物音に気付いて振り返り、路地の角に体を隠して状況を確認している。

 だが今のところは配管を通る空気音だったり、ネズミなどの小動物との遭遇で済んでいた。



「ふぅ……」



 また一つ杞憂で済んだことで思わずため息も漏れる。

 巨木の根への道のりはまだまだ距離が残っており、どれくらいかのプレイヤーが向かっていることを考えても気を抜くことは許されない。

 それは、参加者ならばちょっと考えればわかることだった。



「うええぇぇー!」



 だからこそ、間の抜けた悲鳴が聞こえてきた時はまず警戒し、次に疑問が頭を占めたのは当然のことだろう。

 しかも声は路地ではなく、明らかに大通りの方向から聞こえてきている。

 正気か? それとも戦闘が起こっているのか?

 


「……」



 見に行かない、というのは無い。

 遅れて巨木へ向かう敵に背後をとられる危険を減らしたいのもあるが、なにより現地到着までの間に一回は選能(イデオ)の慣らし運転をしたかった。

 慌てず騒がず、周辺警戒を怠らずに路地から顔を出してみる。



「いたぁあい……なんで、こんな、配線が地面にぃー……」



 どこかの高校の制服だろうか。

 ブレザーにスカートといった出で立ちの少女が、アスファルトの上で転がり悶えていた。

 ビル一階の店舗のものと思しき外看板の配線がローファーに絡まって転んだのかもしれない。

 擦りむいた膝小僧は赤く染まっており、ついでに額も赤い。



「く、そ、よし、取れた! よーし、他のプレイヤーが居るかもだし、いい場所取らないと」

(独り言が多いプレイヤーだな)



 コードをやっとこ外した彼女は元気いっぱいの表情で立ち上がり、駆け足で大通りを走り始める。



(もしかしなくても馬鹿なのか?)

「えっほ、えっほ、えっホアァ!?」



 そして十メートルもしないで次のコードに足を引っかけていた。

 あれが同じプレイヤーだとは到底信じ難い。

 まだ運営が仕込んだNPCだと考えた方が納得がいくくらいだ。


 だが、あれは使える。



「ぶええぇぇ……いたぁーい……」



 あれだけ大騒ぎしていれば、遅かれ早かれ別のプレイヤーに見つかるだろう。

 力に自信がある者ならば遠慮なく刈るはずだから、そこを背後から頂くのが一番美味しい。

 

 そうと決まれば話は早い。

 転んだりぶつかったり、時には路地裏から出てきた猫に引っかかれたりと散々な少女と、一定の間隔を保っての尾行を開始した。

 とはいえ不安要素がないわけではない。



(あの子、イデオを使う様子がない)



 特に野良猫は敵プレイヤーの攻撃の可能性だってあったはずだ。

 なのに、ごく一般的な猫のように扱い、あまつさえ舌を鳴らして呼び寄せて、出した手をひっかかれている。

 

 サバイバルゲームに参加しているという自覚がまるごと欠如している様子に、呆れればいいのか恐怖すればいいのか。

 ある種『異質』ともとれる行動を深呼吸しながら見守っていると、何度目かの転倒に合わせて、ついに第三のプレイヤーが現れた。


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