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終の一声



「は、はっは、あはははははっはっはっは! ざまあねえなぁオイ!」



 ヒューズの笑い声が煙の中に木霊した。

 水の化け物は吹き飛んですでに無く、それを操っていたと思しき少年は流血しながら片足をついている。

 老人は吹き飛んで瓦礫に打ち付けられており、動く気配はない。

 そして、



「良い格好になったよなぁ? 聖女サマよぉ!」



 ジャンヌは首を失って倒れ、死んでいた。


 爆発に晒された頭部がどうなったのかは誰にもわからない。

 完全に消失したのか、瓦礫に埋もれたのか。


 一つ間違いのないことは、不死狩りの二本柱たるプレイヤージャンヌの敗退という事実のみだ。



「結局、スライムで自分を守るのが精一杯だったみてぇだなぁ?」



 一方のヒューズはといえば、不死を肉の壁にしながら後ろへと跳んで逃げていた。

 もちろんダメージがゼロとはいかなかったが、あのまま押し込まれるよりは遙かにマシな戦果だ。

 あの燕には感謝こそすれ、文句を言う筋合いはないだろう。



「……痛いなぁ、もう」


「安心しろよオイ。オレがすぐに痛みとオサラバさせてやる」



 取り出したのは、二本のトンファー。

 その先端には何枚ものアルミ板や鉄板が留められて、強度を増してる。



「もちろんこいつも爆弾だ。腹にめり込むと同時に爆発させてやるぜ」


「……」


「ははははは! もう声も出せねぇか! いや悪い悪い、オレが耳栓して聞こえねぇだけかもなぁ!」



 二人の不死も再生が終わって立ち上がり、もはや戦えるのは手負いのジーニアスただ一人。



「よし、いけぇ!」



 勝利を確信したヒューズが不死をけしかける。

 とはいえ、どれだけ有利になっても自分から近づくことはなく、油断もしていない。



「あーあ、僕を一人にしちゃったのは間違いだったね」


「ハッ! ここでまだ負け惜しみが吐けるたぁ面白れぇガキだな!」


「本当のことだよ。もちろん説明するつもりもない」



 だからこそ、ジーニアスから人差し指を突き付けられた時も、警戒しトンファーを構えるだけだった。



 ブシュウ、という水音が響く。

 前にいた二人の不死者が、唐突にバラバラの肉片となり瓦礫の上に散らばった。



(──?)



 次いで、今度はヒューズの全身から力が抜けてしまい、立っていられなくなる。

 状況を理解しようと自分の両腕を確認すると、いきなり肘から先が切断されて落ちた。



「──は?」



 肩から先が斬れ飛ぶ。

 膝が斬れて床に崩れる。

 腹が裂けて中身が溢れる。



「ぁあっ、ああぁっ、うぐがぁぁあああああ!!」


「うるさいな」


「ぐぅごばっ」



 喉が裂けて、声すら発せなくなった。

 何も理解できない現象に叩きのめされる形で、ヒューズの意識が急速に消えていく。



「別に、触れなきゃ液体操作が出来ない訳じゃない。てことは、相手の血液を血管や心臓の中でウォーターカッターにすることだって出来るわけだ」



 続けられる言葉に併せて、プレイヤー――ヒューズだったものが細切れになっていく。

 その言葉を聞いているのは、もはや一人しかいない。



「というわけで悪いんだけどさ。奥の手を見ちゃった人には死んで貰うしかないんだ」



 すでに動かなくなったヒューズに興味はなく、向けられる視線の先にいるのは老紳士ただ一人。



「……私が、まだ生きていると、お気づきでしたか」


「うん。だからまあ、さんざん助けられておいて裏切るわけだしさ。一言だけ謝っておくよ。ごめんね」


「いえ、お構いくださるな。ジーニアス殿はご自身とチームの為に牙を隠しているだけのこと」



 少年の指が持ち上げられ、ベートーヴェンを指す。

 あの能力を使われればひとたまりもないだろう。

 もっとも、この傷ではトドメを刺されなくとも死ぬだろうが。



「そして、そんなにお優しくされると、こちらとしても申し訳が立たない」


「?」



 言葉の意味を図りかねているジーニアスが眉根を窄める。

 その油断とも取れる、甘さとも取れる数秒は、ベートーヴェンを非紳士的行動に移させるには十分だった。



「この私も同様に、己とチームの為に牙を隠していたわけですから」


「──ッ!」



 ジーニアスは瞬間的に足下の水で己を包んだ。

 同時に、ベートーヴェンの心臓から血の刃が飛び出してくる。

 激痛と衝撃に打ちのめされ、もはや数秒の後に死に往くしかない運命の中で、老紳士は微笑みながら力を発現させた。



「 ワ ッ ッ ! ! 」



 紳士にあるまじき大絶叫が、ジーニアスの水の鎧に振動となって到来する。

 結果論で語るならば、己を水で守ろうとしたその行動は、完全に裏目にでた。



──世界で観測された最も大きい音は、クラタカウ火山の大噴火で記録された172dBだという。

 これはジェット機のエンジン音や落雷の音の十万倍以上だ。

 当時、この火山から64km離れた海域にいた、戦艦ノーマンキャッスル乗組員の半数以上の鼓膜が破れた。


 そんな爆音が、目の前で炸裂したらどうなってしまうのか。

 水中の音の伝達速度は空気中よりもはるかに良い。

 ジーニアスは音の衝撃で水の中から吹き飛ばされ──瓦礫の中へと倒れ伏した。



「……ごほっ、ぐ……190dB。人の耳で聞こえる、限界ギリギリの、爆音です……」



 今の一発で完全に気を失ったらしく、もはやジーニアスには届いていないだろう。



「消音、結界を張ってある……大鼠殿には、聞こえていない、はずです」



 ノウンの姿が見当たらない。

 おそらく、他は全員死亡したと伝えるだろう。

 あとは計画が実行されれば、ジーニアス共々瓦礫の下だ。



「残念ながら、音だけで人が死んだ前例は無い……。あとは、皆様に、お任せ……しましょう」



 叶うならば、優勝したかった。

 そんな思いを抱えたプレイヤーがまた一人脱落する。



「嗚呼、若者に頼られるというのは、やはり……心地よかった、ですな……」



 どこか満足げにひとりごち、ベートーヴェンの音は消えた。




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現在、第5章を執筆中。 投稿日は毎週4日で日曜、火曜、木曜、土曜になります。

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