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容態急変:side教授



「──うぁあああぁぁぁあああっっ!!!」


「うわぁ!?」


「なんだなんだおいィ!」



 突然のことだ。

 それまでただ眠っているだけだったはずのセナが、大声で叫びをあげた。

 呼吸は浅く早く、大量の汗が額を流れ顔色がどんどん悪くなる。

 教授とドレッドの目線でも、明らかに何かの異常が起こっているのは明らかだった。



「よくわからないが、すぐ起こした方がいい!」


「りょ、了解だ。無礼苦ゥ!」



 ドレッドがイデオを起動する──のだが、様子が変わらない。



「……なんだ、こりゃ」


「どうしたんだいドレッド君?」


「わからねぇ、わからねえが、イデオが使えねぇ」



 困惑するドレッドの様子を見て、教授は熟考する。

 五感を消す能力による攻撃も止み、戦線が不死狩り有利に傾いたおかげで余裕を取り戻していた。


 すでに野薔薇・幸・天下一の三名は作戦のために離脱しておりこの場にいない。

 小町は前線に出て不死と戦っており、大納言は遠距離からのイデオ攻撃で優勢を取っている。



「ドレッド君、体調に異変はないかな? 普段と違うところとか」


「異変って言われてもな。怪我もねえしな。強いて言えば──」



 ぐううぅぅ……。



「──強いて言えば、腹ぺこってところか」


「ふむ。実は私もね、さっきから空腹がひどいのだよ。戦闘中は気にする余裕が無かったが、小町班が到着してから急にな」


「けどなァ、朝も一応食べてから来たし、戦闘始まってまだ一時間経ってねえだろォ。こりゃ異常なんじゃねえのか?」



 仮説はあるにはある。

 だが、それをこの場で言い出しても解決は難しい。



「ひとまずドレッド君は休んでいてくれたまえ。恐らくエネルギー切れでイデオが使えなくなったのだろう」


「エネルギー切れだァ?」


「そうさ。もちろん回復手段はあるだろうが、この場で行うのは難しいからね」


「俺がさっさと回復して戻ってくりゃいいんじゃねえのか?」


「忘れちゃいけないのはだね、この戦闘の規模なら単独の野良プレイヤーが様子を見に来る可能性があることだとも。イデオが使えない状態で単独行動をして、奇襲を受けて脱落なんて目も当てられないだろう? 大人しくしていた方がいい」


「……ならどうすんだァ? セナとサトリも起こさなきゃだし、全員倒した後で不死を殺すのにも無効化は必須だろうがよォ」



 もっともな意見だが、その懸念に対する回答は、すでにこの場にある。 

 教授が指摘しようとすると、回答の方から話に割って入ってきた。



「そういうことなら、オイラに任せなよ教授ちゃん! 野郎を起こすのはちょっとばかりポリシーに反するが、教授ちゃんの頼みとあらば、オイラ手足となって働くぜ!」



 そう名乗りを上げたのは、小町班の無効化能力者である『ナッツ』だった。

 小さい背丈にニット帽、気怠げなデニムパンツが目立つ小男である。



「……それはありがたいけどね。セナ君は女の子だよ」


「そうそう、女の子を救うのはポリシーに……えっ?」


「女の子だよ」


「……」



 ナッツはそっと手を延ばし、セナの胸部に触れようとし──たところでドレッドの拳骨が突き刺さった。



「いっでえええええぇぇぇ!!」


「さっさとやれ、この変態ピーナツ野郎がァ!」


「ちがうちがうナッツは専門用語なのぉ!」



 どうにもこのプレイヤーは人格に問題がある。

 誰かが見張っていなければ、すぐに問題行動を起こすだろう。

 野薔薇あたりが毛嫌いしそうな男だ。



「うぐぐぐ、暴力反対! 女子会正解! オイラへの借りで桃色全開!」


「ハッハッハッハ! 韻を踏む暇があるなら早く助けてあげてほしいのだけどね。そろそろ私が怒るよ?」


「女の子に叱られるのはご褒美なんだよなぁオイラなぁ!」


「ドレッド君、半殺しで」


「了解だァ」


「オーケイオーライ見ててよ Show Time!」



 ふざけた態度は崩さぬまま、ナッツが指を鳴らす。

 同時に五感が回復したのか、セナの体が電気でも走ったように跳ねた。

 一瞬だけ開かれた目は、明るさに眩しがりすぐに薄目へ戻される。



「おう、無事かァ?」


「セナ君、状況報告を」


「あれ、オイラへの感謝とか惚れ展開は?」



 セナは体を起こそうとしているようだが叶わないらしく、体を震わせながら丸めていく。



「セナ君?」


「……ごめん、いきなり叫んで。叫んだ、よね? 五月蠅かった、よね」


「構わないよ。それより急にどうしたんだい? すごい汗じゃないか」


「いや、その……我慢の限界が来て」



 教授もドレッドも、能力を受けたことでその辛さは知っている。

 ドレッドは「そうかァ」と納得したようだったが、教授は疑問を持っていた。



(言い分は理解できるけど、それにしては急変しすぎな気はするんだよねぇ。まるで悪夢で目が覚めたみたいな反応じゃないか)


「げ、現状は……?」


「……ああ、小町班が合流してくれたんだ。幸君っていう子が働いてくれてね。セナ君なら彼女のことを知っているかな?」


「うん。ジャンヌが引き込んで、念のためにと要請してたはず」


「ふーむ」



 教授側も『アルモアダ』という隠し札を用意していたのだから、他班でそれがあってもおかしくはない。おかしくはないのだが──



「まあ、今は良いかな。それどころじゃあないしね!」


「……」


「ひとまず、サトリ君も起こそう。その後は突出してきている不死能力者を一人ずつ倒す。ナッツ君にはまだまだ働いて貰うよ」


「働き一回ご褒美百回! やっぱり教授の抱擁かい!?」


「ドレッドくーん」


「働き一回拳骨百回ィ?」


「無償でやらせていただきます!!」



 大慌てでサトリを起こしにかかるナッツたちを尻目に、セナは震える体を両腕で抱きしめていた。

 視線は自然とレインボーモールへと移る。

 大量の煙が立ち上ってはいるが、あの爆発の影響なのかは判断がつかなかった。



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現在、第5章を執筆中。 投稿日は毎週4日で日曜、火曜、木曜、土曜になります。

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