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「ここ、まで、くれば……ぐっ!」


「俺が解除していくからよォ、爆弾の対処だけ頼むぜ!」



 教授たち囮班は、どうにか屋外駐車場の中程まで後退することが出来ていた。

 通路に流れこむ風が止んだからと、一気呵成に飛び出してきた不死能力者たちが、続々とモールの入り口で入眠していく。


 だが、いくら離れても五感遮断が止まってくれず、ドレッドは休みなく能力を使い続けていた。



「無礼苦ゥ!」


「ううん、もう地面を転がりたくないんですけどぉ!」


「はっはっはっは! それはもう、お相手の機嫌次第になってしまったな!」



 とはいえ、爆弾という目先の危険からは完全に逃れたと言っていい。

 事実、ランダムに飛んでくる五感攻撃以外は静かになっていた。



「これで一段落、ですかね?」


「であればいいんだが、そうもいかないだろうねぇ」


「どうしてだよ。あいつ等はもう夢の中だぜェ?」


「それはもちろん──」



 教授の台詞にかぶせるように、屋外で寝こけていたプレイヤー六名が一斉に爆発した。

 人間爆弾の方は雑貨爆弾よりも威力が高いらしく、モール入り口に複数のクレーターが生み出され、舞い上がった土煙がキノコ雲を形どる。



「……それはもちろん、彼らが不死かつ爆弾だから、かな」



 爆発した六名の肉体は完全に消滅し、肉も骨も残っていない。

 この光景は覚えがある。

 大樹の根本での戦いで、ジャンヌやクロックマスターと共闘していた少年が後れを取った時と非常に似た状況だ。


 そして、あるいは予想通り、屋内から再び不死能力者たちが現れる。

 全員が、先程モール入り口で眠らされた顔ぶれだ。

 彼らは目視されないためか、消化器を噴射し煙幕代わりにしながらジワジワと侵攻を始める。



「なんで中から出てくるんですか!?」


「おおかた、肉体の一部を切り取って別の場所に保管でもしているのだろう。本体が肉片よりも粉々になれば、取っておいた方に本体が切り替わってそちらで再生する」


「それ不死っていうにはちょっとおかしくないですかー!?」


「死なないのだからちゃんと不死さ。首を切断した後、首が本体になるか体が本体になるかって疑問に近いよ」



 一歩、また一歩。

 その位置じゃ『逃げた』とは言わない、とばかりに。

 白煙の奥から多数の人影が。



「そんなの無茶苦茶──あぁう!」


「そら来たぞ、ドレッドくん!」


「少しは休みたいんだけどな! 無礼苦ゥ!」



 教授に出来ることは昏倒させるのみで、押し返すことはできない。

 完全に行動不能になれば、また新しい肉体に変わってやってくるだろう。

 敵を目視できなくなったことで、アルモアダからの援護も途切れてしまったのが痛い。

 尽きぬことのない攻勢こそ、不死の真骨頂なのかもしれない。



「くそ、野薔薇、吹っ飛ばせ! ついでに車でバリケード作れ!」


「ううううぅぅ、美少女使いが荒いですねほんと!」



 復帰してすぐではあるが、すでに十回以上も奪われていれば慣れもする。

 彼女がクイと指先を動かせば、あっという間に数台の車が風で持ち上がり、レインボーモールとの間に積み重なって防壁と化した。

 その余波に押し返されるように、煙幕もろとも不死たちがモールへと転がされていく。



「これでひとまず、不意の爆発の壁にはなるだろォ」


「上出来だよドレッド君! 今回君大活躍だな!」


「あー! 野薔薇ちゃんが居なくても全滅だったんですからねー!」


「おべんちゃらは後だァ! こっちの二人がずっと寝っぱなしだ、そろそろ起こしてやりてぇ」



 意外にもセナは大人しく、顔色も変わっていない。

 対してサトリは少し顔色が悪くなってきている。

 それでも、恐慌し叫ばないだけ強靱な精神力だと言えるが。



「そうだね、二人とも起こす余裕がある場合は、サトリくんたちも起こして──」



 ザザ ザ


 トランシーバーにノイズが混じる。



「おお、暗殺班かい? こちら教授!」



 もちろん、内部行動中の味方からの通信だろう。

 という教授の期待は、良い意味で裏切られた。



『──こちら、小町班班長の小町だよ』


「えっ!?」



 珍しく、教授の声が驚愕に上擦る。



「教授さん、小町さんって確か南担当ですよね……うぐっ」


「ああくそ休ませろよ! 無礼苦ゥ!」



 後ろで野薔薇たちが攻撃を受けている間にも、小町からの通信は休みなく流れてきた。



『ジャンヌ班の幸っていう子から救援を乞われて、北部のビル街に到着したところなのだけれど。どこへ行けばいいのかの指示を頂戴。どうぞ』


「救援……? 幸?」



 思考外の情報に、教授は咄嗟の答えを出せない。

 とはいえ、熟慮が許されるような状況でもない。

 ここは戦場で、まさに今攻撃されている真っ最中だ。



「──せろ」


「さ、サトリ君?」


「幸は、ジャンヌ班の、助っ人だ。話を、合わせろ」



 五感のないはずの男から、唐突にこぼれた反応。

 ただ事ではなく、逃すべきでもない。



「……こちら教授、北部に位置するレインボーモールにて不死軍と戦闘中! 苦戦を強いられている、すぐさま応援に来てくれ! どうぞ!」


『了解したよ。大まかな場所は?』


「ビルの7階より高所の窓からならよおく見えるだろうね!」


『わかったよ。他に特別な指示があれば言って頂戴。どうぞ』



 特別な指示。

 もちろんそんなものは教授にはないが、またもサトリが口を開いた。



「幸に……ジャンヌへと連絡するように、伝えてくれ」


「……そこに居るという幸くんに通達。すぐさまジャンヌくんへと連絡を入れてほしい。チャンネルは会議の時から変わっていない。こちらからは以上! どうぞ!」


『まるっと了解したよ。すぐに向かうから、持ちこたえて頂戴ね。通信終了』


「通信終了!」



 理外の増援に、混乱はある。

 だが、作戦に組み込んでもいなかった味方の到着は間違いなく状況を好転させるはずだ。

 

 それはそれとして。



「サトリくん、どうして通信に割って入れたんだい? 君の本当のイデオは──あぐっ!」



 再び教授の五感が消え、己の声すら定かではなくなった。


 わかっていることだ、今は味方を問いつめる時間ではない。


 教授はドレッドに起こされると、すぐさま不死へと向き直る。

 話の続きは、救援が到着してからでも遅くない。




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現在、第5章を執筆中。 投稿日は毎週4日で日曜、火曜、木曜、土曜になります。

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― 新着の感想 ―
[一言] サトリ、ここでイデオ隠蔽を暴露ですか。 五感を消す能力にも心の声を聞いて対抗しつつ状況把握していたっぽい?
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