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条件不明




「──ッ!」



 暗殺犯のリーダーであるジャンヌが、突然進軍を停止した。

 前を進んでいた大鼠も、後ろを付いてきていた他の面々も、それに併せて立ち止まる。



「どうした聖女サマ」


「……あ、いえ。大丈夫です」


「それにしては、顔色悪いけど」



 ジーニアスの指摘には苦笑で返すしかない。

 普段は自動操縦として持たせているジャンヌの自意識は、今この瞬間は完全な眠りについているのだ。

 その意識は完全にセナのもの。

 初めての完全同期に、五感が戸惑いを起こしている。



(……本来は、ジャンヌと僕の、二つの五感が入り交じって脳に負荷がかかる。けど、今だけは問題ない)



 セナ本人の五感は消されている。

 なにかしらのイレギュラーで、セナの本体に無効化能力が使用されない限りは、ジャンヌの体で活動可能だ。



「いえ、お恥ずかしい限りですが、あの時のことを思い出してしまって」


「あの時?」


「はい。不死能力には少し、トラウマに近いものがありますから」



 もちろん、この場にいる全員は経緯を知っている。

 大樹前で不死者と戦い、今なお生き残っている最後のプレイヤーこそがジャンヌなのだ。



「無理はするなよ聖女サマ」


「……必要があれば無理もしますよ」


「なら任せとけ。俺が前に出りゃ安心だ! こう見えて、誰かを守るってのは得意なんだ」



 笑う大鼠に、なんとか笑みを作って返した。

 ひとまず全員を納得させられたと判断して、もう一歩先へと進む。



「最短距離で、あの女の元へ向かいます。参りますよ」



 急ぎ指揮を執り前進を再開。

 一刻も早くあの女を叩く、ないし暗殺班で釘付けにしなければ本体が危ない。

 かといって完全にあの女を足止めすれば、攻勢が止むと同時に本体に無効化能力を使われてしまう。

 どうせ八方塞がりならば、本体が生き残れる道を優先するのみだ。



(頼むから、僕を放っておいてくれよ、ドレッド)



 燃え上がったロープの上を綱渡りするかのような窮地の中、己の手が及ばないことに歯噛みをしながら、一秒を争う戦局へ踏み出した。



~~~~~~~~~~



「ぐぁ、またか……くそ!」



 何の前触れもなく、教授が再び膝を突く。



「無礼苦ゥ! 野薔薇、いけるかァ!?」


「ま、だまだぁ!」


 

 通路に進出しかけていた敵プレイヤーと、投げ込まれる雑品を、すんでのところで風で押し返した。

 数発が起爆され爆風が殺到し、塞がった視界を能力で押し開く。

 だが直後に再び、野薔薇の五感が消失された。



「ああ、また……!」


「無礼苦ゥ!」


「ああもう、これはダメだ! 次に野薔薇くんが復活したら少しずつでも後退だ!」



 そして入れ替わりに教授が復活させられる。

 彼らの背後にはセナに加え、二度目の昏倒に入ったサトリが転がっている

 交互に五感を奪われる二名を復活させ続けるドレッドは、セナやサトリに手が回らない。



「わかってるよォ! 無礼苦ゥ!」


「う~~~、どっちが上かもわからなくなるから立ってられないです!」


「野薔薇ァ、微速後退! 外に出るぞ!」


「途中で五感消されたら大気操作をミスっちゃいますから、寝てる二人は手で引っ張ってくださいよね!」


「やるのは俺かよ……ぐっ!」



 次に倒れるのはドレッド。

 だが、ここに攻撃されるのが最も対処が簡単だ。



「無礼苦ゥ!」



 自分に向かって無効化を放つなど造作もない。

 その間は二人が起きているのだから安全は確約されてもいる。

 相手もそれはわかっているのか、ドレッドの五感を奪う頻度は少なく、奇襲に近いものだ。



「カメラの外へ出てしまえば五感を奪われなくなるかもしれない!」


「何より、モールの外の方が安全だもんなァ!」



 野薔薇を復活させて一歩。

 教授を起こしてまた一歩。

 協力者を引きずりながら、ドレッドたちは後退していく。


 叩き込んだ電気自動車の山まで下がり、通路での爆発が増えた影響で壁や店舗も加速度的に崩壊していった。



「……ここまで下がれば巻き込まれないだろう。野薔薇くんに指示、風で爆弾をカメラへ誘導だ!」


「了解! 無礼苦ゥ!」



 この防げない五感遮断さえ途切れれば、ひとまずの危険からは脱せられる。

 ドレッドはすぐさま野薔薇を起こし、セナとサトリを自分の背後へと引きずった。



「野薔薇、敵の爆弾をカメラへ運べ!」


「投擲物を吹っ飛ばしたいのか引き込みたいのか、どっちなんですか!」


「いいからやれ!」


「ああもう、言う方は楽でいいですよね!」



 地を這いながら、投げ込まれる品の中からマグカップを視認し、野薔薇は両手でコントロールを開始。

 右の手でそれ以外の品を吹き飛ばしながら、左手でカップだけが通れる風の道を引いていく。


 それは流線を描きながら天井へと延ばされ、勢いのままにカメラに叩きつけられた。


 他の品と同時に起爆。

 吹き飛んだ品も、割れたマグカップも、カメラだって例外なく跡形も残らない。



「ぐ……よくやった! 無礼苦ゥ!」


「野薔薇ちゃんにやらせればこんなもんですよ!」



 高い天井から見下ろし続ける電子の目は粉々に破壊され、剥き出しの電線だけがその場に残っていた。



「う……。どうだい、上手くいったかい?」


「破壊できました! これで大丈夫なんですよね?」


「ああ、私の予測が正しければ──」



 言い切る前に、立ち上がりかけていた野薔薇がまた倒れた。



「──くそ! カメラを壊しても止まらないのかい!?」


「どうするんだオイ!」


「撤退を続行だ!」



 敵はどうやって狙いを定めているのか。

 一切が不明のままに、囮班は撤退を継続した。



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現在、第5章を執筆中。 投稿日は毎週4日で日曜、火曜、木曜、土曜になります。

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