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五感簒奪



 時は少し遡る。

 安定した防衛線を敷いた囮班は、油断なく攻撃を防ぎ続けている。



「膠着状態、ってやつだねぇ諸君!」


「理想通りの展開だな」



 相手の戦力が不明であることや、イレギュラーの有無など、戦うには情報が不足していた。


 かといって予知で探っていくにも問題がある。

 そもそも敵側が、近い未来で能力を使用するような状況になっていなければ、予知すべき範囲は広がるばかりで時間だけが浪費されてしまうのだ。

 当初はこの襲撃全体を結果込みで予知してもらおうとも思ったが、ノウンが言うには一度予知してしまうとその未来に『向かおうとする』力……強制力のようなものが生まれてしまうため、やめた方がいいと却下されていた。


 となれば代案が必要になる。

 そして『自分は無敵だから大丈夫!』と大言を吐いた教授を筆頭に作戦が立てられたのだ。


 インフラの破壊やガス引火などの目立つ破壊工作を行える囮班と、隠密に長けた暗殺班に分ける。

 そして、囮班が収集した敵情報を元に暗殺班がリーダーを殺す、という戦略だ。



「うーん、ついに爆弾を投げ込む素振りも無くなったんですけど。他の出入り口は大丈夫です?」


「まァ、アルモアダを信じるしかねぇわなァ。上手くいってりゃ、敵が全員寝るのも時間の問題だろ」



 彼にもトランシーバーを持たせたかったが、在庫数の関係で断念していた。

 通信手段はどこも欲しがるのか、電気屋だけは荒らされてない店舗を見つけることが難しい。



「この膠着状態で相手側に出せるカードがなくなっているなら、あとは暗殺待ちでもいいと思う」


「ははは、セナくんもそう思うのかい!? 確かに、脅威となるのはあの黒い女だけなのだからそれが一番賢いな!」


「爆弾化の能力も、そもそも大気の壁を越えてきていないしね。かといって敵が僕たちを放置できるはずもない」


「こちらに無効化能力者がいることはバレてるだろうからねぇ! 敵としては吹っ飛ばしてしまいたいだろう!」


「そう。だからひとまず、アルモアダの活躍に期待しながら、いつでも逃走できるようにだけして──」



 ドサッ


 セナの話を中断させるかのように、突然サトリがその場に倒れた。



「……サトリ?」


「おおっと、体調不良かな? それとも爆風で起きた煙を思い切り吸い込んでしまったとか……」


「あ、ぁぁ、ああ、ああ、て、敵だ、敵だぁ!」



 いきなり叫び始めたサトリの不穏な言葉に緊張が走る。



「五感を消された!」


「ドレッド君!」


「任せろォ、無礼苦ゥ!」



 すぐさまドレッドが能力の解除処置へと入る。

 サトリはすぐさま復帰するが、問題は当然そこではない。



(──どうやった!?)



 能力の使用者はわかっている、あの黒い女だ。

 あいつは吹き抜けの三階に居たはずだ。

 降りてくるだけの時間は確かにあるだろう、だがどこから能力を使ったのかがまるでわからない。



(近くにいる? 監視カメラ越しに使える能力なのか? だとしたら不味い!)



 『五感を失う』という敵の攻撃を受けると戦闘不能になるのは確かだ。

 だが、セナにとってその危険度は他メンバーと意味合いが違う。



(もしも僕が食らったら、ドレッドが治療するだろう! ()()()()()()()()()()()!)



 それはすなわち、ジャンヌの洗脳が解除されることをも意味しているのではないか?

 あちらの指揮官に収まっているジャンヌが、それを原因に狂乱でもしたら、大変なことになる!



「教授、カメラの破壊を!」


「そういうことができる能力じゃないんだよセナくん! 君の小火ならどうなんだい!?」


「燃えやすい機械なんて無いよ!」


「ならサトリくんの圧縮しかない、回復に数秒かかるぞ!」



 違うのだ、ダメなのだ。

 サトリの能力は圧縮なんかじゃない。



「く、そ、どうにか対処を──」



 ブツン



 何かがとぎれる音と共に、セナの全てが暗黒に書き換えられた。



(あ……あ……?)



 一瞬、何が起こったのかわからない。

 あまりに唐突すぎて、消されるとわかっていても反応できないのだ。


 五感が消えた世界なんて、想像したこともないのだから。



(──ドレッド、僕の治療はいい! 教授と野薔薇を守れ!)



 そう、叫んだつもりだ。

 果たして自分の声が出ているのかも怪しいが、出ていなければセナのプランは崩壊する。


 上手く行くことを願うだけ、なんて。

 なんて、似合わない言葉だろう。



(暗い、何も聞こえない、何も感じない)



 死んだらどうなるか。

 人間ならばきっと、誰しも一度は考える。 


 死後の世界とか、天国とか。


 そういった期待を全て消し去った先にある死後とは。


 この何もない闇なのかもしれない。



(なるほど、確かに。これは耐えきれないな)



 本当は何もあってはいけない場所。

 そこに、自分の意識だけが浮かんでいる。


 なんて惨く、残酷な能力だ。


 このイデオを選ぶあの黒い女には人の心が無いらしい。

 こんな状態を少し味わえば、あっという間に精神は崩壊しかねない。



(けど、僕にだけは通じない)



 意識を飛ばす。

 遠方へと同期させていく。


 セナはもう一つの目がある、耳がある、脳がある。


 ジャンヌを通して見た光景が、絶望の闇の中に光をもたらした。




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― 新着の感想 ―
[一言] 意識共有洗脳の思わぬメリット。 でもこれ、平気な顔をすればするほどヤバいのでは?  どんどんスリリングになってきて面白いです。
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