闖入者:sideヒューズ
「クソ! 爆弾が全部押し返されちゃどうしようもねえ! いっそ柱でも崩して生き埋めにした方がいいんじゃねえのか!?」
警備室にてモニター越しに起爆をしていた『ヒューズ』は、どう見ても不利な戦況に苛立ちを募らせていた。
「こんなことならすべての柱を爆弾にしときゃよかったんだ! なーにがライフラインと耐久性の問題で大柱はお勧めしないだ、クソッ!」
不死者と組めば間違いなく勝てる。
そう踏んだ己の判断をあざ笑うかのように、攻撃は通用せず、しかも能力無効化まであちらにいる。
ヒューズは怒りに任せ、通信を叩いて起動させた。
「おい、ブラックゥ! 話がちげぇよなぁ? このゲームでは心理的にチームを組みづらいから、敵はまともなチームになれないって言ってたよなぁ!?」
『連絡事項がないのなら、作戦行動の邪魔です』
「どうすんだ!? 不死どもの戦意も落ちてんぞ! 秘策の一つもねえのか!?」
『……秘策ですか。そうですね、このままではお歴々も盛り下がる一方です。それに、優先して倒すべしといわれているプレイヤーも居ましたし』
お歴々、盛り下がる。
自分にしかわからない言葉をブラックは頻繁に使用する。
故にそこの理解は諦め、いちばん大事な部分だけを聞き返す。
「……なんとか、できるんだな!?」
『もう少し相手の見せ場を作ってあげようと思いましたが、肉壁が瓦解しても面倒です。少しだけ本気を出しましょうか』
「頼むぞ、オレも次の爆弾を作ってる! 巡回担当を一人捕まえたらそっちに輸送させるからよ!」
『了解しました。それでは、そこでご覧になっていてください』
「……お前の逆転劇をか?」
『いいえ。一方的なショーを』
通信は切れた。
何をするのかはまるで想像も出来ないが、ブラックは嘘だけはつかない。
「ちくしょう、ホッとしちまった……あんなクソ女の言葉で!」
悔しさとない交ぜになる安堵感。
絶対強者の隣にいるという事実は、精神安定剤となり得る。
「とはいえ……こっちもやべーな。流石にこっちはオレがどうにかしないと不味い」
ヒューズの懸念はもう一つ。
北東方面の監視カメラが次々と音信不通になっているのだ。
タイミングの良さから、侵入者の仲間が後背を突こうとしているようにしか見えない。
「だが、オレはここを動けねぇ。巡回員に号令かける以上の対策はなんかねえか?」
「ならば、こういうのはどうだろうか」
「誰だ!?」
他にだれも居ないはずの監視室に、男の声が響いた。
慌てて振り向いたヒューズの視線、その先にいるのは一羽の燕。
絶対にここに居るはずのない存在に、ヒューズはポケットからコインを取り出し構えた。
「こちらに敵対の意思はない」
「抜かせ、この一大事に薄っぺらい言葉なんぞ信じられるか」
「話くらいは聞いて貰いたいな。隙だらけの後頭部を狙っても良かったんだぞ?」
「……」
しゃべる燕が、今襲撃している勢力の手勢かは不明だ。
だが、ここでヒューズが脱落すれば、不死側の攻撃力は半分未満になる。
(敵側なら、攻撃しない理由がねぇ……か)
「話してもいいかな?」
「ああ、聞かせてみろよ。下らねえ話だったら吹っ飛ばすがな」
一見すると愛らしい見た目だが、しゃべると途端に気色悪さが勝る。
小さな口から紡がれるのが野太い男の声だからだ。
「こちらの目的は、今ここを襲撃している勢力を少しでも消耗させることだ。お前の能力は燕の目を通して見させて貰った。そのコイン、一枚預けてみないか?」
「……こいつをか?」
「その通り。こちらが判断できる最高のタイミングで、敵側に投げ込んでみせよう。悪い話ではないだろう?」
確かに、ヒューズにとっては棚ぼた話だ。
あと一手が勝手に外からやってきたのだから、これ以上の幸運はない。
問題があるとすれば、そもそもこいつを信用できるかどうか。
そして要求される見返りだろうか。
(ブラックが言ってやがったな、このゲームは政治要素があるって。お互い消えてほしいけど、このままだとあっちが圧勝しちまうから手を貸す、ってか? いよいよ舐められてるな)
いわばこの燕は漁夫の利を狙っていて、旨みを浚いたい。
けれど奴目線だと、あまりにも不死側が情けないから手を貸そうと言っているのだ。
預けてすぐ爆破でもしたらさぞや気分が良いだろうが、この燕使いから敵認定を受けて終わるだけだろう。
「見返りは?」
「倒した敵の死体は全て焼却すること」
「……は? そんだけか?」
「それだけだとも。これを約束してくれるならば、手を貸そう。どうだ?」
真意は不明だ。
だが、例えいいように操られるのだとしても、敵を削ってくれるというのなら一考の価値はある。
「突然のことだしな、身内と相談するのは構わないだろ?」
「この場で即決してもらう。お前の判断次第だ。連絡する素振りを見せるなら交渉は決裂になる」
(おいおい、ブラックのやつ警戒されまくってるじゃねえか。やり辛いな)
相談できないというのなら、この取引の件は秘密にせざるをえないだろう。
あとからヘソを曲げられたり、襲撃側に寝返られたら……たまったものじゃない。
「……まあ、こっちに余裕はねえからな。その程度なら喜んでやってやるよ。火炎放射器もあるしな」
「契約成立だな」
相手の真意は不明だ。
きっとブラックならば、うまいこと相手を捕らえ、拷問し、脅しぬき、全てを簒奪するのだろう。
(いや、だが、これでいい。オレにできることは何でもやる。騙されてたならその時だ)
ブラックはこれから大仕事だ。
その負担を増やす時間も余裕もない。
ヒューズは反対のポケットから別のコインを取り出すと、弾いて飛ばす。
燕はすぐさま飛び立ち、くわえて吸気口へと足をかけた。
いつのまにか、吸気口の蓋が壊されている。
「その瞬間はこちらが判断するが、君が見える場所で事を起こそう」
「あーあーそうしてくれ。起爆は手動なんだ。それと、そのコインは割と特別製でな。他のよりも高威力だからさっさと逃げとけよ」
「忠告感謝しよう。では、次は戦場で」
吸気口へ飛び込んだ燕は姿を消し、警備室には静寂が戻る。
己の判断が正しかったのか。
それはこの戦闘の後にわかることだろう。
「……ああ、そうだ。とにかく誰か呼び立てねえと」
しばし目を離していたモニターへと視線を戻す。
すでに北東側のカメラはほとんど消えており、被害は別の階にも及び始めていた。
間違いのない非常事態、なのだが。
「なっ!?」
ヒューズの目には入っていない。
それどころではない緊急事態が視線を釘付けにしてしまっている。
「ブラックのやつ、やりやがった!」
表示されているのは、南西側通路の様子だ。
そこでは、襲撃者が続々とその場に倒れていく姿が間違いなく記録されている。
不死側の反撃はとっくに始まっていた。
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