ジエンド
ある時期から、アングラなネット掲示板の片隅で一つの話題が盛り上がった。
『裏VRゲームで賞金100万円を獲得したんだけど質問ある?』
フルダイブ型のVRゲームは成熟期を迎え、大企業は独自のVRゲーム機を続々と発表していった。
RPGのようなコマンド選択型ゲームの数はめっきりと減り、実際に電脳空間を全身で体感する時代の到来は誰の目にも明らかだ。
そんな折り、インディーズ……つまり、個人制作VRゲームを遊べるようにする目的のVRゲーム機Esperoが発表された。
わざわざ大手ゲームメーカーの介入を断絶し、脳科学の研究所とインディーズゲームプラットフォームのタッグという異色の組み合わせに業界は大いに湧いたものだ。
そして人気が爆発した結果、クリエイターが自分の想う異世界をゲーマーへと提供する好循環を生み出している。
これがVRゲームへの敷居の低まりに貢献したのは疑いようがない。
今や綺羅星の数のVRゲームがある。
だというのにどういうわけか、VRゲーム自体に対する法整備は一向に進んでいない。
国が『ゲーム』という存在を未だに娯楽の一つだと捉えている背景を加味しても、腰が重すぎるのは明白だった。
だからこそ、都市伝説めいて黒い噂が蔓延ることになる。
常識外の賞金額が目玉の『裏VRゲーム』というのも、そういった噂話の一つだった。
そんな噂から情報を手繰り、賞金1000万円という餌にたどり着いたプレイヤーNo.31……『ジエンド』もまた、薄暗い部屋から摩天楼の都市へと吐き出されたところだった。
目を開くと異臭漂う裏路地に立ち、近くのマンホールのひび割れから下水の悪臭が鼻腔を狙い澄ましている。
思わず「おえっ」とえずいたものの、ジエンドは笑っていた。
「ははは、始まったばかりで悪いけど、もう終わりだよ!」
後も先も現状も、危険もライバルも一切合切考えていない。
そんな必要はなく勝利は決まっているのだから必要がないのだ。
運営が通すとは到底思えない、規格外どころかルール違反のイデオの発動のため、口を開いて吼える。
「発動だ、『プレイヤー:ジエンドの勝利が確定するのうりょ──』」
言い切る前に、真後ろのビルが吹っ飛んだ。
瓦礫の弾丸が全身を、脳を、口を吹き飛ばし、コンクリートと鉄筋のシェイクに巻き込まれミンチとなった。
ジエンド本人は知覚できなかったことではあるが、巨大怪獣の出現の理不尽な圧力によって、最初の脱落者は決定したのだった。
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「おいおいおいおいおいィ、VIP席がブーイングの嵐だぜえぇぇぇ? いいのかおいおい萌黄ちゃんよぉおおおお」
赤羽は心配する風な言葉とは裏腹に、喜色満面で酒瓶に口を付ける。
といってもどちらかと言えば、普段態度が大きい同僚に対してしてやったりといった面が大きいのだが。
酒で喉を鳴らす赤スーツを横目にチラと見ていた青城は、深くため息をついてからモニターへと視線を戻した。
「ごらんの通り、運営側が賭けをコントロールするために派手な能力で釣ったんだと言われていますけど? 一番人気が開始10秒で脱落じゃあ、言いたいこともわからなくもないですが」
「どうなんだ、お? テメェの担当だろうがよぉおおお萌黄ィ! あの能力者のあの配置、意図的じゃないなんて言うつもりじゃああぁぁねええだろうなあぁぁ?」
黄色いスーツの女性……いや、十代前半にも見える幼気な幹部・萌黄は、口先を尖らせて顔を不満でいっぱいにする。
「え~? 萌は、ちゃーんと開始地点は全プレイヤー配置ランダムって指示したし、能力も言葉通りのモノを実装したよー?」
「けどよぉ、記念の100回目が一分もたないで終了なんてのはよぉぉおお……興行って意味では最悪だよなぁぁぁ? 吐けよぉ、仕込んでんだろプログラミングチームがよぉぉおお!」
「あー! 赤ちゃんってば、またそうやってすーぐ疑うんだー! 萌だって、本当にいいのか何度も何度も緑ちゃんに確認したもーん! でもでも、これでいいって、興行的にも問題は起こらないだろうってー!」
「あァン?」
赤羽の万年酒漬けの笑みが形を潜め、言葉の意味を模索し始めた。
(ゲームの総括責任者サマが許可したってぇことは、『ジエンド』の脱落にそれなりの根拠があったってことだよなぁ。だが、参加者リストにゃ『ジエンド』の開幕即勝利を止められる能力なんてねぇんじゃねえのこれ? ヤラセじゃねえならなんだってんだよ)
「わっかんねええぇぇ……」
「うだうだ言ってても仕方ないんですけど? ひとまず、事情を把握してそうな緑野さんにお偉方の対応をさせます」
「そうしてそうして青ちゃん! 萌はなーんにも悪くないんだからね!」
「はいはいわかりました。赤羽さんもほら、あなたの推しプレイヤーが初の接敵をしそうですよ」
「あーーー……くそ、切り替えるかぁああ!」
高級ワインをラッパ飲みし、首を二度振ってから、赤羽はNo.27……セナを観戦するために画面を切り替えた。
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